真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「未亡人下宿?その4 今昔タマタマ数へ歌」(2020/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影・照明・整音:大久保礼司/照明:海老澤大介・後藤昂生/録音:吉田信治/主題歌《作曲》:花椿桜子/ポスター:中江大助/助監督:郡司博史/仕上げ:東映ラボ・テック㈱/出演:愛原れの・長谷川千紗・吉良薫・松緯理湖・中村京子・大山魔子・森羅万象・銀次郎・佐々木狂介・野間清史・萬歳翁・郡司博史・安藤ヒロキオ・フランキー岡村・折笠慎也・川上貴史・山科薫・松本モトマツ・末田スエ子)。出演者中萬歳翁と郡司博史に、川上貴史・山科薫・松本モトマツは本篇クレジットのみ。逆に軽く高い萬歳翁・郡司博史に対し、出番も台詞もガンッガンある、何なら絡みもなくはない川上貴史のビリングの低さが何気に解せない。
 昭和と平成に令和、三篇を彩る未亡人下宿大家の階段掃除、と称した要はミニスカ×パンチラ通り越した尻見せスチールを順々に三枚連ね、続けて縦方向の分割画面にいはゆる川の字に並べた上で、暗転タイトル・イン。束の間のアバンにさへ、乳尻何れかを忘れない。何はともあれ何はなくとも、観客の見たいものを見せるジャスティス。
 “昭和・編”、中点の意味が判らない。日本最難関の帝都大学法学部を十浪中、となると普通に考へれば精々三十路前の割には髪に白いものもちらほら交じり、初老に片足突つ込みかけて映る尾崎(フランキー)が、斡旋所から紹介された山口裕子(吉良)が大家の未亡人下宿を訪ねる。裕子が未亡人の所以は、集団就職先の山口部長(郡司博史/遺影と静止画のみ)と結婚したものの、プロレス好きの山口は観に行つた試合会場にて、悪役レスラーのグレート・ウタマロ(野間清史のゼロ役目)がブン回す場外パイプ椅子の誤爆で命を落としてゐた。昭和の配役残り、脱ぐと体の弛みが非常に宜しくない佐々木狂介(ex.佐々木共輔/a.k.a.佐々木恭輔)は、何某か借金を抱へてゐる裕子の未亡人下宿に押しかける金貸し・頃安。松緯理湖(ex.松井理子)は頃安の女房、四枚目にして夫婦生活を十全にこなす布陣の分厚さには、油断してゐて意表を突かれた。頃安に代つての取り立てに現れたマツリコが、連れて来る用心棒のプロフェッサー・タロー・タナカ―正確な表記不明―と、実は裕子の幼少期近所に住んでゐたをぢさん・タケシが改めて野間清史。
 “平成・編”、尾崎健二(安藤)は帝大法学部の入試に向かふ道すがら、美由紀(愛原)の運転する車に撥ねられまた一年棒に振る。入院してゐる間に父親の死去後、五年厄介になつてゐた叔父宅も追ひ出された尾崎―以後オザケン―は当てもなく、美由紀が賄ふ未亡人下宿に転がり込む。美由紀の亡夫は遺影のみ登場の山科薫、死因は単なる交通事故。平成の配役残り、萬歳翁はオザケンがお世話になつた脳神経外科の河本。昭和の、あるいはロマポの大物脇役・コミタマこと小見山玉樹の給仕人にも近い、タイプキャストの趣をも地味に煌めかせる、末田スエ子が医院の看護師。松本モトマツは、オザケンが口元に精液をつけたまゝの美由紀に来訪者を応対させる、回覧板を持つて来た緑町町内会会長・山根譲二。そして愛原れのが隣にゐるとデカさが際立つ大山魔子が、オザケンの叔母。大山魔子の、名は体を表す感が凄まじい。
 “令和・編”、帝大法学部志望すら今や明示されない、兎に角尾崎は尾崎(折笠)が既に廃止されてゐる路線の「未亡人下宿・前」バス停―上から紙を貼つただけ―で待つてゐると、親切な通行人(俳優部ノンクレの清水大敬)がその旨教へて呉れる。尾崎は矢鱈ジェントルな清水氏(超仮名)に案内して貰つた、鳳アリサ(長谷川)が責任者を務めるセイガク専門のシェアハウスを訪れる。森羅万象がアリサの亡夫・善三、職業はヤクザで、のちのち語られる死因は騎乗位に乗られた、腹上ならぬ腹下死。令和の配役残り、「ねえ十万円くらゐ貸してよー」、第一声のクソさがグルッと一周して清々しい、中村京子は善三の兄弟分・三島タツジ―後述する―の妻・レイコ。具合でも悪いのかといふくらゐ終始グターッとしてゐるのが、作られた造形なのか、素で草臥れてゐやがるのだか最早判らない以前に寧ろどうでもいゝ、醜悪極まりない活性酸素の塊。人に金を無心するのに乳も放り出さんでいゝ!といふか出すな、仕舞ふとけ。後生だからオーピーは清水大敬に、無駄に汚い映画を撮らせないで欲しい。ナカキョンの、阿鼻叫喚レベルの惨状、流石に往年のファンでも喜ぶどころか、年波の非情に落涙されてしまふのではあるまいか。閑話、休題。ex.三柴江戸蔵似の川上貴史は善三の子分・カツジで、ex.銀治ではない銀次郎が件の三島タツジ、昭和の時代には―グレート・ウタマロ所属の―プロレス団体も経営してゐた御仁。と、ころで。元職看護師のアリサが、胸に山口裕子の名札をつけてゐるのはシンプルな粗忽。山口は山口にせよ、裕子はお母さんの名前ね。
 直前の五年間を叔父家で過ごしたオザケンが、美由紀の妊娠に伴ひ無間の受験から足を洗ふ。清水大敬2020年第二作は即ち前後の連関を確実に断たれた、偶々同じ大学の図らずも同じ学部を志望する期せずして同姓の、全く独立した三人の尾崎をイントロ要員に一応擁し、昭和から平成を経て令和、三つの時代を巡る堂々とした未亡人下宿クロニクル。今回のナンバリングに“その4”とある通り、これまで未亡人下宿が地上げに揺れる、王道かフォーマット通りの展開で火蓋を切つた無印第一作「未亡人下宿? 谷間も貸します」(2017/主演:円城ひとみ)。ラストに登場する橘秀樹が、そこに在り続ける未亡人下宿を担保する爽やかなラストの第二作「続・未亡人下宿? エロすぎちやつてごめんなさい♡」(2018/大家:成宮いろは)。へべれけな幽霊譚と、底の抜けた改元祝賀の号砲がブッ放たれる「未亡人下宿?エピソード3 裏口も開いてます」(2019/主演:三島奈津子)と順調に一年一本づつ続いて来た、未だにはてなの真意は不明な大蔵未亡人下宿が第四作で、画期的かつ意欲的な大風呂敷を広げてのけた。訳が、ないんだなー
 美由紀とアリサが何故かお揃ひの赤いコートを持つてゐて、オザケンと令和尾崎が共々ギックリ腰を患ふ以外には、蚊帳の彼方に弾き飛ばされた平成を余所に、アリサの入居祝ひを頂戴して以降、徐々に鳴りを潜める折慎はそのうち暫し退場。店子と大家の惚れた腫れたを軸に据ゑた、ないし軸に据ゑる筈の未亡人下宿は何時しか何処吹く風。美由紀とアリサが銘々独り言つ「それもまた人生」を力づくのキーワードに、生まれる五月十日前から生き別れた父親と、娘が再会を果たす人情噺に着地する、未亡人下宿的には大概な不時着には度肝を抜かれた。この物語に、尾崎別に必要ねえ。清水大敬、畏るべし。合格祝ひに未亡人の大家が店子を筆卸して下さる、確かに然程順守されてもゐない、シリーズ総体のお約束をほぼほぼ反故にしてみせる点や、量産型娯楽映画ならではの懇切設計をプリミティブに履き違へた、二度三度の重複も厭はず、随所で火を噴く滔々とした説明台詞の類はこの際とるに足らない些末。わざわざ元号を二つ跨いでの、如何にも集大成的な大河未亡人下宿かに見せかけて、要は単なる舞台なり器としてしか未亡人下宿が機能しない、盛大な羊頭狗肉を撮つてのける明々後日か先一昨日なドラマツルギーが実に清水大敬。正方向に清水大敬なのは、地を這ふ、どころか穿たんばかりの勢ひで女優部の股間を執拗に追ひ狙ふカメラは健在。少々、で済まない無理の大きなカットの数々もものともせず、末田スエ子を除き、箍の外れたローアングルを漏れなく被弾する。さうはいへもう少し綺麗に撮れなかつたのか、といふ脊髄で折り返した直截な疑問も否めない三番手を逆の意味での筆頭に、正直三本柱が然程強靭とはいひ難い中、“償ひ”の一点張りでオザケンが美由紀を悪し様にいふところの肉便器と成す。平成パートが娘と父が邂逅する本筋―本筋?―からはまるきり乖離する反面、よしんば即物的か低劣であらうとも裸映画的に最も充実してゐる辺りは、転んだとて手ぶらでは起きないしたゝかさ。

 作詞は不明の主題歌が、エンド・クレジット時に流れる「金ちやんのバラード」、歌ふは清水大敬。“私は決して、二個の肉団子ではありません”と語りから入り、“年若くして皺だらけ”とか、“縫ひ目はあれど綻びず”的なチンコを歌つた他愛ない歌詞を、清大が御馴染のバカ声でがなつてゐるやうに一見もとい一聞聴かせ、案外安定した音程でエンディングを賑々しく締め括る。


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