因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団民藝『新 正午浅草 荷風小伝』

2019-04-17 | 舞台

*吉永仁郎作・演出 中島裕一郎演出補 公式サイトはこちら 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA 28日まで1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38) 
 俳優の山田吾一から依頼を受け、吉永は永井荷風を主人公にひとり芝居の作・演出を行った。1997年6月のこと。これが吾一座公演『正午浅草』である。東京芸術劇場小ホール2で5日観上演された。そしてこのたび永井荷風生誕140年、没後60年を記念しての評伝劇が『新 正午浅草』である。荷風を演じるのは御年85歳の水谷貞雄である。本作がおもしろいのはその構成だ。時系列に物語が進むのではなく、昭和31年市川に暮らす荷風のもとに、かつての愛妾お歌(白石珠江)が訪れ、『断腸亭日乗』を読む場面を基軸とし、あるときは父(伊藤孝雄)との確執に苦悩した若き日を描き、あるときは最晩年、浅草のストリップ劇場の楽屋に入り浸る日々、果ては父親よりも年を取った荷風の夢のなかに父親が出てくる等々、時空間を行き来する点である。興味深いのは、若いころを演じる水谷が、いわゆる若作りの演技をしていないところだ。ここが森本薫の『女の一生』と決定的に違う点である。断るまでもなく水谷が若者に見えはしない。老人のまま数十年の場面に「連れてこられた」といった態、困惑が舞台に好ましい空気を生んでいるのである。観客も「無理がある」などと野暮は言わず、ゆったりと味わうことができる。

 夢の中でなお息子に小言を言う父親役の伊藤孝雄は威厳のある堂々たる造形のなかに、図らずしておかしみが出てしまうところが良い。玉ノ井の娼婦お雪(飯野遠)はけろりと明るいところに、苦界に身を沈めた女の悲しみが漂う。愛情が滲み出るように優しく、色香も十分感じさせるお歌役の白石玉枝が一転、久方の来訪の理由を告げるあたり、興ざめではあるが、そこにすら幾ばくかの情緒やかつて鳴らした芸者が寄る辺のない初老近くなって昔の男をわざわざ訪ねてくる悲哀がにじむ。金の無心より先に、ここへ置いてもらえないかと言ったのは、荷風への愛情あってのことと思いたい…そんな温かな気持ちにさせられる晩春の宵にふさわしい舞台であった。

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