因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

明治大学シェイクスピアプロジェクト第15回公演『ヴェニスの商人』

2018-11-10 | 舞台

*ウィリアム・シェイクスピア原作 翻訳・学生翻訳チーム・コラプターズ プロデューサー・関口果穂 演出・山﨑心 監修・青木豪 公式サイトはこちら1,2,3明治大学駿河台キャンパス・アカデミーホール 11日で終了
 明治大学シェイクスピアプロジェクト(以下MSP)が今年上演するのは、15年前の第1回公演(その当時は「明治大学文化プロジェクト」と言った)の演目である『ヴェニスの商人』である。 学部も学年も越えた学生カンパニーは年々参加者が増え、今年は150名を超えているとのこと。学生劇団や学内演劇サークルではなく、大学が主催し、父母会や校友会などの強力なバックアップがあり、卒業生を中心としたプロの演劇人がワークショップ講師を務め、プロスタッフも関わるとはいえ、それだけに期待も大きく、プレッシャーもさぞかしと
察する。

 パンフレットに掲載の青木豪のことばが心に留まった。今回演出をつとめる山﨑心が悩みながら奮闘し、模索している様子に、「ただ、どうも山﨑さんには『どうしても見たい景色』があるようです。色々トライしているのだけれど、どうもそこに帰ってきてしまうアイディアがあり、そこには何の理屈も根拠もなく、生理的にどうも向かってしまう絵がある。僕はそこに、彼女の『強さ』を感じています」とのこと。「理屈」とは、言い換えると論理的な思考のもとに構築された演出プランであり、周囲からも理解され、客観的な有効性があって説得力があるものということであろうか。青木曰く、「理屈」のもつ怖さは、ある日突然、誰かの助言で変わってしまうところにあり、根拠なく惹かれるという「感情」は、揺らぐことなく持ち続けられるものであり、「山﨑さんにはそれがある」と断言している。

 これは舞台の演出に限ったことではないだろう。自分に引き寄せてみれば、目の前の舞台について論理的に思考し、必要な文献を読んで理解し、きちんと構築された文章を書かなくてはならない、そうでなければ感想文ですらない!とずっと考えてきた。しかし自分には、どうしても心にひっかかる台詞、俳優の表情や声、舞台と客席に生まれる空気があり、揺れ動く自分の心というものから逃れられないのである。

 さて『ヴェニスの商人』であるが、何とやっかいな作品を選んだものかと思う。とくに最後の裁判の場面など、人種差別、宗教差別的描写凄まじく、後味も良いとは言えない。

 アントーニオ(西山斗真)という人物について考えてみる。主要人物でありながら、存在意義が曖昧で、結婚という大団円の輪に入り切れていない。冒頭からもの憂げであるが、その理由もはっきりしない。裁判に勝って命が救われた喜びと安堵はあるにせよ、将来への希望も感じさせない。誰とも寄り添わず、冒頭と同じ位置に佇み、冒頭と同じ群舞シーンを見つめる。もしや彼は…?という密かな疑問にみごとに応えているのが、MSP卒業生であり、今回ワークショップ講師をつとめている西村俊彦氏のブログである。

 青木氏の挨拶文を読んだのは観劇前である。山﨑さんがどうしても見たい景色が、今回の舞台のどこなのか。わたしは自分の立ち位置から、「その意気で行け!」と密かに祈りつつ、舞台を見た。そして冒頭と同じくもの憂げに佇むアントーニオに当たっていた光が消えた終幕の一瞬、そしてカーテンコールで堂々たる風格でシャイロック役の安井秀人が登場して万雷の拍手を浴びたとき、「わたしが見ようとした景色」の手ごたえ得たのである。

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「くちびるの展会」 

2018-11-09 | 舞台

*山本タカ作・演出 公式サイトはこちら 新宿眼科画廊 13日まで1,2,3,4山本タカ大学時代の劇団公演記事は→ 1,2,3,4,5,6,7,8,9
 タイトルは「くちびるの会」展ではなくて、「くちびるの展会」である(11月の予定記事訂正いたしました)。劇作家・演出家の山本タカによるプロデュースユニットが、旗揚げ5年めとなった。山本自身もじきに三十路の節目を迎えようとしていることもあり、「くちびるの会の『今まで』を全部見られるような公演ができないかと思い」(公演リーフレットより)、展示会的なタイトルの本公演となったとのことだ。5人の男性俳優による短編の3本立てはいかに?

『ごうわん』…東京ではないどこかの地方の町のゲームセンターに何となく通っているふたりの男(薄平広樹、加藤ひろたか)。高校を出てフリーターをしている。新しい商業施設のあおりか、このセンターはもうじき閉店が決まっている。店内にすでに若者のすがたは少なく、むしろ老人が目立つ。どうということのないやりとりに始まるが、将来の夢や展望もなく、20代が終わろうとしていることへの焦燥感や、まるで自分たち自身のようなゲームセンターが無くなってしまうことに対する悲しみや怒りが次第に湧き上がり、刃物というより、そうだ、紙で指先を切ってしまうような微かで、しかしなかなか治らない傷を受けたような結末を迎える。時間こそ短いが、しっかりした会話劇である。

『ネクラホマ・ミクサー』…3人の男性の高校時代から30代前半までの日々を描く。好きな女の子をめぐるあれこれ、就職したり、大学の演劇サークルからそのまま役者業を続けたり、結婚はするものの、あまり幸せそうではなく、それでもときどき会って酒を飲む仲だ。10年を超える年月の移ろい、学校の校庭、どこかの居酒屋、路上など場所の転換も多いが、30分足らずの物語のなかで無理なく見せている。これも痛い話であり、30歳というのは、どうしても節目を意識してしまうものなのだろうか。

『猛獣のくちづけ』…この10月に開催された「せんだい卸町アートマルシェ2018」参加作品で、東京版に改訂されての再演である。地方都市の物流倉庫で働く非正規雇用の男性たちの日々を描く。前2作ともに、就労形態がその人の人生に及ぼすものを突きつけており、社会派劇とまでは言わないものの、日常会話を周到に連ね、今の世相に翻弄される人々の心象を次第に炙りだしていく様相は、山本の作風の変容を感じさせる。
 が、本作にはまさかの「ワニ」が登場し、怪奇的ファンタジーというのか、都市伝説的な要素が加わり、さまざまな大道具や小道具を駆使して(これもまさかの展開)物語を大いに盛り上げる。

 およそ2年半ぶりのくちびるの会であり、山本タカの舞台であった。遊び心的な表現がより大胆になったこと、出口が見えず、努力しても報われる保証のない今の社会の暗部を描くことなど、新しい持ち味が少しずつ生まれていることを実感した。3本いずれも、じっくりと稽古を重ねた安定感がある。よき仲間を得て、挑戦の場を持てたことを喜びたい。

 それにしてもここにも「生産性」という言葉、それが持つ狭量で、想像力の乏しいこの世のありようが示されるとは。

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講演会「文学座の80年と今」

2018-11-01 | 舞台番外編

*公式サイトはこちら 11月1日(木)17時~18時 共立女子大学神田一ツ橋キャンパス本館B101 共立女子大学・短期大学総合文化研究所主催 文学座、共立女子大学文芸学部OGネットワーク協力
 先月27日から同大学本館ロビーで「戦後新劇と文学座」と題したポスター・資料展示が行われており(8日で終了)、その関連イベントとして講演会が開催された。演劇評論家の大笹吉雄氏が文学座の歴史、『女の一生』と長らく主役の布引けい役を務めた杉村春子のことを語り、後半は2016年から4人めのけい役をつとめる文学座の山本郁子氏が登壇した。

 文学座創立までの動き、どのような作品と経緯を経て、杉村春子の芸質が具体的にどのようなものであり、それによって『女の一生』が上演され続けてきたこと等など、いろいろな媒体で執筆もされ、発言もされていることであるが、今さらながら、一切のメモ、資料を見ることなくよどみなく語る大笹氏の講義に圧倒される。杉村春子先生、やはりあなたは、只者ではありませんでした。

 山本郁子氏は『女の一生』東京公演を終えたばかり。もっといろいろな話を伺いたかったが、時間が押して十分でなかったのは残念であったが、まさに今充実のときを迎えようとしている俳優が発する力強く、清々しい「気」は、こちらの心も晴れやかにする。こちらの想像の及ばない重圧があり、さまざまな試行錯誤があるだろうが、山本郁子の布引けいを確立してほしいと願っている。同時に、けい役はもちろんのこと、これからできるだけ多くの俳優に『女の一生』の舞台を担ってほしいと思うのである。

 大笹氏によれば、これほど長きに渡る『女の一生』の上演は、歌舞伎、新派とも柔軟に共演した杉村春子の持つ芸の幅が成し得たこと。この芸風を継承するのは非常に難しいことであり、伝統芸能ではないのだから、特定の俳優の芸を受け継ぐのは必須ではないとも考えられる。最初はなぞる、真似ることに始まっても、最終的には、その作品に必要であり、適した演技に到達すること、それも共演者とのバランスを考えた上で、そしてその俳優個人の個性が活かされれば最高であろう。100人を超える俳優が所属する大所帯で、一人ひとりが十分な活躍の場を持つことは非常に困難であるが、そこに「アングラ演劇」が活かされる可能性はあるのだろうか。終盤の質疑応答で、ひそかにわたしが聞きたかったことである。

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T-PROJECT vol.13『ダム・ウェイター』+『ヴィクトリア駅』

2018-11-01 | 舞台

*ハロルド・ピンター作 喜志哲雄翻訳 村田元史演出 下北沢「劇」小劇場 4日で終了 
 前者は一昨年の板橋ヴューネ2016において、ピンター三作品『別の場所』として観劇しており、後者はダブルキャストで交互上演された2004年のシス・カンパニー版を見ている(リンクは公式サイトのもの。この時点でまだ当ブログは開設しておらず、感想メモも残していない)。
 本公演については、カンフェティのWEBインタヴューに詳しい。公演名の記載は上記の通りだが、上演は『ヴィクトリア駅』、休憩を挟んで『ダム・ウェイター』の順である。田中正彦は、あれは80年代の終りであったか、劇団昴公演『セールスマンの死』の息子役、それも次男のハッピー役を思い出す。風貌からすれば、その後演じた長男ビフのほうが合っているのだろうが、自分はハッピー役の田中が、中盤で女性をナンパする場面、気後れする兄に、「兄さん、あの娘(こ)、落ちるよ」と自信に満ちて断言する口調に惚れ惚れした。今回の相手役である森田成一(まさかず)は、初めて拝見する俳優さんである。

『ヴィクトリア駅』舞台上手にタクシー会社の事務室、下手に座席とハンドルだけのタクシーのセットがそれぞれ据えられている。指令係と運転手のやりとりは最初から噛み合わず、精神に異変をきたしているのは運転手なのだろうが、指令係もまた緩やかに日常の感覚から滑り落ちそうな危うさを滲ませて、背筋にうすら寒いものが走るのである。指令係と運転手は無線の声で通じており、互いの顔は見えない。しかし観客には両者の顔が見えている。どちらのほうが怖いかを想像すると、たったひとりの空間で、声だけを聞いている指令係の困惑といらだち、諦念と恐怖のほうがはるかに強いのでは?

 会話のなかで、運転手が不思議そうな顔で自分の座席あたりを見回したり、終盤で眼鏡を外したりする。自分でも意識しないうちにどこか妙なところへ迷い込んでしまった人が、それをむしろ幸福と感じているかようでもあり、この短い劇に詩的な味わいをもたらしている。前述のWEBインタヴューでは、冗談めかして、「森田が指令係で、田中が運転手のバージョンも」という話が出ていたが、それも十分アリと思う。

『ダムウェイター』ある建物の地下室にベッドがふたつ並び、殺し屋のベン(田中)とガス(森田)は、そこで上からの指示を待つ。上手のドアは調理場とトイレに、下手のドアは廊下に通じるらしい。どういう組織なのか、どんな目的によるものかは明かされない。絶妙のタイミングでドアの下から封筒が際込まれたり、タイトルの「ダムウェイター」すなわち「料理昇降機」からオーダーのメモが降りて来たり、最後まですがたを表さない支配者の動向に、ふたりは翻弄される。オーダーは「ステーキの煮込み、ポテトチップス」などと、レストランのそれに等しい。ベンは手持のビスケットや牛乳をトレイに乗せて、昇降機を上げる。調理場があるとしてもふたりはコックではないのだから、料理が出せるわけもなく、オーダーの内容が何かのたとえであり、隠語のように機能しているわけでもないらしい。

 ベンとガスは一応コンビを組んでいるが、ぴったりと息が合っているとは言いかねる。見えない組織は、彼らをどうかしようとしており、そのことに対するベンとガスの意識には温度差がある。

 わかりかけたかと一瞬喜んでも、次第に確信が持てなくなったり、1時間足らずの短い芝居であるが、ずっと集中することもむずかしい。しかし観客の疑問が解決されること、謎の解き明かしを観客に提示することが本作に限らず、ピンター作品の眼目ではないと思う。従って観客もまた、作品の理解を最終目的にしなくてもよいのではないだろうか。無意味な料理のオーダーや、それに全く応じられないベンとガスの行動などなど、観客に「どうも変だな」と疑問を次々にもたらして、あの結末へ一気になだれ込む様相は、観客をさらなる疑問と、『ヴィクトリア駅』よりももっと鋭い恐怖を抱かせるのである。

 もしかすると、「今回もやっぱり理解しきれなかった…」という敗北感を噛みしめることと、「この次はもっとどうにか」と密かに決意することが、観客としてのピンター作品の楽しみ方ではないかとすら思うのである。

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因幡屋11月の観劇と俳句の予定

2018-11-01 | お知らせ

 今年もあと2カ月となりました。心身守られ、無事に歩むことができますように。観劇の予定をお知らせいたします。どこかでお目にかかれますでしょうか?
T-PRPJECT vol.13『ダム・ウェイター』+『ヴィクトリア駅』
 ハロルド・ピンター没後10年特別企画 短編2本立て。カンフェティに詳しいインタヴュー記事あり。
「くちびるの展会」 →タイトル訂正いたしました。くちびるの会1,2,3,4は、劇作家・演出家の山本タカによるプロデュースユニットである。今回は5人の男性俳優による短編の3本立て公演を行う。山本タカ大学時代の劇団公演記事は→ 1,2,3,4,5,6,7,8,9
*明治大学シェイクスピアプロジェクト第15回公演『ヴェニスの商人』1,2,3
 今年も明治大学のシェイクスピア劇の季節が巡ってきた。100人を超す学生たちが大学を挙げての一大イベントに挑戦する。
ビニヰルテアタア第11回公演『言問う処女』(1
 
入谷のイベントスペースSOOO dramatic!パラレルワールドをテーマにした千絵ノムラ3年ぶりの新作を上演するとのこと。毎回のゲストも楽しみな公演。

ウテン結構 第1回公演 雨々アメ作・演出『アリス式海岸不思議岬邂逅』
 この風変わりな名を持つユニットは、スタートと同時に3年間
で5公演を行うことを発表し、公演を重ねるごとに1ステージずつ増やすことを宣言している。「雨天決行」ならぬ、何があっても決行の気合いであろう。その旗揚げ公演、確と拝見したく見参いたします。
劇団7度 
板橋ビューネ2018参加『dim voices』1,2,3,4,5,6,7
 6月に上演した『アンティゴネ』が、サブテレニアンに舞台を移して新たによみがえる。
*新国立劇場小劇場『誰もいない国』 ハロルド・ピンター作品を寺十吾が演出する。
 
出演の柄本明は、最愛の妻であり、俳優として最大の盟友である角替和枝を見送ったばかりだ。俳優という仕事の喜びも辛さも分かち合い、励まし合ってきたであろう人への思いは察するに余りある。どうか無事に初日の幕が開き、いつものように飄々と、そしていつも以上に鋭く危険な芝居を見せてくださいますように。

*吉例顔見世大歌舞伎 
 顔見世というと、初芝居とはちがった華やぎと、もうじき年の瀬という切なさもあって、何だか好きなのです。昼の部『十六夜清心』が楽しみです。
*シアタートラム ネクスト・
ジェネレーションvol.11 らまのだ『青いプロペラ』
 2015年の旗揚げ公演から
着実にステップアップした劇団が、ついにシアタートラムへ登場。あの空間をどう活かすか。1,2,3,4,5

 俳句関連は次の通りです。もう早速本日十六夜句会が!まだ句が出来ていない!!
*十六夜句会・・・時雨、落葉 そして今夜の席題は?
*かさぎ俳句勉強会・・・霜、寒菊、大根
*演劇人句会・・・冬めく、七五三 「ニシ」詠み込み
*金星句会・・・水鳥、鰤起し

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