真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ひとり妻 熟れた旅路の果てに」(2020/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:深澤浩子/撮影監督:創優和/録音:丹雄二/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/制作応援:泉知良/撮影助手:赤羽一真/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:辰巳ゆい・並木塔子・加藤ツバキ・折笠慎也・モリマサ・安藤ヒロキオ)。
 ウミネコの生息地として知られる種差海岸(青森県八戸市)、夫は遅れて来る結婚十年の記念旅行で当地を再び訪れた、旧姓野口の菅原恵深(辰巳)が一人佇む。辰巳ゆいの、タッパがロングに映える。恵深が前回同じ場所に来たのは、職場結婚後も二年前までは勤めてゐた会社の、二年前の慰安旅行。倒木に十メートルくらゐ間を空けて座る、夫の洋介(折笠)と、膵臓癌で死去した―のが告別式出席で洋介の来青が遅れた所以―石庭柊子(加藤)の不自然な姿を目撃しながら、恵深には二人に声をかけることが出来なかつた。浜から海空を抜いて、何故か左端にせゝこましく入れるタイトル・イン。間もなく辞める人間が慰安旅行には来るのかよといふ、尻の穴の小さいツッコミ処も何気に否めない。
 初見では単なる適当なナンパ野郎にでもしか見えない、恵深に話かけて来る芹澤拓真(安藤)の顔見せ挿んで、宿に戻らうとする恵深は櫻井拓也とホソヨシの親爺も祝杯を上げた、和風食事処「松家」の表に、飯を食つた客(完全に不明)を見送る従業員で、高校時代の同級生・羽賀梢枝(並木)を見つける。続けて梢枝に道を尋ねる男は、トレードマークのチューリップ―ハット―的にもしかして新田栄ライクな竹洞哲也?恵深が普通に旧交を温めようとした梢枝は如何にもな訳アリ風情を滲ませ、当時快活な優等生であつたものの、ある日学校に来なくなつた梢枝には、駆け落ちしたなり中絶したなり、キナ臭い噂が囁かれてゐた。恵深がホテルで浴びるシャワーと、慰安旅行初夜ならぬ終夜に於ける夫婦生活の回想とで漸く本来求められて然るべきものを一頻り見せた上で、執拗に連絡の取れない洋介が一人になりたい旨のぞんざいなLINEだけ寄こして来た恵深は、梢枝と待ち合はせた翌日芹沢と再会。作家を語るか騙る芹沢に、本好きとか称する恵深が脊髄で折り返してマイッケル、もといホイッホイ釣られるアメイジング。
 配役残りモリマサは、梢枝と自宅の安アパート近くで別れた恵深が続けて帰宅し、梢枝に迎へられる姿を遠目に目撃する、足の不自由な漁師で内縁の夫の大原正行。バンク・ラバーで強盗殺人を犯した、大原の指名手配写真を掲示板に貼る制服警官はEJD臭く見えたが、確信能はず。
 脚本家以外同じ並びのスタッフを窺ふに、前作「発情物語 幼馴染はヤリ盛り」(脚本:小松公典/主演:川上奈々美)と青森二本撮りしたぽい竹洞哲也2020年第一作。常々あれだけ大蔵の寵児ぶりを誇る竹洞哲也でさへ、昨年は二本しか発表出来てゐない事実に、コロニャン禍半端ねえな!と改めて愕然とした、何をこの期に。指標おかしいだろ、世捨ててんのか。
 二番手の幸せと三番手の心を踏み躙つた主演女優が、素知らぬ顔でノーミス人生を歩み続けようとする。ある程度丁寧な心情描写で丹念に綴られるマリシャスな物語は、最低限酌めはするくらゐには見てゐられる。尤も、梢枝パートの殊更にテローンと平板な明るさの画は、徒なヘビーさを凡そ支へきれず、それでゐて、芹沢の存在に踵を返した梢枝に恵深が連れ立つ往来。ビリング頭二人の顔が、影に沈む非力なカットは尚更苦笑もの。丁寧な心情描写に関し“ある程度”と意地の悪い注釈をつけたのは、入念に埋め込む女優部三人に比して、男衆の扱ひが清々しいほどにスッカスカ。大原に関しては限りなく等閑視、無駄口ばかり饒舌な割に、芹沢が本当に物書きであるのか、自己啓発系すら疑はせかねない、単なる胡散臭いマンに過ぎないのか最終的に痒いところに手を届かせず仕舞ひ。大体洋介は何時まで一人になりたガールなのか、立腹した恵深が帰つてしまはないのが不思議で不思議で仕方ない、最早網の如くそこかしこに開いた穴が大きく多すぎて、一見落ち着いた語り口には反し、展開が満足に体を成してゐるやうには受け取り難い。とこ、ろが。「サイコウノバカヤロウ」第二作に劣るとも勝らず漫然と二連敗する、ものかと思ひきや。カットバックもするとはいへ、地味に絡み初戦から緻密に構築してもゐなくもない大胆なイマジンで放り込む、昔よりは十分延びた尺も利して満を持した、加藤ツバキに任せた締めの濡れ場があまりにも一撃必殺。ワーキャー褒めそやすには別に値しないにせよ、溜めに溜めた末轟然と撃ち抜く裸映画特有のエモーションが、百難隠して余りある一作。に、しても。実は何処までも冷酷な恵深の八幡馬スローを、何をトチ狂つたか都合三度二回リフする加藤義一でもしなささうな苔生した演出には、竹洞哲也どうかしたのかなと首を傾げた。

 フと気づくと加藤ツバキが田中康文大蔵上陸作「人妻エロ道中 激しく乗せて」(2013)でピンク初土俵を踏んで以来、今作で十三戦目、フィルモグラフィーを現在進行形で積み重ねてゐる。この人が恐ろしいといふか、素晴らしいのが今なほ全盛期を更新し続けてゐる点。花の命が、案外長い。


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