日本から見たら地球の反対側にあるウルグアイで、米作りに奮闘する人のドキュメンタリーを見た。
もともと田牧さんは福島を飛び出してアメリカで米作りをやった実績のある人で、なんでそんなことをしているのかというのは、追々分かっていくようになる。単純に旨いコメを世界に広めるということに情熱を傾けているわけなのだが、言下には表現されていないものの、それは日本の閉鎖性からの脱却を志しているということも感じられた。フロンティア精神とチャレンジ精神。そうしてその芯には日本の高い技術を引っ提げて、世界で戦う強さも体現している。
旨いコメである自信はあるものの、やはり文化や風土も制度も違う。坦々とレポートされているものの、作物を作ることは根気も必要だ。そして資金やある程度の計算もあるだろうけれど、ギャンブル的な度胸も必要だろう。障壁は大きかったはずだが、それでも大規模な土地やさまざまなメリットを最大限に活用して強みを生かそうとしていく。地球の反対側に通って、まさに地に根を張り巡らそうと奮闘しているのである。
日本のコメを食べてもらうために地道に啓蒙活動を重ねたり、実際にどのように旨いのかを見極める方法を確立していき、そして何より、そのような全体的なものを実にうまくアピールするということを実践していく。土壌を改良し、水を管理し、精米や米を炊くために日本の製品も同時に広げていくことにつながっていく。着実にしかし大胆に、日本人など誰もいない大地で奮闘していく姿は、本当にたくましい。
現在は日本にも帰ってきているようだが、しかしこの日本においても懸念すべき問題を指摘する。なんと、日本の基本的なお米の質が劣化しつつあるというのだ。ベースになっているものが危うくなっては、有意性のある旨いコメであるという基本的な価値が崩壊しかねない。そして日本の一般大衆は、そのことに微塵も気づいていないのである。
田牧さんと共にコメの研究者も海外へ進出して行こうとしている。日本の内向きな農業政策にあって、本来的に必要な研究の土壌が海外にしか見いだせなくなりつつあるからだ。優れた人材は、日本で活かしようが無いのである。日本の保護的な農業の現状が、自らをどんどん蝕んでしまっている。それは日本で米を作っている農家であっても気が付いてないのかもしれない。
将来的には日本のコメは、海外から調達せざるを得ない時代が来るかもしれない。それも安くレベルの高い旨いコメが国内のコメを席巻すると同時に、自滅した農業を補うという形になるに違いない。国内向けにしか意味をなさない自給率のようなインチキでかさ上げした保護政策で、国民の税金をかすめて延命しようとする国内の農業政策は、多かれ少なかれ未来の無いことは確定している。
このような海外進出を果たすような人たちが、結果的には日本を助けることにつながっていくのだと思う。日本人の生きるまっとうな道は、このような柔軟で勇気のある行動に宿っている。現在の視点から異端であるように見えかねない田牧さんのような人が、これからのスタンダートになってこそ、ひとつの日本人の未来を決めるモデルになるに違いないと感じた次第である。