たぶんオリンピックに合わせて放映されたウサイン・ボルトのドキュメンタリーを見た。タイムリーじゃないのだろうけど、その間の悪さも含めて楽しめた。
ハイスピードカメラだとか何とかいう機器を体につけて、ボルトの走りそのものを解析すると、世界一早い男には、さまざまな障害といえるハンディキャップがあるらしいことが分かる。一番の原因は脊椎側湾症という病気で背骨が曲がってしまっていることで、上半身のブレが大きくなり、骨盤への負担が過分にかかったり、歩幅なども左右で大きく違うなどの、現実的には早く走るには不利と思われる症状が出ているのだという。またその骨盤への影響で太もものハムストリングという筋肉の肉離れが起こりやすいというリスクもあるらしい。それじゃあいったい何でそんなに早く走れるんだという不思議の世界だ。実際に怪我には悩まされており、レース中に肉離れを起こしてしまったこともあるようだ。太ももの負担軽減のために十分な練習もできないのだという。
結果的にはそのような障害をおぎなうために、特殊な筋力トレーニングを積み、また障害で出ている特徴をばねにして、大きな歩幅でスピードを上げる走りをしているということである。そう簡単な事らしくは無いのだが、しかし現実にボルトは速い。ただでさえ190㎝以上の身長はスタートの機敏さに欠けるといわれ、100メートル走の選手には不向きなのだという。つまりほとんど常識外れでどういう訳か結果が速いという、不思議な風景が広がっていた。その上人類が9.6秒台の壁を越えるのは、2039年という科学的予想も軽々と覆してしまった。
最後には100m走に懸ける精神性やスタート練習の取り組みなどを紹介していたが、過酷なトレーニングに耐えながら、世界一に君臨していこうとする人物そのものを描きだしていた。
しかしながらフライングのギリギリまで研ぎ澄ました集中や足の運びの研究と鍛錬をやりながら、0.001秒でもタイムを縮める努力を積み重ねる姿は尊いとは思うのだが、多くの人が知っているように、ゴール前では余裕のパフォーマンスを見せるために流して走る事を繰り返しているのは、大きな矛盾なのではあるまいか。本当は記録を塗り替えるということよりも、人に自分の存在をアピールする顕示欲の方が強いのではないかという疑問がわいてしまうのも仕方ない事だ。まあ、そういうところこそ、本当の強さの秘密なのかもしれないのだけれど。
実は今回のオリンピックの結果は忘れていたのだけど、予定通り金だったのですね。そう言えばそうだったな、と思い出した訳だが、ついでに前に少し紹介したセメンヤの結果も銀だったと知ったのだった。みんないろんな意味での障害に負けずに頑張ってください。