*木下順二作 丹野郁弓演出 公式サイトはこちら 紀伊國屋サザンシアター 28日まで (1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16)
一昨年『夏・南方のローマンス』、昨年の『白い夜の宴』に続いて、劇団民藝が丹野郁弓の演出で木下順二の戯曲を上演する。前ニ作が硬派のリアリズム演劇とすれば、今回の『冬の時代』は劇作家の力の入れよう、方向性を異にする作品ではないだろうか。
長く続いた明治と昭和にはさまれた15年間の大正は、第一次世界大戦やロシア革命、関東大震災など国内外で激動の時代であった。その一方で、大都市における大衆文化や新しい生活様式が形成され、学校に行く子どもたちの数が増え、高等学校はじめ、公立、私立、単科大学などの創設が続き、、一部の知識人や上流階級の人々だけでなく、一般の市民が楽しむ文化が生まれた。新聞や雑誌の発行部数が爆発的に伸びた時代でもある。
東京・四谷にある「売文社」の執務室で、楽天家の社長・渋六はじめ、ショー、ノギ、不敬漢、デブ、飄風と呼ばれる人々が議論を戦わせている。渋六は社会主義者で文学者でもある堺利彦、ショーは社会主義者の荒畑寒村、瓢風はアナーキストの大杉栄と、実在した人物があだ名や愛称で登場する。
タイトルのとおり、物語の設定は日本の初期社会主義者たちが徹底的に弾圧された、まさに「冬の時代」、「暗黒時代」と言ってもよい。しかし売文社に出入りする人々は時代の風などぶっとばさんばかりに元気で明るい。
劇団民藝に書き下ろされた本作は、1964年に初演された。半世紀を経たいまの日本はあらたな「冬の時代」にあるとも考えられ、時を得た上演であろう。
公演パンフレットには、演出の丹野郁弓が本作に悪戦苦闘する様子を率直に記している。まず「戯曲に書かれている日本語が読めない」。読めない漢字、意味のわからないことば、事柄にも聞き覚えがない。「ということはつまり、耳で聞くしかない観客にはもっと理解されないかもしれない、という恐怖が襲い掛かる」。さらに本作は「ほとんどが長いセリフだけで構成されている」ことも指摘している。丹野は、ひとりの人物が滔々としゃべる長台詞を、「そこにいる人物たちが共有する、と考えた」とのこと。膨大な台詞をひとつの塊として客席に届けようとしたそうである。
「この試みが吉と出るか凶と出るかは初日を待つしかないのだけれど」。
観劇前に演出家の試みについて読んでいれば、もしかすると舞台の印象が変わったかもしれない。残念ながら自分の観劇は、演出家の懸念が当たってしまったようだ。冒頭から、客席後方まではっきりわかるほどプロンプが聞こえ、さすがにその箇所だけではあったものの、台詞の言いだしが複数の人物でかぶったり(本作に平田オリザばりの同時多発会話の指定が?)、言いよどんだり場面が散見し、冷やひやして集中できなかったことは残念だ。演技がこなれるころを見計らって、上演の中日以降に観劇すればよいのかもしれないが、初日には初日にしかない緊張感や味わいがある。観客はその日を目指して劇場に足を運ぶのだから、せめて台詞はきちんと聞かせてほしいのです。
帰宅してパンフレットをじっくり読み、この作品の輪郭や核を探ってみる。歴史が激しく動くとき、市井の市民が何を考え、どう生きようとするか。人物その人というよりも、「歴史」が生きもののように立ち上がり、客席に迫ってくる。木下順二戯曲をみるとき、重苦しさや内に秘めた激しさに、「自分には受けとめる力がない」と打ちのめされる。それでも台詞のひとことでもいい、何かを掴みたいという願いが湧きおこる。舞台を楽しむというより、勉学、修業の心持ちなのだが、そこには「演劇を楽しむ」というわりあい素朴な味わいがあることもたしかなのだ。
舞台をみた、戯曲を読んだというずっしりした手ごたえ。これが木下順二作品の醍醐味である。
今回の『冬の時代』について、自分はアプローチのしかたをまだ模索している状態である。数年まえに上演されたパラドックス定数の『インテレクチュアル・マスターベーション』の印象も思い起こしながら、演出家が「木下順二流エンターテインメント」と位置づける『冬の時代』にもう一度向き合おう。あの時代の人々がどんな思いで生き抜いたのか、もっと知りたい。
フェイス・ブックに公開ページ
<戯曲「冬の時代」を語る>
https://www.facebook.com/fuyunojidaiokataru
をたちあげています。
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ブログでは個別にデータアップ
「冬の時代」に関連した各時代の社会主義、主義者に関しては各ブログでデータアップしています。
大杉榮
http://osugi.doorblog.jp/
初期社会主義/赤旗事件など
http://1906-1909.blog.jp/
大逆事件
http://taigyaku.blog.jp/
因幡屋ぶろぐにようこそお越しくださいました。
FB<戯曲「冬の時代」を語る>拝見し、勉強させていただいております。
1本の戯曲によって歴史をより深く知ると、現在を生きる方向も見えてくるのではないかと思いました。