因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

プレオム劇プロデュース第3回公演『脚光を浴びない女』

2019-04-19 | 舞台

*中島淳彦作 福島三郎演出 公式サイトはこちら 24日終了 下北沢/ザ・スズナリ
 本作は2015年、劇団ハートランドで初演された。今回病気療養中の中島に代わって、丸福ボンバーズの福島が演出を担って再演の運びとなったものだ。気心の知れた座組がさらなる進化(深化も)を目指して再び集結。意気の高い舞台となった。

 埋立地に建てられたその団地は、かつては工業団地として賑やかだったが、築五十年を超えた今、取り壊しをめぐって住人たちの心を波立たせている。そこに住む女たちの日常と、仲の良い隣人にも言えないそれぞれの深刻な事情、右往左往する様相が描かれる。キャラやエピソードの羅列ではなく、一人ひとりの背景と事情が演じる女優の個性と相まって生き生きとした舞台になった。大西多摩恵演じる初老の女性とその夫の話は、ドタバタ人情劇に陥りそうなところを引き締め、ぞっとするほど暗い淵を思わせる。一方で芸能界に憧れる少女が殻を破り、めちゃくちゃなダンスをする場面は中年、老年となった女たちの希望でもあり、しかし、この少女もいつかは夢に破れるときがおとずれることを残酷に予感させるものでもあり、複雑な味わいを残すのである。

 先日登場人物が実際に楽器を演奏することについて考える機会があった(こちら)。本作の目玉はまさに女たちによるバンド演奏であり、それに至る練習風景である。母親にもらった5万円の小遣いで「ギターを買いたい」という発想にはじまるのはいささか強引ではある。しかしそれを補ってあまりあるのは、エレキギターの扱いにあまりに疎い女性が、パート先の同僚を引き込み、あれよあれよという間に隣人にフォークギター、キーボード、ドラムまで持ち込ませ、最後にはバンドメンバーではない他の登場人物もそれぞれ鳴り物をもち、歌と演奏によるカーテンコールになだれ込む様相だ。緩いテンポの歌であるにも関わらず、「怒涛」「圧巻」と感じさせる力業である。

 残念なのは、当日リーフレットに配役表がなかったことだ。登場する女性は総勢10名。情けないが自分は観劇中にすべての役名を覚えられなかった。魅力的な女優方であるから、このブログ記事についても俳優名で書くことに問題はないのだが、たとえば唯一フルネームで覚えているのは、田岡美也子演じる団地の女ボス「アマチマリエ」である。取り壊しに絶対反対の立場をとり、住民たちにもそれを強要する。反対の理由というのが拍子抜けするほどで、いっそう反感を買ってしまうという役どころである。あの歌手の「天地真理」をあからさまに想起させるこの役名が、「真理恵」なのか、「まりえ」あるいは「マリエ」なのか。観劇すること、終演後に振り返るとき、大切な情報なのだ。リーフレットは回覧板を模した形で、出演者全員の顔写真とプロフィール、コメントが掲載された立派なものだ。ここに一言「天地真理恵」とあれば大変嬉しいのである。

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