真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「団地妻 白昼の不倫」(1997 冬/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:サトウトシキ/脚本:小林政広/企画:森田一人/プロデューサー:朝倉大介・衣川仲人/撮影:広中康人/照明:高田賢/音楽:山田勲生/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/助監督:坂本礼/録音:中山隆匡《福島音響》/監督助手:大西裕/撮影助手:小宮由紀夫/照明助手:島田一二三・町田一/タイトル:道川昭/タイミング:佐藤勝/ネガ編集:三上悦子/現像:東映化学/応援:広瀬寛巳・鎌田義孝・女池充/協力:藤井民雄・久万真路・高野平・藤井郁子・石川二郎・岩田治樹《アウトキャストプロデュース》・不二技術研究所・㈱三和映材社/出演:葉月螢・沢田夏子・長曽我部蓉子・浅野潤一郎・川瀬陽太・本多菊雄)。
 ボウリング場の巨大なピンが、背景に見切れる団地ロング。画面奥から歩いて来る女が葉月螢といふのは、寄つて呉れないと判らない、所以は後述する。「私の名前は酒井朝子です、朝は早起きの朝です」、と団地妻・酒井朝子(葉月)のモノローグ起動。第一声から構文が微妙に捩れてゐるのは、多分意図的に外した狙ひ。水溜りにニューバランスの歩を止め、朝子が「えい!」と両足ジャンプを試みるも、半分も飛べないどころか泥濘に尻餅をつく。と、いふかだな。本域の助走をつけた競技レベルの走り幅跳びで漸く飛び越えられる、か否かなな大きさの水溜りに映るのは気の所為かしら。早速掴みかけた本質の前髪、あるいはアバンから順調に露出する起爆装置に関しては一旦さて措き、照れ笑ひなのか微笑みかけた、葉月螢のアップを止めてタイトル・イン。リアタイから一貫して首を傾げてゐた、タイガーテールをこの期に平然もしくは敢然と踏んでのけると、この人歯がガッチャガチャゆゑ、口を開けての止め画には正直馴染まないやうに思へるのだけれど。兎も角そのまゝ突入するクレジットがエンディングにもう一度一通り、同じ字幕をリピートする頓珍漢な構成はもしかするとVシネの腐れ仕様なのかも知れないが、だとしても総尺は合つてゐるのが重ねて謎。
 団地の夜景に嬌声から入る、本篇の火蓋は朝子と夫・酒井(本多)の、結婚八年子供はゐない夜の営み。量産型娯楽映画の作法を、一応弁へてはゐるといはんばかりの素振りが最終的には盛大な諸刃の剣。翌朝の朝食、「美味しい?」といふ朝子の問ひに対する酒井の返答は「さうでもない」。鬱屈した会話を淡々と交し、行つて来ますのチューの求めにも応へず出勤した酒井は駐輪場で顔を合はせた、日毎似通つたタイミングで自転車通勤する長曽我部蓉子に心ときめかせる。つか、結論を先走るとこの映画、上品なタイトスカートでママチャリに麗しく跨る、長曽我部蓉子の超絶美人以外に見るべきところが特にない。それで十分ではないか、ほかに何が必要なのかと難じるならば、確かにさうでもあれ、さうではあれ。
 配役残り、朝子と同じく専業主婦と思しきにしては、キメッキメの頭が出勤前のホステスにしか見えない沢田夏子は酒井家のお隣で、呼鈴こそ鳴らせど勝手に上がり込んで来る仲のミチコさん。清々しく絡み要員の浅野潤一郎が、ミチコの夫・近藤、何せ着衣の出番がない。要は最初のカットから建物を一部覗かせてもゐる、朝子とミチコが結構日参するボーリング場「東京エースレーン」(中央区月島/昭和47~平成21)。に、矢張り通ひ詰めるのが仕事をしてゐるのか不思議な川瀬陽太は、団地に帰らうとする二人をナンパする若い男。が、朝子は知らなかつたが実は同じ団地の、しかも同じ棟に住む野口だなどといふのは壮絶に狭い劇中世間。シレッと繰り出す四天王の破天荒に、大御大・小林悟以下御大格も、「随分な作劇しやがんな、若造」と震へあがつたにさうゐない、観てたらね。
 今時有料配信の水準とは首を縦に振り難い、画質が言葉を選べば割とクソな、素のDMMで国映作をバラ買ひ―正確にはレンタル―視聴。久方振りの、といふかより直截には忘れてゐた正調国映大戦第四十戦で、サトウトシキ1997年第二作。専門外ではないが管轄外につき、今回改めて振り返つてみるまで丸きり念頭になく通り過ぎてゐた不明は潔くか軽く恥ぢつつ、サトウトシキの団地妻ものが世間の片隅―の更に極一部―で好評を博してゐた時期があり、本作がその第一作にあたる。今のところ、ないし事実上。サトウトシキのピンク映画ラストも兼ねる「団地の奥さん、同窓会に行く」(2004/脚本:小林政広/主演:川瀬陽太・佐々木ユメカ)が、「迷ひ猫」のタイトルでより知られる、「尻まで濡らす」(1998/脚本:小林政広/主演:長曽我部蓉子)を第二作に数へた場合最終第六作。とは、いへ。全くズブの初見といふ訳では必ずしもなく、ミチコが朝子にポール・ニューマンのミートソースを勧める件―のみ―は、何処かで観てゐたのをウッスラ覚えてゐなくもなかつた。残り三本も素のDMMには入つてゐるので、ぼちぼち辿つて行く所存。
 さあて、仕出かすか。カツ・レツ・キッカ、もとい爆裂筆禍。第十回ピンク大賞と連動するPGピンク映画ベストテンに於いて五位に飛び込んで来るのが、どうかするにもほどがあると今更到底甚だ理解に果てしなく遠い、画期的な木端微塵。おい何だこれ、面白くも何ともねえぞ。大丈夫なのか四半世紀前、こんな惨憺たる代物持て囃してなんかゐたりして。とか、往時の世評ないし風潮を一方的に裁断する、のも通り越し正気さへ疑ひたくもなつて来る、保守なのに。近藤夫婦と台詞が基本挨拶程度の長曽我部蓉子を除けば、円滑な意思の疎通なり共有を予め拒むかの如き、ガチのマジで言葉を選ぶと不毛かさりげなく常軌を逸した会話に朝子と酒井に野口、何れもだから全力で言葉を選ぶと社会性に根本的な欠落のありさうな連中が延々ひたすら無間に明け暮れる。挙句何処にも抜けすらしない始末に負へぬ袋小路が、高い殺傷力を感じさせるくらゐ詰まらない。地に足の着いてゐるのかゐないのだか判らない葉月螢と、不定形な若さを直線的に放つ川瀬陽太は、良くも悪くも何時も通り。対して本多菊雄は端整かつ穏やかな表情を崩さない酒井が、その陰に如何にもありがちな暴力性でも孕んでゐさうに窺はせながら、特にも何も爆ぜるでなく、断片的に会話の端々で触られる程度で、この人の外堀は殆ど全く埋まらない。尤も、何も酒井に限つた話でなく、全員埋まらないんだが。それでゐて、連れ込みから野口と出て来たところを、朝子は日がな一日チャリンコでふらふらしてゐる酒井に目撃される。何気に致命的な修羅場を経ての、朝子が酒井に無理強ひするワインを飲め飲まないの一幕。わんこそば感覚で注がれるグラスを立て続けに呷り、ボトルを一本空にした酒井が次のボトルを開けようとするや朝子が、といふか要は葉月螢がケタケタ笑ひ始める。地獄といふほか言葉の見つからない、凄惨極まりないシークエンスには頭を抱へた、下手なホラーより余程恐ろしい。なほも不退転の覚悟で言葉を選ぶと、絶対この団地ヤバい。それ、でも。日々癒される酒井同様、否、それ以上に。煮ても焼いても食へない一作と相対する苦行を慰撫して呉れるのは、長曽我部蓉子のエターナルな美しさ、だけだつたのに。この人の濡れ場どうするんだらう、開き直つて木に竹接ぐシャワーでも浴びるのかな。寧ろ、それでよかつたのに。川瀬陽太のへべれけな素性が割れた瞬間、限りなく確信に近く眉間に煌めいた―ニュータイプか―予感を超えた悪寒が、まんまと的中。そら当たるはな、土台この頭数。長曽我部蓉子が他愛ないヤリチン野郎の配偶者で、クライマックスはボトルの奪ひ合ひから突入する―そもそもその導入が酷い―酒井家と、帰宅した夫に長曽我部蓉子がぞんざいに跨る野口家に、事前からまだヤッてゐた近藤家も飛び込んで来る夫婦生活トリプルクロス。をも、何れも完遂には至らせない自堕落な体たらく。無理から三番手を然るべきでないポジションに押し込んで、それで何か完成させたつもりか。立ち位置自体には別に問題のない三番手を、ただ放り込むタイミングを絶望的に間違へる荒木太郎の方がまだマシ、一兆倍マシ。最後は言葉を選ばず脊髄で折り返すと、裸映画ナメてんのかと腹が立つた。


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