春を告げる「ユーカリ」

2008-03-12 | 【樹木】ETC
 先日のブログで、アルチュール・ランボオの「イリュミナシオン」の「大洪水のあと」から、次の部分を引用した。
 《それから、新芽の萌え出たすみれ色の森のなかで、ユーカリスがおれに春だと言った。》 粟津則雄訳(1973年、思潮社発行「地獄の季節」)である。
 同じ部分を小林秀雄は次のように訳している(1938年発行の岩波文庫「地獄の季節」)。
 《やがて菫色の大樹林に芽は萌えて、有加利の樹が、俺に春だと告げた。》
 この中の「有加利」は、のちに「ユーカリ」と改められたようだ(1970年改版)。
 それにしても、ユーカリスとユーカリでは、大違いだ。詩句から思い浮かぶイメージがまるで異なってくる。
 ユーカリスは、○○百合とか、○○水仙とも呼ばれる白い花を咲かせる草本である。ユーカリは、コアラがその葉を食べる樹肌が白っぽい樹木なのだ。
 それに、「菫色の大樹林」と言われると、どのようなことかと思い惑ってしまう。「新芽が萌え出たすみれ色の森」と言われれば、まだ色が淡い若葉がつきだして、ぼんやりかすんだかのように見える森を想像できる。
 要するに、翻訳では、このようなことがよくある。この前、ボードレールの詩に関して友人と、芸術性が感じられない云々と話し合っていたので、このような事例もあると、取り上げてみた。