コンビニ人間/村田紗耶香著(文春文庫)
コンビニでのバイト風景と、主人公の36歳・女である古倉の小人生的なことがつづられている。妙な感じはするにはするが、ちょっと変わった感性の女性なんだろうという風に思いながら読み進んでいた。ところが段々と常軌を逸してきて、とんでもないお話に発展していくような感覚に陥る。なんなんだこれは。
個人的な体験談であるし、小説であるが、確かにこれは社会批評でもある。主人公は変ではあるが、同時に彼女を変だとしている、おそらく我々の社会も、見方によるとずいぶん変なのだ。それが彼女を通してあぶりだされていくようで、妙な気分になる。出てくる人たちがすべてクレイジーになっていくような、まるでホラー小説のようだ。
途中から妙な成り行きで同棲することになる白羽という男が、病的に狂っていることは最初から分かる。が、その彼に同化しているわけではないのに、合わせてしまえる不思議な同棲生活が始まる。これがギャグとして面白いんだか、やはりホラーとして怖いのだか判然としない。いわゆる危うく、しかしどうしようもなく可笑しいのである。こんなことが成立するはずが無いのに、ちゃんと理屈として成り立っており、一見うまく事が運んでいくのである。これはぜひ読んでもらって体験してもらうよりなかろう。
僕は熱心にコンビニに立ち寄る人間ではないが、コンビニで働いている人など、それなりに知り合いがいる。いろいろあるけれど、コンビニで働くことは、実際は結構楽しいことなんだという話も聞く。そういうことを聞くと、なんだか意外な気もしたのだが、確かに人間関係を含めて、面白いものがあるのかもしれない。仕事も複雑だし、大変であるというのは見て取れるのに、働いている人々は、それなりにハッピーなのである。映画などで観るコンビニ風景は、なんだか社会の縮図的に問題提起されたものが多いように思うけれど、実際に働いている人たちは、そういう風には思っていないのではないか。まあ、それは小説とは関係ないことだが、そういう社会的に誤解されている風のことも含めて、コンビニはあまりにも身近なことになりすぎていて、このような小説になってびっくりしてしまうのかもしれない。著者は芥川賞を取った時も、確かコンビニでバイトしていたはずである。まったくすごい発見をしたものではなかろうか。