真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢サギ師 まさぐる指先」(昭和62/製作:にっかつ撮影所/提供:にっかつ/監督:藤浦敦/脚本:池田正一/企画:作田貴志/撮影:水野尾信正/照明:内田勝成/録音:福島信雅/編集:井上治/装飾美術:山田好男/選曲:佐藤富士男/助監督:石田和彦/色彩計測:高橋聡/現像:IMAGICA/製作担当:渡辺康治/出演:高樹陽子・小川美那子・本田舞・小川真実・草見潤平・坂元貞美・真島尚志・稲葉年治・滝川昌良・小俣賢治・大谷一夫・野上正義・橘雪子・港雄一・河野基比古・桂文字助)。出演者中、小川真実がポスターには小川真美、提供に関しては事実上エクセス。
 女の口元に、男の指が触れる。ギューッと目を瞑つた女は、お乳首をこりこりされ鼻をヒクつかせる。OLの沙弥加(高樹)と会社社長御曹司、とはいへ女で勘当されてゐる佐久間(小俣)が、壁には葵の御紋なんてあしらはれた仰々しい連れ込みにて情を交す。事後、復縁し親の会社を継ぐ皮算用で女と手を切る方便の金を、沙弥加は佐久間に渡す。目的を果たした佐久間が、脊髄で折り返して気もそゞろな二回戦は手短に端折り、ビル群ロングにタイトル・イン。割と豪快にノータッチ、に映る無造作に黒々とした眉と、馬面の男顔。直截なところ面相の微妙な主演女優の、喘ぎ顔が結構酷くてアバンから軽く閉口させられる。この映画、果たして大丈夫かしらん。
 沙弥加のパイセン・シオリ(本田)が更衣室で大胆に下着まで脱ぎ、観音様にも香水を振る。めかし込んだシオリが大概無防備な屋上戦をキメるお相手が、よもやの先輩後輩で二股カマす佐久間、佐久間はシオリに対しても金を無心する。休日に佐久間を訪ねた沙弥加は、同じ所番地を目指して来たシオリと鉢合はせを裏返した背中合はせ。マンションの管理人(河野)から佐久間が十日で出て行つた旨聞いた沙弥加とシオリは、二人してまんまと金を騙し取られてゐた詐欺込みの棒姉妹を悟る。そんな訳でがどんな訳でか、沙弥加は会社に提出する長期休暇の届は手紙に同封してシオリに託し、改めて玉の輿捜しに海の綺麗な美しが丘を目指す、正確な表記は不明。といふのも実在する美しが丘(横浜市青葉区)が完全に内陸で、海なんてないのね。
 配役残り、藤浦敦が顔の効く落語界から連れて来た―映画評論家の河野基比古は友人とのこと―桂文字助は、ほてほて歩いてゐる沙弥加を、大慌ての風情で捕まへる多分運転手辺りの八木沢。野上正義が女の裸に蘇生する、死にかけてゐたらしい東南開発企業グループ社長・剛三、東南の字は当て寸法。砂浜に張られたテントに無断で入り込み、挙句寝てゐた沙弥加が、同様に侵入して来た目出し帽に犯されかける。因果応報に二三本陰毛を生やした、比較的底の抜けた一幕。その場に武力は伴はないが暴力介入する草見潤平が、テントの主・研一。港雄一はパニオン募集のチラシに沙弥加が喰ひつく、割烹旅館「うさぎ屋」か「うなぎ屋」の主人・金平、達筆の看板が絶妙に判読不能。坂元貞美と滝川昌良は判り易い画面(ゑづら)で密談を交す、東関?不動産社長の立花と経理の小沢。真島尚志は観光道路整備を巡り、立花らの片棒を担ぐ金平と反目する息子の洋介。小川美那子は、当人の意識としては立花の情婦・瀬利奈、BAR「プレジール」のママ、要は英語のプレジャー。立ち位置が地味に読めなかつた小川真実は、立花の秘書とされる園田マリ、小沢と男女の仲。沙弥加が適当に散策する、深い森の中。詰襟に犯されさうになつてゐる、和服の巨漢女を沙弥加が助けてみたところ。とりあへずクレジット順に大谷一夫と橘雪子は、極度のマザコン野郎・正彦と、倅の棹の世話までする爆乳通り越した爆体マダム・寿美子。沙弥加共々会社を馘になつた―良くも悪くも昭和のアバウトさ―シオリは、後輩を追ふ形で美しが丘に。稲葉年治はシオリがヒッチハイクする、観光大臣秘書とかいふ徳大寺。車を停め、対佐久間に続きシオリは生粋の野外好きなのか、背景一杯に海と空を背負ふ文字通りの青姦。何処となく湿度の低さを感じさせる、画面を染め抜く青々とした青が、今の時代では撮り得ぬ喪はれた色に映る。その他ノンクレで女子更衣室の画面奥に見切れるもう一人、とシオリが沙弥加の手紙を読む背後の屋上要員、までが東京班。美しが丘隊は沙弥加・ミーツ・金平の後方を通過する浴衣二人、にプレジールのバーテンダーとカウンター客各一名。沙弥加がシオリ宛の便りを認めてゐたところ、当のシオリが徳大寺の車から沙弥加を発見する、素敵なシークエンスに添へられるロードサイドのテラス要員の計十人強。
 近年明かされた、五十億を投じたにっかつ創立八十周年記念作品「落陽」(1992)に関する真実について、知らなかつたフリをした場合藤浦敦最終作。ゴッリゴリの生え抜き監督の割に、そこはかとなく買取味も感じさせる俳優部の面子ではある。今気づいたのが今年も一応百十年にはあたるものの、経営母体が転がり続けてゐる以上、もうこの期に周年もへつたくれもないのかな。
 全力打算の男漁りに明け暮れる、腰かけの尻が椅子に着いてさへゐないOL二人が、用地買収に揺れる海沿ひの町に入る。結局、そもそも沙弥加が仮称美しが丘を何故選んだのかは終に語られないまゝに、藤浦敦にしては海女は出て来ないけれど矢張り海はある。心許なさも否めないビリング頭を、小川美那子以下小川真実と、馴染の薄い名前―それもその筈、今作以外に活動の痕跡が見当たらない―ではあれ本田舞。抱き心地のよささうなオッパイを二枚並べた上での豪華四本柱、プラスワンの結構攻撃的な布陣で強靭にサポート。下手にカメラが引いてしまふと画が漫然とするきらひは所々なくもないにせよ、質的にも量的にも十全な濡れ場を釣瓶撃つ、誠実な裸映画といふ印象がひとまづ強い。反面、女の裸に割きに割いた僅かな残り滓、もとい残り尺で「うさぎ屋」と「うなぎ屋」の間を取つて「うたぎ屋」―さういふ問題か―を担保にした五千万の小切手を、金平が見事に籠絡されたマリに渡す。割と絶体絶命の危機を回避する返す刀で、沙弥加とシオリの財力的にも申し分ない配偶者をも見繕ふ。少々へべれけな展開であつたとて、力づくもしくは自重で無理から固定してのける。女優部御大格の橘雪子が誇る貫禄の地力を頼りに、勧めるほどの善もゐないが懲悪まで含め、全方位的な大団円に遮二無二雪崩れ込む終盤は正直性急どころかガッチャガチャ。どさくさ紛れのカットを滑り込ませ指から抜いたものを、更にどさくさ紛れのしかも背景にて本人が奪還する。藪蛇を極める、寿美子の指輪争奪戦なんてこの際気にするな。兎に角、物語たるもの正方向に完結しなくてはならない。量産型娯楽映画に込めた、鉄の信念が清々しい一作。その手の、肩に力の入つた代物では別になからう。それでゐて、定石の構成上、締めは再び高樹陽子に委ねざるを得ない締めの絡み。沙弥加が自らが絶頂に達するタイミングを見計ひ、現ナマ入りの久寿玉を割る素頓狂なラストは、最後の最後で木に竹を接ぐ御愛嬌。若年層の有象無象ぶりが何気に凄まじい、男優部の脆弱性も顕示的なアキレス腱。


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