真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「団地妻 隣のあへぎ」(2001/製作:国映株式会社・新東宝映画株式会社/製作協力:Vシアター/配給:新東宝映画/監督:サトウトシキ/脚本:今岡信治/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・増子恭一/協力プロデューサー:岩田治樹/音楽:山田勲生/撮影:広中康人/照明:高田賢/編集:金子尚樹/録音:西岡正已/助監督:堀禎一/監督助手:吉田修・管公平/撮影助手:橋本彩子/照明助手:山根怜・向谷内隼人/編集助手:坪田光恵/ネガ編集:松村由紀/録音助手:岩丸恒・永口靖/タイミング:安斎公一/タイトル:道川昭/ダンス指導:中澤源太/現像:東映化学/録音スタジオ:福島音響/制作応援:大西裕・坂本礼・菅沼隆・榎本敏郎・躰中洋蔵・永井卓爾・横井有紀/協力:竹内宏子、上田耕司、鏡早智、佐藤かおり、三和映材、東洋照明、不二技術研究所、フィルムクラスト、オオタ・ダンススクエア、池田一誠、北村育大、堤智彦、金子拓矢、秋庭修二、岡田大吾、中尾歩、松田洋和、伊藤一平、金晋弘、野本哲也、船木賢悟、青木勝紀、小暮今日子、杉浦昭嘉、斗桝佳之、今井こうすけ、三好保洋、土屋智子、海上操子、請盛博行、大塚みこ、渡辺国寿、熊谷睦子、松島政一、松本智大、鮎原啓一、田口良子、平井聖子、林真由美、山川多恵、田中信行、藤本祥和、武田克弘、淵上路菜、福俵満、小林康宏、中村恵、梶田満穂、邑、梶原誠司、増田庄吾、中谷千絵、西尾百合子、高橋孝之助、田村亥、田村郁子、田村七海、横田佳保里、上野俊哉、鎌田義孝、最上義昌、瀧野みち子、金森正/出演:伊藤猛・中川真緒・田尻裕司・佐々木ユメカ・斎藤つかさ・吉田修・成瀬しのぶ・川瀬陽太)。
 結構古い団地の室内をカメラが徘徊、中川真緒が横になつてゐる、お胸の膨らみがエモい。電車の音に、女は寝返りを打つて起動。煙草に火を点け、立ち上がり携帯灰皿を開けたタイミングで、隣の部屋から嬌声が洩れ聞こえて来る。一般的に、四階ごと忌み数を避けてゐるとも考へ難いゆゑ、二つ上の階?―後述する石井が五階とされる―の空き部屋に忍び込んでゐた三階の黒田幸子(中川)は、情事の気配に催したワンマンショーを手短に完遂。果てた幸子がこてんと再び横になりかけると、スーツの田尻裕司がずかずか上がり込んで来る。それはさうとこの団地、空室に鍵はかゝつてゐないのかよといふのは、それをいつては始まらない原初的なファンタジー。男は、もしくは男が当の空き部屋お隣の石井勝男(田尻)で、となると石井家で致してゐるのは勝男の妻と、その間男。正直軽く不気味な勝男と特異な状況、それ以前の身の危険に居た堪れず、その場を離脱した幸子がダッシュで家に戻ると夫の五郎(伊藤)が部屋着で缶ビールを飲んでゐた。腰に爆弾を抱へる五郎が、夫婦生活の求めを頑強に拒んでタイトル・イン。と、ころで。五郎といふか要は伊藤猛が、腰をいはした人間らしからぬ無造作なムーブを、ところどころで散見させるのは地味に目立つ俳優部の不用意か、演出部の詰めの甘さ。
 配役残り、佐々木ユメカが勝男の配偶者で、“お互ひ結婚しても好きなこと”をするといふのを最初からの方針、もしくは方便としてゐる光子。容姿も肢体もエッジの効いた、時代の流れに埋れた逸材といつて差し支へあるまい斎藤つかさは、酔つてへたり込む五郎に接触する、ホテル代とか無心しておきながら、薄汚いだ何だ説教すら垂れる面倒臭い宿無し。吉田修は車がエンコした五郎がやつとこさ辿り着いたスタンドの、まるで要領を得ない店員。あと膨大な協力部が幸子と勝男が遊びに行く居酒屋なりディスコ、その他往来やバスの車内等々にジャブジャブ投入される。問題が成瀬しのぶも兎も角、川瀬陽太が何処に見切れてゐたのだかマジのガチで皆目サッパリてんで判らない謎。音声情報で、くさめだけでもして呉れれば気づくやうに思へるのだが。阿呆みたいに混んだディスコの渦の中に、放り込むか紛れ込まされたりした日にはそれこそ正しく知らんがな、ウォーリーか。そ、れと。2022年のこの期に改めて耳にする、ブレイクビーツが悪い意味でヤバい。当時からクソだつただろといはれてしまへば、確かにさうかもね。
 直截にいふと何せ詰まらない分、長い道程だつた、直截にもほどがある。素のDMMで―R15の―バラ売り動画を視聴する、正調国映大戦第四十三戦は、漸くの思ひでサトウトシキ団地妻をひとまづ完走した、トータルでは多分五本目に当たる2001年第二作。五郎が―石井と遊んで―遅く帰宅した幸子に詰め寄り、無理から事に及ばうとしたところ、腰が起爆するシークエンスで何時か何処かで観てゐたのを思ひだした。あと矢張り戯れに革でキメた五郎が、てれんてれんラテンで踊り始めたはいゝものの、案の定腰が弾けかける件と。
 連れられたパチンコで勝つた幸子は、居酒屋・ディスコと店を重ねた石井と偶さか距離を近づける。満足に構ひもしない癖に、一日帰りの遅い妻に猜疑を募らせた五郎は、尾行してみた幸子が、石井と茶店にて歓談する光景にサクッと辿り着く。一方、実は一月前会社を馘になつたのを、石井は依然光子には隠してゐた。不実な絡みで見せ場に恵まれず、持ち腐れ的に駆け抜けて行く三番手と、そもそも姿形から発見出来ない川瀬陽太。さうすると要は主たる登場人物は四人きり、二組の心許ない夫婦の物語が、相変らず映画の最後は元鞘にとりあへず落ち着くばかり。一時的に脚本が小林政広から今岡信治に変つたとはいへ、全般的な印象としてはさして変らず、腹も立たないくらゐツッコミ処にさへ欠くのは不可思議な安定感。寧ろそこに、いはゆる作家性とやらを見出すべきなのかしら。スウェットでロングの空缶を林立させる、部屋飲みが凄まじく画になる伊藤猛と、五郎が幸子を石井家に連行しての、光子も交へた夜分の四者会談。居丈高な五郎にしをらしく頭(かうべ)を垂れる幸子と石井に対し、「人妻は男と会つちやいけないの?」。プリミティブなプロテストを敢然と撃ち抜き、収束しかけた状況を再度の混沌に叩き込む光子、即ち佐々木ユメカの如何にもらしい突破力、乃至エモーション。見所も決して見当たらなくはないにせよ、最終的にはミニマムに毛を生やした絞り込んだ布陣の中、精々荒木太郎のレプリカ程度に過ぎない田尻裕司の脆弱さは如何せん否み難い。元々幸子と五郎の馴初めと思しき、ダンスで一篇を畳むのはひとつの技巧ではあれ、実際に中川真緒と伊藤猛といふ組み合はせとなると、身長のつり合ひが取れてゐなかつたりするちぐはぐさがある種象徴的な一作。あるいはそのちぐはぐさも、リアルタイムでm@stervision大哥が仰せの通り、もしも仮に今岡信治が自ら撮つてゐたならば、案外狙つた不定形としてサマになつたのかも知れないけれど。

 とかいふ次第で全作のぞんざいな総括を試みると、三番手の扱ひが粗雑通り越して壮絶な「白昼の不倫」(1997)。長曽我部蓉子を愛でるには申し分ない反面、だから一欠片たりとて面白い訳ではない「尻まで濡らす」(1998)。前二作に劣るとも勝らない「不倫は蜜の味」(1999)に、後半劇的に失速する「不倫でラブラブ」(2000)。カザキョンキックに蹴り飛ばされた女池充が、文字通り宙に舞ふロングは見事な「団地の奥さん、同窓会に行く」(2004)。といつた辺りが、適当に括つてみた概評である。


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