真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「特写!!13人のONANIE」(1990/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:佐久間勝/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/演出助手:松本憲人/撮影助手:佐藤和人/照明助手:中島一/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・加賀恵子・伊藤清美・井上真愉見・南野千夏・森みなみ・高中流水・中村京子・深田みき・鴻港しのぶ・香川久美・津村梅子・榊原いずみ・池島ゆたか・山本竜二)。
 Vサインみたいな凄い兎の浮かんだ満月に、「人妻13人絶叫黙示録」のVHS題開巻。如何にも作り物じみたあり得ない形の兎さん以前に、満月の外周が―月より―手前にある筈といふか、手前になくては絶対におかしい、木々を結んだラインを満月の外周が削つてゐるのだけれど、何処までいゝ加減な画なのか。そんな宇宙の歪んだ、岩形県変木郡落目村、ヘンボク郡の漢字は推定。助役(山本)と杯を交す村長・池ノ上豊太郎(池島)のが第一声が「いやあ参つた」と、画にでも描いたかのやうに判り易く困り果てる。その過剰なくらゐの判り易さは、決して藪蛇なクリシェなどではなく、量産型娯楽映画にとつて一つの肝要なのでなからうか。さて措き池ノ上が頭を抱へるところの所以は、昨夜シゲゾーの娘・サエコ(二人とも名前が口頭に上るのみ)が村を出ての、村内未婚女性消滅。即ち、深刻通り越して詰んだも同然の嫁不足。にも関らず、多分女郎的な三本杉のオサネ(橋本)の下に一週間ぶりで遊びに行つた池ノ上は、オサネがその間ONANIEで火照つた体を鎮めてゐたと恨み節を垂れるのにユリイカ!どうせ役所的なロケーションの工面を回避したにさうゐないが、池ノ上はわざわざ神社の境内に助役を呼びつけ、一ヶ月の東京出張を藪から棒に厳命。独り身をワンマンショーで慰めてゐる女の個人情報を助役にファックスで送らせた上で、集団見合の案内状を送りつける。とかいふのがオサネとの遣り取りを通して、池ノ上が閃いたミッション。深町章にしては秀逸すぎるやうにも思へて来るのは、何も当サイトが勘繰らせた邪推といふばかりでは必ずしもなく、他人に書かせた脚本を、さんざ剽窃してゐた報ひと解して頂きたい。
 いざ上京、右も左も判らない助役が、往来にて靴を飛ばしとりあへずの行き先を決めるのに、いきなり爪先が向いた方向とは逆に向かつてみたりする、早速底の抜けた珍道中。辿り着ける限りの配役残り、声で判る南野千夏が、最初の東京部。といつて、居室はオサネ宅同様、毎度御馴染津田スタで撮影してゐる点に関しては、改めて断るまでもあるまい。深田みきは何某かの理由で、中華まんとファンタグレープを暴飲暴食する二人目。のちに登場するナカキョンをも圧倒する、まるで風船みたいな爆乳が凄え。加賀恵子は、AVとバイブを使用する三人目。東京部中唯一役名の判明する伊藤清美が、風呂場で自慰に励む伊藤光子。この辺りから、確かに映画が窮屈にはなる覗き視点を放棄、截然と開き直り始める。女のつもりで覗いてゐたところ、男だつた美青年は綺麗に抜いて呉れないが、恐らく橋井友和。中村京子は、五人目の東京部(不明)と百合の花咲かせる六人目。後述するウェルカム落目村の狂宴に参加してゐるゆゑ、二人ともバイの模様。井上真愉見は生理中の看護婦、生理中にも看護婦にも、別に意味はない。助役が一人一人追つて行くのは、八人目となる北条杏子似の和服女まで。
 一月封切りの今作がもしかすると対正月戦線用の目玉で、矢張り深町章の五作後、八月公開の「激撮!15人ONANIE」(脚本:周知安/主演:岸加奈子)は多分盆。十二月の「実体験リポート ★13人★SEXパーティー」(構成・演出:業沖九太=北沢幸雄/ビリング頭は芹沢里緒)も、また年が明けての正月映画か。新東宝がこの頃余程景気がよかつたのか、ともおいそれと思ひ難いところではあれ、兎も角闇雲な女優部大量投入を一年に三度も繰り出してゐた、一の矢たる深町章1990年第一作。げに賑々しく、麗しき昔日よ。
 嫁の貰へぬではやがて男も郷里を捨てる、落目村存亡の危機の打開を図る破天荒な奇策。裸映画的にも勿論狂ほしく相応しい、見事な展開には「さう来たか!」と確かにときめいた。さうは、いへ。七組計八人を助役が順々に出歯亀して回る件が、気づかれては他愛ない小ネタで誤魔化し―損ね―て、気づかれてはまた誤魔化し―損ね―ての結構か大概な一本調子。折角の奇抜なプロットが膨らむ訳でも特にも何も全くないまゝに、池ノ上と助役にオサネ、東京からの参加者は南野千夏から和服まで全員出動の八人。“歓迎落目村”の手書き画用紙も踊る、十一人詰め込むと流石に手狭な、例によつての津田スタ和室。ところが現地隊の青年団が、前祝ひに羽目を外した挙句食中毒で壊滅。池ノ上はすたこら逃亡する中、さりとて池ノ上が盛つた媚薬にキマッた女達の渦に、山竜が呑み込まれる勢ひ任せのラストは、正直人海に胡坐を掻いた振り逃げ勝負と片づけて片づけられなくもない。女体に埋れた山竜が見えなくなるほどのある意味壮観を、エロスの霧散と難じるか、グルッと一周した一種のスペクタクルと称揚するかで、評価の大いに分れよう一作である。

 意図的に通り過ぎたが、改めて今作のコンセプトを再確認しておくと、レス・ザン・ブライドに悩む落目村に、東京から男日照りと思しき女達を捕まへて来る。ぞんざいな方便の是非に関しては一旦かこの際兎も角、だからさういふ趣向だといふのに、ビデオ化に際して“人妻13人”とか素頓狂なタイトルをつけてのける新東宝のセンス、いゝ加減な仕事にもほどがある。土台が何が黙示録か、バチカン怒つていゝぞ。
 最後に、見合会場に於ける東京から参加者八人の並びは、画面手前から時計回りに、和服・深田みき・南野千夏・ナカキョンのパートナー。上座の池ノ上と助役にオサネ挿んで、井上真愉見・加賀恵子・光子・ナカキョン。女達が池ノ上から送られて来た手紙に目を通す件に―のみ―登場する、不脱の謎美人入れてなほ名前が二人分余るやうな気がするのは、よもや加賀恵子がオカズにするアダルトビデオに出てゐる女と、電話帳記載の住所から光子に辿り着く前段、助役が話を訊く煙草屋のex.看板娘まで含まれてゐるのか?


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