因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団民藝公演 『二人だけの芝居-クレアとフェリース-』 

2016-04-12 | 舞台

*テネシー・ウィリアムズ作 丹野郁弓翻訳・演出 公式サイトはこちら 東京芸術劇場 シアターウェスト 21日まで その後茨城県水戸市、千葉県市川市を巡演。1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21
  『叫び』のタイトルで推敲が重ねられたテネシー・ウィリアムズの作品が本邦初演の運びとなった。女優クレアに奈良岡朋子、彼女の弟で座付き作家兼俳優のフェリース役に岡本健一が客演する。奈良岡と岡本の交流については、ふたりが出演した『徹子の部屋』(3月7日放送)や、今回の公演パンフレットの対談にも詳しい。森光子の『放浪記』に出演していた奈良岡朋子に感銘を受けた岡本が楽屋を訪ねて以来交流がはじまった。19歳のときに蜷川幸雄演出の『唐版 滝の白糸』で初舞台を踏んだ岡本は、「舞台に立ち続けたい」と願うようになり、舞台中心の活動を展開している。所属しているジャニーズ事務所のなかでは特異な存在であろう。
 憧れの奈良岡朋子との初共演は2011年の『ラヴ・レターズ』であったが、読み合わせの際、奈良岡は岡本に実に辛辣なダメ出しを行った。「ひどい役者ねと言われて」と岡本は苦笑していたが、それまで自分なりにしてきたつもりが、演技の基本的なことを言われて、相当な衝撃を受けたという。2011年と言えばほんの5年前である。この時点で岡本はみずから演出も手がけるほどであったから、とても新人俳優とは言えないキャリアの持ち主だ。その彼が滑舌や息つぎなどすらできていないというこの国の演劇状況についての考察はさておき、厳しいダメ出しに凹むことなく、奈良岡の懐に飛び込んで研鑽を重ね、今回の舞台に出演する岡本の意気込みはいかばかりかと想像する。

 クレアとフェリースの姉弟は、地方公演のさなかに劇団員たちから狂人扱いされて古びた劇場に置き去りにされる。やがて来る観客を満足させようと、彼らはフェリースが書いた二人芝居の稽古をはじめる・・・というのがあらすじである。見る者を戸惑わせるのは、ふたりがその現実をどう受けとめているのかがよくわからない点である。狂人扱いの末に置き去り。さぞかし劇団員たちへの怒りや恨みがと想像したが、自主的にこの場にいるとさえ思われるほどである。姉のクレアはたしかに情緒不安定なところはあるが、それは女優という職業を考えれば許容範囲であり、その姉をなだめながら稽古を進める弟のフェリースもまともに見える。

 となると、この物語の設定にすでに何らかの「虚」があるとも考えられる。ふたりが稽古する芝居も、芝居のせりふがいつのまにか彼らの地の言葉になったり、両親が悲惨な亡くなり方をしたということが物語のことなのか、姉弟の両親のほんとうの過去なのかも判然としない。この不安定や不透明、方向性のはっきりしない点に身を委ねることができれば楽しめる作品であり、乗り切れないと集中できないであろう。

 奈良岡朋子は86歳という年齢が信じられないほど台詞は明晰で緩急自在の安定感があり、からだの動きも敏捷である。40歳年下の岡本健一は素直な演じぶりで大変好ましい。「ベテランの胸を借りる」、「体当たりの熱演」というより、知的でしなやか、硬質と見せて柔軟性もあり、それらが技巧や計算ではなく、「この戯曲のこの台詞をどう発することが的確か」を試行錯誤したのではないか。カーテンコールの岡本の立ち姿に、「献身」という言葉が思い浮かんだ。

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