真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「密猟妻 奥のうづき」(昭和56/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:菅野隆/脚本:いどあきお/プロデューサー:細越省吾《N.C.P.》/企画:飯塚和代/撮影:水野尾信正/照明:野口素胖/録音:伊藤晴康/美術:中沢克巳/編集:川島章正/音楽:甲斐八郎/助監督:中原俊弘/色彩計測:青柳勝義/製作進行:三浦増博/現像:東洋現像所/出演:風間舞子・中川みず穂《新人》・梓ようこ・桑山正一・北見敏之・中丸信・白山英雄・新井新一・田村寛・桐山栄寿・石塚忠吉・渡辺倫彦・相田麻理子・郡真知子)。
 女と男がシーツだけ被つて、絨毯の上に寝てゐる。おもむろに乳繰り始め開戦、中途で端折つた事後。愛欲の無間に厭いた二人は、死を決意する。庭からも望める海に、切り立つた断崖。登美(風間)が腰紐で梅沢治郎(中丸)と自らの胴体を結んだ上で、崖を海から抜いたロングに、中丸信(現:中丸新将)の絶叫だけ轟いて暗転タイトル・イン、上の句が赤く発色する。一年後、夏の浦安。公衆便所の窓から文字通り便所の落書きを舐め、壁に“来来軒の新ちやん”の逸物を彫り込んだ落書き通り越した落彫りに、生きてゐた登美が自慰に狂ふ。炎天下をパチンコ屋「さくらセンター」に退避、水で濡らしたハンカチで汗を押さへる登美は、凡そ助かる高さにも見えなかつたが、矢張りピンピン普通に生きてゐる梅沢と再会。その日は焼けぼつくひに再点火するでなく、登美は登美のために全てを捨てた、丸根達三(桑山)の待つアパートに帰宅する。因みに公式資料的には、登美の苗字も丸根。来来軒の新ちやんを捜し歩く―別の来々軒で空振りする、トシちやんが石塚忠吉―登美は、地下鉄の車中結局謎の男の電車痴漢を被弾。その様子を見てゐた女子大生・平山珠子(中川)が騒ぎたてるものの、登美は痴漢被害自体を黙秘。梯子を外された格好の、珠子はどうかした敵意を登美に燃やす。
 配役残り、死んだ目に妙な迫力のある北見敏之が、珠子から痴漢容疑者に挙げられる浅見静夫、もう一人ゐる髭はノンクレ、渡辺倫彦が駅員。新井新一は遂に登美が辿り着いた“来来軒の新ちやん”こと萩村新二で、相田麻理子が同じ来来軒の店員。梓ようこは本妻には子供を連れ実家に帰られたゆゑ、梅沢の情婦。当サイトはどうも、いはゆるWAMといふ奴が苦手だ、汚らしい。セールスマンか何かなのかアタッシュに淫具を持ち歩き、実に四十年後の2021年も現存するジョイトイ屋「APPLE INN」(新橋)に入つた浅見を追ひ、店の敷居を跨がうとする登美を白山英雄が制止する。浅見のために女房が死ぬ破目になつたとか訴へ、人殺しとすら罵る白山英雄を、一撃で床に倒す北見敏之の刀ならぬ抜肘術がカッコいゝ。そして問題?がこゝから、浅見と再び心中を仕出かし、又しても死に損なつた―浅見の生死は不明―登美は、警察署の表まで迎へに来てゐた丸根の眼前、道路挟んでパラノーマルに姿を消す。そして「三幸開発」のマイクロバスに揺られる登美が流れついたのが、みどりニュータウン分譲地受付会場。桐山栄寿と郡真知子に田村寛は、桐山栄寿が衝動的にブロックで郡真知子を殴り殺す男で、抵抗を試みたものの、返り討たれる田村寛が郡真知子の配偶者。二人の娘と思しき子役以下、分譲地には二十人近く投入される。
 世間的にどの映画が最高傑作と目されてゐるのか知らないが、全五作発表したのち、金子修介によると最終第五作後、ほどなく亡くなられたらしい菅野隆の昭和56年第二作にして、通算第二作。
 不老はさて措き殆ど不死すら手に入れた性愛ゾンビのやうな女が、夢の国建立前の浦安を舞台に底の抜けた貪欲で男を漁る。地獄巡りに片足どころか両足突つ込む、のも通り越して腰まで浸かつた一大もとい、極大エクストリーム作。箍の外れた執拗さで登子をつけ狙ふ、珠子―この娘絶対大学行つてねえ―まで含め鉄筋家族の町には狂つた人間しか住んでゐないのか?といはんばかりに凄まじく歪んだ世界観はグルッと一周した清々しさをも獲得。流石に何某かの特撮を駆使してゐるにさうゐない、まるでマンガみたいに登子のパンティからダッラダラ愛液が溢れ零れる描写も激越に、風間舞子の濡れ場をただただひたすら連ね倒すに徹する最早過剰なほどの裸映画は、元号二つと世紀を越えた今なほ、いはゆる“淫乱”系のフィールドを一切合財焼野原にしてのけかねない一撃必殺、ワン・アンド・オンリーな迫力に漲る。ゼロより空つぽに映る造成地、夫婦二人を惨殺したのち糸の切れた桐山栄寿に、近づいた登子は優しく唇を寄せ、当然の如くそこでオッ始める。だぶだぶにマンコを濡らした破廉恥な聖女が、血塗られた罪人を受け容れる。新約ルカ伝(15:1-7)―またはマルコ伝(18:12-14)―なり歎異抄の悪人正機説、あるいはハイロウズの「Happy Go Lucky」に通ずるシークエンスを飾るのは、穏やかに鳴り響くパッヘルベルキャノンの号砲。脳天に踵を叩き落とすが如く、有無をいはさず首を縦に振らせる一作。成熟する以前もしくは直前の、中川みず穂の硬質な美少女ぶりは現在でも十二分に通用し得よう反面、如何にも昭和スメルの強い、風間舞子の瞬間最大風速的に南風を吹かせたとてバタ臭ひ面相には正直食傷するほかなくもないものの、成程、この映画が世評の高さの所以であつたのか。


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