因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

山本さくらパントマイム 第32回公演 『WORKS~現在、過去、そして未来へと』

2024-06-12 | 舞台
*山本さくら作・演出・出演 公式サイトはこちら 6月12日2回公演 ザムザ阿佐ヶ谷(1,2,3,4,5
 今年も阿佐ヶ谷へうきうきと足を運ぶ季節がやってきた。ステージ中央には味わい深い手書きのプログラムを乗せた譜面台があるのみ。次々に訪れる人で客席はほぼ満席の盛況である。山本さくらの「身体の言葉」による物語の開幕だ(今回は3,4,5が新作)。

1,あすなろ魂(スピリット)
 ステージに登場する山本さくらは、重い扉を開けようとするが叶わない。めげることなくエクササイズを続け、遂に!ジョギングやダンベル、縄跳びはもちろん、プロテイン飲料らしきものを摂取したり、果てはどんぶり飯を平らげ、相撲の稽古までする。これらはすべて道具無しに表現される。電気グルーヴの「あすなろサンシャイン」の歌が流れる中、。「なろうなろう、あすなろ。明日は檜の木になろう」という歌詞が山本を鼓舞し、どんどんエスカレートしていく様相がおもしろい。

2,頭山
 落語の「頭山」であり、再演である(初演は2018年第48回公演『ハーモニー』より)。今回も言葉の芸である落語を言葉無しで演じられることを楽しみつつ、他の演目も観たいとつい欲が。

3,ココロノカタチ
 山本は銀色の仮面をつけ、左右違う色を継ぎはぎしたような不思議な衣装を纏う。一人の人間のなかにいくつかの人格があり、しかも表情が仮面で覆われて、パントマイムで重要な表情での表現が封じられており、動きも非常に少ない。得意技を敢えて封印することへの挑戦であろうか。

4,虹の橋
 前場から一転、美しい音楽にのせて虹が出るまでの物語。

5.午睡(ひるね)
 「ココロノカタチ」での銀色の仮面が、上下逆さまにするとこのようになるとは!温かな日差しのなか、気持ちよく午睡する猫の生態を楽しそうに演じている。

6,ウメさん
 再演の演目だが、私は今回がウメさんとの初対面となった。きれいなパステルカラー、可愛らしいチェックの模様だが、やや素っ頓狂な衣装のウメさんが戸締りなどを指さし確認して外出する。厳重にチェックしているようだが、どこか抜けがあり、忘れ物を思い出して取りに帰るなど、高齢者の生活実態をリアルに捉えている。ウメさんは道で出会う人ともにこやかに挨拶し、常に上機嫌だが、この日は大変なハンサム氏に出会い、彼が落した財布を拾う。すぐに届けず、その金をパチンコで増やして手渡すなど(この理解で合っているだろうか)、犯罪すれすれのこともやってしまう。パチンコ屋でのウメさんの様子が大変おもしろい。これは山本さくらの財産演目として、たとえば「遊園地のウメさん」、「競艇場のウメさん」など続編を期待する。

 終演後の挨拶で、山本は自身の老いを口にした。体力を維持し、技術を磨くことは大切だが、山本は心身の変化もまたパントマイムの動き、物語に活かし、新しいステージを構築することができるのではないか。若い時と変わらない動きができるのはもちろん素晴らしい。しかし、観客もまた老いる存在であり、ゆっくりした動き(動かないこともまた「動き」である)のなかに、その人の心象を感じ取り、新鮮な作品として受け止められると思う。

 今回の公演のサブタイトルが「現在、過去、そして未来へと」であることを改めて考える。たとえば老いてますます元気で好奇心いっぱいのウメさんはもちろん観たい。しかし、天国へ旅立つウメさんもまた楽しみのひとつになるのではないか。でもウメさんのことだ。「忘れ物をした」とこの世に戻って来る可能性もあるが。
山本さくらと女性問題研究者の谷口郁子による冊子と、
公演の歩みがまとめられたもの。
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