*青木笙子原案 長田育恵作 丹野郁弓演出 公式サイトはこちら 17日まで 日本橋・三越劇場
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戦争の足音が迫る昭和7年、築地小劇場に始まった新劇運動への弾圧も激しさを増す。生活に窮した女優たちは、女優たちによるアルバイト斡旋業「仕事クラブ」を考え出した。芝居を、生きることを諦めない女優たち。奈良岡朋子を筆頭に民藝の中堅、若手の女優が共演する。
厳しい世相や弾圧にもめげず、ひたすら演劇を愛し、劇団を守り、女優として生き抜こうとした女性たちの感動秘話では決してないことが、本作の重要な点であり、魅力である。むろん彼女たちは懸命に生きようとするが、4人の女優は決して一枚岩にならない(なれない)。衝突も裏切りもある。
プロレタリア作家の夫が検挙され、自分もまた当局の取り調べに耐えた三木淳子(中地美佐子)、劇団随一の美貌を誇りながら売れっ子俳優を夫に持ち、その女癖に泣かされ続けている新山えつ子(吉田陽子)、貧しい家に育ち、辛抱強い性格や知性がわざわいして、本来なら賞賛のことばである「聖処女」を、揶揄として浴びせられる中田雪枝(桜井明美)、食べていくこと、つまり金に敏感で、自分に惚れている男を手玉に取る一方で、「同志的結合」の相手に利用される江川たまみ(藤巻るも)。彼女たちを励まし、ときに諫めて支える新築地劇団の演出家の夫人で、舞台衣裳を担当する生方鈴子(新澤泉)。そして劇団民藝女優筆頭の奈良岡朋子がベテラン女優役で…と思いきや、汽車に乗り遅れたまま何となく劇団の賄いをすることになった老女・秋吉延である。劇団、女優たちと不思議な距離感を持ち、飄々と振る舞う自然体の人物で、舞台に奥行きとより複雑な味わいを醸し出す。
泣く場面において、女優たちはしばしば号泣する。その状況はまことに辛く悲嘆の極みであることはたしかだが、たとえば床に倒れ込んで泣き崩れる様相は、舞台の絵面としてはある種の「決め」であるものの、「あまりのことに涙も出ない」悲しみの造形も見たい。また再会や無事を喜ぶとき、抱き合う所作が非常に多いことも実は気になるのである。これもただの久しぶりではなく、大変な困難を乗り越えたのちの抱擁ではあるものの、今風の「ハグ」はそぐわないと思うのだが。
女優たちのがんばりは清々しく、まことに気持ちのよい舞台なのだが、終盤で一気に暗い影が差す。この物語はまだ昭和7年なのだ。これから日中戦争がはじまり、太平洋戦争の泥沼に突入、敗戦まで10年以上もある。世相は厳しく暗くなる一方といってよい。また秋吉延が帰っていく広島でどのような悲劇が起こるかを知っている観客は、この劇の終幕から得も言われぬ重苦しさを感じ取らずにはいられないのだ。今は新たな戦前であると警鐘を鳴らされている。その2017年最後の月に舞台から手渡させた課題はまことに重く、手に余るのである。
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