因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

龍馬伝第39回『馬関の奇跡』

2010-09-26 | テレビドラマ

これまでの記事
(1,2345,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,2223,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38
 今夜から龍馬伝は最終章に入る。薩長同盟から倒幕、大政奉還への道、それは龍馬がこの世での人生を終えるときが近づいているということだ。新しい章の冒頭は毎度おなじみ、大財閥に成りあがった岩崎弥太郎が坂崎紫潤の取材を受ける場面にはじまる。龍馬を英雄視する記事に弥太郎は不満と怒りをあらわにするが、母親の美和(倍賞美津子)は息子を諌め、「岩崎弥太郎には坂本さんのことを語る義理があるはずだ」と諭す。この龍馬伝は岩崎弥太郎の龍馬に対する複雑にねじくれた感情をベースにしている。嫉妬、羨望、恨み、嫌悪がありながら、どうしても忘れることができない。一種の愛とも言えよう。咳きこんだ弥太郎はわずかに血を吐く。激動の幕末を生き抜いて成功を収めた彼の人生もまた、もうあまり長くはない。

 第1回の冒頭、「龍馬の話を聞かせてほしい」と願い出る坂崎に、「自分はあの男が大嫌いだ」と敵意むき出しに叫ぶ弥太郎が涙を浮かべていたことを思い出す。あの涙は何の涙なのだろうか。今回弥太郎は長崎を訪れ、引田屋の座敷でお元(蒼井優)に会うが、「憎しみからは何も生まれない」(←訂正しました)という龍馬のことばを弥太郎がずっと忘れずにいたことが示される。お元が「みんなが笑って暮らせる国にする」という龍馬の言葉を、「おめでたい人だ」と言いながらも、その一言に希望を抱いていたのと同じように。そう簡単に世の中が変わるわけがないじゃないかと絶望しているのに、そんな世の中になればどんなに幸せだろうという気持ちが抑えきれない。「坂本さんは人の心をざわめかせる」とお元はつぶやくが、失いかけていた小さな希望に火を灯してしまうのが龍馬なのだろう。

 龍馬たち亀山社中は長州軍に合流し、高杉晋作(伊勢谷友介)率いる奇兵隊の人々と交わりをもつ。武士ではなく、農民や商人などが身分の上下に関係なく力を合わせて生き生きと必死で働く様子に、新しい世の中を築きたいという思いをいっそう強くする。数の上では圧倒的に不利な長州軍が夜の闇に乗じて幕府軍を奇襲し、勝利を収める場面は地鳴りのような音楽、スローモーション映像が効果をあげて、大スクリーンでみる映画のような迫力だ。

 9月26日付朝日新聞に暉峻淑子氏が次のように語っている。「日本人も一歩踏み出して行動を起こしてほしい。同時代を生きる人間の義務です。一度力を合わせて社会を動かすを自信がつき、生活も楽しくなります。豊かな生活を求めて競争に勝ったところで、不幸だけが増えては意味がありません」。龍馬と奇兵隊の人々が酒を酌み交わす場面で言われたとしても違和感なく聞けるだろう。同時代を生きる人間の義務か・・・。

 再び弥太郎の話。龍馬が長州軍に加勢していくさをしたと聞かされた弥太郎は激怒する。ほんとうに龍馬を嫌っているなら、「そらみたことか」とせせら笑って終わりであろう。「あの嘘つきが」と怒るのはずっと「喧嘩をしないで世の中を変える」と言っていたのになぜだ?と思うから、心の底で、龍馬の言うことを信じようとしていたからではないだろうか。
 

 

コメント

視点vol.1『Re:TRANS』

2010-09-23 | 舞台

MUミナモザ1,2,3,4,5,6,7,8,9)、鵺的(1,2)による短編コンペティション 公式サイトはこちら 渋谷ルデコ4F 26日で終了
 タイトルの示す通り、鴻上尚史の『トランス』への返信をテーマに3人の劇作家が30分~40分の短編を書き下ろしたものだ。『トランス』の舞台は2回みており、鈴木裕美演出の98年版は戯曲に忠実で手堅い作り、対して2008年の多田淳之介演出版は刺激的であったことは確かだが、戯曲の世界からいささか乖離している印象も否めないのだった。本作は全国で1000近くの集団で上演されており、鴻上の作品のなかでもっとも上演回数の多い作品だそうだ。改めて読み直してみたが、戯曲『トランス』は実におもしろかった。こんな言い方をするとあんまりだが、実際にみた舞台よりも戯曲を読むほうがおもしろかったと言ってもよい。魅力的な戯曲に出会えることは幸運だが、それは「じっさいの舞台をみるよりも、戯曲を読んで自分の脳内で想像する舞台のほうがおもしろくなってしまう」という、不幸でもあるのだった。

 さてルデコの『Re:TRANS』である。
 鴻上作品をベースにしているわけではなく、3人ないしは4人の男女が登場し、本家の設定のごく一部を使っているので、本家本元を知らなくてもじゅうぶん楽しむことはできる。むしろ本家にあまりこだわらないほうがよいと思う。

 1本めは瀬戸山美咲の『スプリー』。病室で男(宮川珈琲)が両足と右手を怪我して横たわっている。やがて現れた女(木村キリコ)は、白衣を纏っているところをみると医師らしいが、やおら男の上に馬乗りになって胸を押し始める。苦しさに驚いて目覚める男。何するんですか、肋骨を折るのよ、なぜそんなことを。男の言うこと、反応はまともであり、女は圧倒的に無茶である。この極端なやりとりに、男の主治医であり、女の元愛人のカサイ(実近順次)が加わって話はますますおかしくなっていく。看護士がストレスのはけ口に患者の肋骨を折っていた実際の事件をモチーフにしているとのことだが、自分は寡聞にてその事件のことを知らず、ついさきごろ報道された、患者の足の爪を剥がした容疑で逮捕された看護士が無罪判決を受けた事件が頭をよぎり、肋骨をなぜ折るのかという話のどこに着地点を探せばよいのか迷っているうちに、緊張が緩んでしまった。そのあたりから男が「僕はあなたに肋骨を折られるだけのことをしたんだ」と語り始めた。男と女のやりとりは、それまでの大騒ぎが嘘のように静かで深く哲学的、詩情すら漂う。
 短編はいろいろな面でむずかしさがあるのだと思う。劇作家が伝えたいこと長編よりも凝縮する必要がある。かといってあまり早く本題を示してはみるほうもおもしろくない。まして瀬戸山美咲は筆の運びが慎重な劇作家である。どのあたりで加速するのか、みるほうもエネルギーの配分がむずかしい。2時間の長編に書き膨らますよりも、もっと短く凝縮した作品にするとどうなるのだろうか。観劇から数日たって、ずっと考えている。
 2本めは高木登の『クィアK』。あるゲイ(今里真)と彼のなじみの男娼(平山寛人)、ゲイの男性と「やりたいんです」と彼から罵詈雑言を浴びせられながら、部屋に居つづける女(宮嶋美子)。セクシュアリティが揺らぐ男女の歪な三角関係だけでなく、奴隷のように虐げられていた女が最後の最後になってゲイの優位に立っていることが示される様相にはぞくりとするほど隠微である。『スブリ―』とは逆に凝縮しすぎて、ずっと緊張を保ってみることはできたけれども、暴力的な言動が続く描写はいささかつらい。人物が話している内容よりも、彼らが発する大声や乱暴な言葉遣いに反応してしまう。もっと抑制した演技で、セクシュアリティが混乱していくさまを見たい。
 3本めの『無い光』含め、「もっと書ける方々ではないか」という思いを強く持った。鴻上尚史の『トランス』への返信という不敵なコンセプトを掲げるからには、もっと研ぎ澄まされた鋭いものをみたい。それは物語の設定が特殊にすることや、異常な人々を登場させることや、彼らに乱暴な言動をさせることでもないと思う。

 今回は受付開始と開場が同時であり、これは受付が終わって場合によっては長いことルデコの階段に並んで待たなくてよいメリットもあるのだが、エレベーターで4Fまで昇ってきたお客さんが、「受付開始はまだなので階段に沿ってお並びください」と、階段をかなり下まで降りなければならないという流れである。当日精算や整理券の配布がある場合が多く、まずは会場階まで昇って受付を済ませてから開場まで並んで待つ。この流れに慣れている身にしてみれば、今回の方法は少々もどかしいものであった。自分は演劇制作の事情を知らないのでもしかすると見当違いを言っているのかもしれないが、たとえば1階の入り口にスタッフを1人配置したり、張り紙1枚しておけば、わざわざ4Fまで昇ってから階段を下りなくても済むのではないか。また今回は3作が掲載された上演台本が販売されており、終演後買い求めたのだが、帰宅して開いてみると印刷状態の悪いページが何枚もあった。自分が購入したものが運悪くそうだったのかもしれないが、たとえ500円のお値打ち価格であってもお金を取るのだから、販売前にチェックはしてほしいと思う。

 おやま、小言が多くなってしまいましたね。すっきりしたデザインのチラシやチケットはセンスの良さを感じさせ、視点プロジェクトの試みは劇作家の旺盛な演劇活動を促進し、これからもっと刺激的な企画に発展していく予感がするのは確かで、2時間楽しめた。しかし自分は強欲なのだろう。もっと深くもっと鋭く、もっと豊かなものを求めたいのである。

コメント

因幡屋通信36号完成

2010-09-20 | お知らせ

 あと数日すればほんとうに秋らしくなるとの予報、信じて辛抱します。
 さておかげさまで因幡屋通信36号が完成いたしました。今回のお題は以下の通りです。
 それぞれブログ掲載の記事をリンクいたしますので、ご参考までに。
*十七歳のあなたへ 鵺的第2回公演『不滅』より
*会いたかった人 劇団フライングステージ第35回公演『トップ・ボーイズ』より
 えびす組劇場見聞録35号は、
*方向音痴の演劇的楽しみ 劇団印象第13回公演『匂衣』、第14回公演『霞葬』より
 今回から京都芸術センターさんへ設置していただけることになりました。
 ありがとうございます!心より御礼申し上げます。

 ですが!さっそくにお詫びがございます。
 因幡屋通信「会いたかった人」文中に、俳優中村伸郎さんのお名前を記したのですが、「中村伸」になっております。本日各設置先劇場へ発送後に気づきました。あんなに大好きな方のお名前を間違えてしまうとは、まったくどうかしております。ほんとうに申しわけありません。
 9月も後半になり、あっというまに秋が過ぎ冬が来そうな予感。そうすると通信&見聞録ともに次号の締切が近づいてきます。完成してひと息ついたら頭を切り替えて、また観劇と執筆に励みます。
 

 

コメント

ガラス玉遊戯vol.3『サマータイム、グッドバイ』

2010-09-19 | 舞台

*大橋秀和作・演出 公式サイトはこちら 下北沢「劇」小劇場 19日で終了
 劇団、劇作家ともに初見だが劇団印象公演の『匂衣』『霞葬』で好演していた龍田知美が出演することが観劇の決め手となった。

 南の島の民宿が、開業10周年のお祝いをしている。あるじの佐紀子は島の人間ではないが、夫亡き後、島の人々に溶け込み、大変な努力をして民宿を切り盛りしてきた。祝宴に集まっているのは従業員はじめ、ご近所さんやたまたまこの日に泊まりに来ていたお客さんなどで、皆が佐紀子を信頼し、ともに喜んでいることがわかる。
 そこへ佐紀子の妹がやってきた。東京で経営コンサルタントをしている。和気あいあいとアットホームな雰囲気の民宿であるが、経営は思わしくない。妹はそれを建て直すために来たのか?
 

 姉の佐紀子を演じる藤野節子は気品があって美しく、この人なら地元の人々も「佐紀子さんのためなら」と協力を惜しまないであろうと想像する。対してひとまわりも年下の真紀を演じるのが龍田知美である。仕事柄であろうが、姉のやり方が甘く、たった2人の従業員の教育すら満足にできていないことや、なあなあの雰囲気で肝心の宿泊客へのもてなしが不十分であることなどを、来た途端に次々とあげつらう。やがて島の暮らしを記録映画にしたいという女性監督や、島の将来のために民宿をやめさせようとする地元の権力者がやってきたり、緩い空気の民宿が危機に瀕していることがわかる。

 登場人物の造形は少し大仰なところがあるものの、本筋に大きく関わらない人物についても、その心情や背景がきめ細やかに描かれており、「困ったお人だ」と思っても、次第に「そういう事情があるならしかたないか」と思わせるのである。家族を捨てて島にやってきた向井恵子(菊地奈緒/elePHANTMoon)しかり、自分の殻に閉じこもり、ハワイアンを暗く歌う従業員の明日香(山口真由子)しかり。
 なかでも龍田知美の真紀はやはり目を離せない人物で、前述の内容と若干矛盾するが、出番も台詞も多いのに、彼女の背景や事情についてはなぜかあまり明確にならない。どういうつもりでやってきたのか、ほんとうは何をしたいのか、どうもよくわからないのである。そこが自分にはおもしろかった。龍田知美をみていると、チェーホフ『三人姉妹』のイリーナや、岩松了の『赤い階段の家』のすず江、野田秀樹の『半神』のシュラなど、この人が演じる舞台をみたいという気持ちを掻き立てられる。古典から現代劇まで演じられる柔軟な力をもっている女優さんではないか。自分は無性に、ミナモザの瀬戸山美咲の舞台で、同劇団の看板女優木村キリコと向き合って火花を散らす龍田知美をみたくなった。それもこれまでみてきたあの役というわけではなく、これから瀬戸山美咲が生みだすかもしれない作品なので、どんな物語か、どんな役かもわからない。想像の域を越えた勝手な妄想に近いものだが、自分にとってはぞくぞくするほどの夢なのである。

コメント

龍馬伝第38回『霧島の誓い』

2010-09-19 | テレビドラマ

これまでの記事
(1,2345,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,2223,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37
 西郷の計らいで、龍馬は妻のお龍を連れて薩摩で療養することになった。京や江戸の喧騒がうそのような山中で湯につかりながら、この国の行く末を考えると自分がこの場にいることがもどかしい。そんな思いをふっきるかのように、龍馬は霧島へ向かう。

 ほとんどオールロケで、霧島の雄大な自然、濃霧に包まれた神秘的な情景に圧倒される。
 龍馬たち夫婦の案内役をした吉井幸蔵という少年がとても可愛らしくて凛々しく、龍馬は親しい相手は呼び捨てにするが、彼に対しては終始「幸蔵さん」と一人前の大人の武士として接しているところが好ましく感じられた。
 世はいよいよ倒幕に向かって動き始めている。多勢に無勢の長州藩。一貫していくさをしないで世の中の仕組みを変えるという龍馬が、長州に加勢することを決める。志を曲げるのかと詰め寄る亀山社中の面々を一喝する龍馬だが、このあたりの描写にもう少し説得力がほしい。龍馬が暗闇に向かって剣を一振りすると、それまで流れていた音楽がぱたりと止んだ。ここに彼の決意が示されているのだろうか。
  後藤象二郎(青木崇高)と岩崎弥太郎の場面は次第にコント的おもしろさも見られるようになった。英語の通辞をつけてほしいと願い出る弥太郎のところに走ってきたのはジョン万次郎(トータス松本)。香川照之とトータスの顔立ちが似ていて、2人が向き合って手を取ると漫才かと見まごうほど。今回の放送で龍馬伝第3部が終わり、次週よりいよいよ最終章に入る。岩崎弥太郎の語りにあったように、誰が生き残るのか、この国がどうなるのか、濁流のごとき時代の荒波はますます激しくなるばかりである。

コメント