因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

文学座有志による企画公演『アズ・イズ 今のままの君』

2011-03-25 | 舞台

*ウィリアム・M・ホフマン 作 沼澤恰治 訳 中野志朗 演出 公式サイトはこちら 文学座 新モリヤビル1階 27日で終了
 当日リーフレットに演出の中野志朗の挨拶文が掲載されており、本作は1985年、「当時のニューヨークのゲイ・コミュニティにおける空前のエイズ騒動に取材して」書かれたものとのことだ。自分が「エイズ」のことを知り、日常会話で見聞きしたのは86年か87年ごろと記憶する。当時はまさに罹患したら最後、死に至る病であり、同性愛者のなかで広がりつつある特殊で恐ろしげな、自分とは遠い場所にあるものという認識であった。その後ゲイを題材とした芝居、そのなかに半ばお約束のように折り込まれるエイズの話題に、よくも悪くも次第に「慣れる」感覚になっていった。
 それから20年以上もたった今はエイズに対する知識や認識が変わり、何より劇団フライングステージ(1,2,3,4,5,6,7,89) の舞台との出会いが、同性愛に対する自分の意識はもちろん、演劇人生に多大なる影響をもたらした。同性愛やエイズは決して舞台上の設定ではなく、自分の人生、日常と同じく現実に存在していることが実感できる。
 80年代のニューヨークで、ゲイのカップル(ソール/横山祥二、リッチ/斉藤祐一)が登場する。リッチがエイズを発症し、リッチがそれを受け入れるまでを、2人の家族や友人、ホスピスワーカーや医師などを絡めながら描く1時間50分の物語である。

 建て変わった文学座に行くのはこれがはじめてで、アトリエの手前に「新モリヤビル」がある。舞台と同じ高さから客席が組まれた作り。壁も床も黒く塗られ、床には椅子が数脚、壁にはさまざまな衣装、小道具類が掛けられている。出演俳優は白と黒のシンプルな衣装で、ソールとリッチ以外は壁にかかった上着や帽子などを加えながら複数の役柄を兼ねる。

 冒頭、ホスピスワーカーの女性(麻志那恂子)が客席に向かって語りかける。舞台の照明が思ったより強く客席にあたり、また人物との距離も近く感じられ、ホスピスワーカーぜんたいのたたずまいが、舞台の人物というよりも客席に向かって語りかけるという強い方向性をもっていることに戸惑った。客席を舞台に巻き込んだり、物語の一部に見立てる設定は珍しいことではないが、今回の舞台はどのあたりを狙ったのだろうか。前述のように主演の2人以外は多くの役を兼ねるが、その演じ継ぎ、演じ分けも巧みで混乱することはない。さまざまな立場にある人々の思惑のなかで、リッチは自分の病を、ソールは病のパートナーをどう受けとめていくかという物語の主軸が次第に明確になっていく過程が本作のみどころになるが、出演俳優がはけることなく、ずっと板付きで通すことや電話のコール音やカーテンを閉める音を俳優が音声で表現すること等々、これまで別の舞台で体験していることもあって、とくに新鮮に感じられないのはまだしも、微妙な違和感があったのはなぜだろう。舞台から発せられる熱気をどのように受けとめればよいのか距離感を測りかね、終始迷いながらの観劇となった。
 ホフマン自身のセクシュアリティがどうであるかも少ながらず重要になると思うが寡聞にて自分は作者のことを知らず、本作がはじめての作品になった。原作にどこまでどのような指定があったかがわからないのだが、戯曲を読めば俳優が演技する上で客席との距離をどう取るか、そして客席が舞台に対してどのような在り方をするのかが多少はわかるかもしれない。本作上演について、関わった方々の並々ならぬ思いは舞台からも公式ブログからも伝わってくる。はじめてみる俳優さんも数年ぶりの方(1,2)もあり、若手中堅ベテランが力を尽くして実現した舞台だ。国中が震災の影響で揺れ動く日々、劇場に身を置いてようやく平常心を取り戻せた。『アズ・イズ』はいろいろなアプローチでの上演が可能な作品であると思う。病は医学で克服できても、同性愛への偏見、家族の確執に人種問題や宗教が絡むとそう簡単に解決はしない、永遠の問題である。本作をエイズと同性愛を題材にしたものと決めず、ひとりひとりがかけがえのない人間であり、互いが互いを「アズ・イズ 今のままの君」であることを認める過程を描いたものとして、ニュートラルな状況で何年か後にもう一度出会いたい。

 

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