因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

オフィス上の空 6団体プロデュース「1つの部屋のいくつかの生活」より

2019-04-12 | 舞台

公式サイトはこちら 吉祥寺シアター 14日終了 
 同じ舞台美術(二階のある日本家屋)、60分の上演時間という条件のもとに、2団体で1組の公演とし、公演チラシの色分けで言うと、赤(mizhen、シンクロ少女)、青(鵺的、かわいいコンビニ店員飯田さん)、黄(アガリスクエンターテイメント、Straw&Berry)計6団体が競演するものだ。青の舞台を観劇した。
 鵺的 高木登作・演出『修羅』1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17
 富裕な旧家の四姉妹。それぞれ夫がいる。長女の招集で4組の夫婦が一堂に会した。姉妹たちは皆離婚したいという。4組とも夫婦関係はとうに壊れているが、夫たちは別れたくない、別れる理由がわからないと言う。仕事を辞めたり、芝居に血道をあげていたり、彼らの旗色はいいとは言えない。さらに長女の夫をのぞく3人の男たちは皆浮気をしたことが暴かれる。しかもその相手の女が実は…。

 男女の性愛に濃厚で動かしがたい血のつながりが絡み、これまでの鵺的作品に登場したキャラや設定がみっちりと仕込まれ、ここまで来ると壮観だ。特に劇団を主宰しているという三女と四女の夫たちの言い分には、小劇場系の演劇状況について、作り手の揶揄とも自虐とも思えるさまざまなが台詞に書かれており、客席は大いに沸く。皆がエゴをむき出しに罵り合うなかで、長女(川添美和)はまったく動じず、不気味なまでに落ち着いており、その夫(今里真)はただ一人浮気はしておらず、物腰も柔らかだ。一方的に離婚を言い渡され、義弟たちはキレたり暴れたりするが、彼はそれもできない。ふと今里真がチェーホフの『三人姉妹』のクルイギン(次女マーシャの夫)を演じるのを見たくなった。妻に疎まれ軽蔑され、ほかの男に心を移す妻を許し、受け入れる男である。優しさという仮面のもと、非暴力という暴力で妻を支配する夫という造形もあり、今里にはその両方ができると想像するのである。これは二枚目役のヴェルシーニンよりも魅力的だと思うのだが、いつか実現しないだろうか。

 かわいいコンビニ店員飯田さん 池内風作・演出『我がために夜は明けぬ』
 こちらは近未来の宇宙船ツアーに参加した人々の群像劇である。旅行者が交代で食事の準備をしていたり、乗組員が風呂の故障に四苦八苦していたりなど、宇宙船というより「海の家」のような長閑さがある。しかし乗客はそれぞれ面倒なキャラや背景の持ち主で、逃げようのない宇宙船という特殊空間のなかで、人々の関係は一発触発の危うさを孕む。
 同じ舞台美術を使うが、鵺的との大きな違いは、舞台上手にピアノが置かれたことだ。冒頭登場する人物の一人がドヴュッシーの『月の光』をたっぷりと、さらにエルガー『愛の挨拶』を演奏し、それからやっと芝居が本格的に始まるのである。この場面から受けた違和感や戸惑いを表現するのはむずかしい。舞台上で実際に楽器を演奏するというのは、ありそうでなかなかない設定であり、俳優にも相当の負荷がかかる。見る側としても、そこに何らかの必然性、作劇の意図、劇的な効果を探ってしまうのである。冒頭の違和感は予想外にあとを引き、劇中さまざまな場面でつまづき、初見の劇団をじゅうぶんに味わうことができなかった。

 終演後にさらに困惑したのは、客席に配布された当日リーフレットが、団体名と題名、スタッフと協力者、オフィス上の空と各団体の次回活動予定がごく大まかにしるされた1枚きりで、作・演出者名、出演俳優名も記載されていないことである。物販のパンフレットや上演台本を買えば済むことではある。またツイッターで配役表を提示してくださった俳優さんもあり、その情報はありがたく参考にさせていただいたが、公演チラシに本公演の企画内容として、「お客様にはシンプルに楽しんで頂き、作る側には新しい出会い刺激になれば」と掲げるのであれば、何らかの工夫、配慮をと願うのである。

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