因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

2005年のベスト5

2005-12-27 | 舞台
1,青木豪の作品  『東風』(ステージ円公演)と『カリフォルニア』(グリング公演)
2,tptミュージカル デヴィッド・ルヴォー演出『ナイン』
3,岸田國士作 『屋上庭園/動員挿話』より深津篤史演出『動員挿話』
4,永井愛作・演出 『歌わせたい男たち』
5,自転車キンクリートSTORE「テレンス・ラティガン作3作品連続公演」より マキノノゾミ演出『セパレート・テーブルズ』
番外の一本としてミナモザ公演 瀬戸山美咲作・演出の『デコレイティッド・カッター』を推す。
俳優にしぼって考えると、『幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門』の堤真一、ミュージカル『モーツァルト!』の井上芳雄。しかしこのお二方はただでさえ好きだった人がますます好きになったということでして・・・
今年もたくさんの舞台に出会うことができ、感謝。

歌舞伎俳優尾上松助丈の訃報を知る。
舞台は一夜の夢、俳優も人間である限り、肉体は消えていく。
だからこそひとつひとつを大切に味わいたい。そのときの心の動きを丁寧に書き記していきたいと思う。

因幡屋ぶろぐにお越し下さった皆さま、ほんとうにありがとうございます。
来年も頑張って観て、考えて、書きます。
どうかご贔屓に。

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十二月大歌舞伎『松浦の太鼓』

2005-12-24 | 舞台
*歌舞伎座夜の部 
忠臣蔵の外伝劇で、赤穂浪士が吉良邸討ち入りを果たした太鼓の音を聞いて大喜びしているバカ殿の話、である。
今年の芝居納めの一本にしてはちょっと・・・というのが正直な気持ちだった。
夜の演目は一本めが『重の井』で、三吉を演じた中村児太郎くんの頑張りは嬉しかったが、客席はいまひとつ盛り上がらず、二本めの玉三郎主演の『船弁慶』は楽しむには難解で、できれば最後はいい気分で過ごしたかった。
その気持ちが通じたのか、松浦のお殿様を演じる中村勘三郎の風格と愛嬌に客席はすっかり虜になってしまった。
大いに笑いながらも本懐を遂げた浪士たちの心情にホロリとさせられ、「ああ楽しかった!」と心から喜べる舞台であった。

忠臣蔵は仇討ちに直接関わった人物はもちろんのこと、周辺の人々からも多くのドラマを生み出した。
先日NHKで「仇討ちに参加するか、しないか」を視聴者からアンケートを取りながら討論する番組を放送しており、自分はとうとう最後までどちらか決められなかった。
辛抱強く耐え抜いて仇討ちを果たした四十七士には文句なく感服するが、そうしなかった、できなかった人々の「一分の了簡あり」という気持ちにも寄り添いたいのである。
誰の作かは失念したが、こんな句があるそうである。
「熱燗や 討ち入りおりた者どうし」
向き合って何も言わず酒を酌み交わしている男たちの姿がみえる。
討ち入りに加わったもの、おりたもの。どちらにも言葉に言い尽くせない思いがあり、それを想像すると胸が熱くなる。

今年の観劇はこれをもって終了。刺激多く恵まれた一年に感謝である。
「2005年のベスト○○」は別途近日中に。







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『セパレート・テーブルズ』

2005-12-18 | 舞台

*テレンス・ラティガン作 マキノノゾミ訳・演出 全労済ホール/スペース・ゼロ
秋からのラティガン祭りの締めくくりにふさわしい舞台である。休憩をはさんで3時間半の長丁場だが、見終わったあとの充足感は予想以上で、幸福感さえ感じた。
郊外にある小さなホテルで、そこの滞在客たちの人生が描かれている。まるで住居のようにホテルに長期滞在するということがあまり実感できないのだが、ここで過ごす人々はほとんどが人生の最後の時間を静かに過ごそうとしている。そこへ飲んだくれのジャーナリストのジョン(坂手洋二)や、美しいアン・シャンクランド夫人(神野三鈴)がやってくると、とたんに波風が吹き始めるのである。



ウェイトレスのドリーン(小飯塚貴世江)の存在がおもしろかった。赤毛のちりちり頭はミュージカル『アニー』を思い出させる。口の聞き方も立ち振る舞いもひどいものだが、彼女が客たちの心情をいちばん察しているのである。第一幕、元夫婦であるジョンとアンが、こわごわと一緒のテーブルにつく。ドリーンはきっと好奇心まるだしで下品に振る舞うだろうと思ったら、「お茶、こっちで飲む?」「これからはずっと一緒のテーブルにする?じゃあランチからそうするね」。実に自然で、全てを察している。余計なことを言わない。彼女がこう言ってくれたことで、元夫婦はどれだけ嬉しく安心したことだろうか!第2幕の終わり、ポロック少佐(菅原大吉)に向かって「明日の朝食はどうする?」と尋ねる場面も同様である。誰もが気にしながらどうしても言えない一言を、ウェイトレスは仕事上必要なこととは言いながら、きちんと聞いてくれるのである。誤解してごめんなさい。ドリーン、あなたがいてくれてよかった。



ラティガンの3つの作品は、今年後半の大きな収穫であった。いよいよ芝居が好きになり、人間が好きになれたような気がする。悲しいことも辛いこともあるが、やはり人生は美しい。そう思いたい。



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グリング第12回公演『海賊』

2005-12-18 | 舞台

*青木豪 作・演出 ザ・スズナリ
グリングの最新作にして客演の笹野鈴々音(風琴工房)の代表作、の感あり。
劇中笹野演じる時田百合のことを「あの子、自分を武器にしてるよな」という台詞が、彼女の存在をずばり言い当てている(この場面、場内は大爆笑になった)。
夏に新宿シアタートップスで上演された『カリフォルニア』の続編と言える作品である。
自分としては『カリフォルニア』のほうが好みであるが、みながら客席ぜんたいが舞台に向かって前のめりになっていくような緊張感と盛り上がりを感じた。
しかしながら本作は笹野鈴々音の存在なくしては成立せず、これはあて書きのもっとも幸福な事例であり、同時に違うキャストでの上演はほぼありえないだろうと思われる点で、作品としてある意味限界であることをも示している。

カーテンコールでグリングの次回公演が来年12月、新宿の紀伊國屋ホールで上演されると発表され、客席からため息がもれた。遂にここまで、との嬉しい思いと不安の入り交じった複雑な雰囲気であった。



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佐藤正隆事務所『リタの教育』

2005-12-12 | 舞台
*ウィリー・ラッセル作 吉岩正晴・芦沢みどり訳 高瀬久男演出 下北沢OFFOFFシアター
これで四回めの観劇だ。もういいではないかと思うものの、どうしても足を運んでしまうのである。
いつものセット、いつもの幕開き、みるたびにどんどん元気になっているような富本牧子のリタ、あまり老けないでいてくれるのが嬉しい有川博のフランク。
あの年の上演のあの場面、台詞の言い方は、仕草はどうだったか。
これまでの記憶が一気に押し寄せて、胸がいっぱいになった。
話はわかっているのに、目が離せない。
わかっちゃいるけど、やめなられない。
それが『リタの教育』なのである。

第一幕第一場、大学の社会人講座を受けようと若い美容師リタがフランクの部屋に飛び込んでくる。
やる気のないフランクは彼女に受講をやめるように言い、彼女は肩を落として部屋を出て行く、とすぐに戻ってきて強引に生徒になってしまう。フランクはあっけにとられている。
満面の笑みを浮かべて再び部屋を出て行くリタをみていると、不意に涙が。
「リタを生徒にしてやってよ、フランク」
心の中でそう言っている自分に気づいた。
こんな気持ちになったのは四回めの今日が初めてである。

この作品がどうして自分を魅了してやまないのか、女優富本牧子の魅力とともにもっと考えたい。
これまでの上演との比較という視点ではなく、リタのように正直に一生懸命に。


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