真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ズーム・アップ ビニール本の女」(昭和56/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:菅野隆《第一回監督作品》/脚本:桂千穂/プロデューサー:村井良雄/企画:小倉浩一郎/撮影:水野尾信正/照明:加藤松作/録音:伊藤晴康/美術:鈴木清倫/編集:川島章正/音楽:甲斐八郎/助監督:鈴木潤一/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作進行:服部紹男/緊縛指導:浦戸宏/出演:麻吹淳子・早野久美子・佐々木美子・北見敏之・平光琢也・草薙良一)。菅野隆に第一回監督作品の括弧特記に加へ、苗字には“かんの”と読み仮名まで振られる。“すがの”とか読みやがると承知せんぞ、並々ならぬ意思が清々しい。
 原つぱを逃げる女の足と、ヘッドライトを背負ひ迫り来る男。廃工場に追ひ詰められた女が、よくいへば如何にもおあつらへ向きに、直截には何故かそんな場所にポカーンと放置されたベッドに押し倒される。男が女を剥き縛りつけ、たところで。緊迫感でも演出したつもりなのか、小癪にもベタな裸映画を忌避したものか。即座に割つてみせるカットには疑問も禁じ得ない、一旦、豊かなオッパイを十全に見せておくべきではなかつたらうか。いよいよ男が覆ひ被さりクレジット起動、手短に端折つての事後。その場に一人取り残された女が、男が落として行つたライターを点け暗がりの中初めて麻吹淳子の顔を浮かび上がらせた上で、吹き消しての暗転タイトル・イン、女の字のみ赤く発色する。二年後、何がそんなに楽しいのかにへらにへらしながら玉葱を買ふのが薄気味悪い、当時世間を席巻したビニ本のカメラマン・村木を引つ繰り返した木村仁(北見)の周囲に、コートをキメた秋岡名美もといナミ(麻吹)が出没する。艦橋感漂ふ、軍事施設みたいな無骨さが矢鱈とカッコいゝ集合住宅のヤサに木村が戻ると、元々同棲してゐたモデルの吉原昌子(早野)が、新規居候のカメアシ・引田功一(平光)と真最中。木村が作つたミートソースを三人で食べてゐると玄関口で物音が、様子を見に行つた昌子ことマコが新聞受けに放り込まれてゐたと、筒状に丸められた百万円を持つて来る。
 配役残り、木村らが顔を出す「プリンス出版」に動員される、性別不問の結構な頭数には手も足も出せず。オカマ造形が陽水みたいな草薙良一は編集者の川本で、川本が連れて来る佐々木美子が、新人モデルの秦好江。ゲーセンにて一人荒れるマコを、ナンパしようとする二人組も不明。これがピンクなら、片方はすずきじゅんいちと来る相談なのだが。
 ツイッタで滅法面白いと評判の、菅野隆を見られるだけ―全五作のうち第四作除く四本―見てみるかとしたデビュー作。nfajで追へる助監督修行は四年間までであるものの、日活入社自体は、更に四年遡る昭和48年とのこと。
 最終盤闇雲なフルスイングを披露こそすれ、元々シンプルな復讐譚に、大した捻りなりうねりが加へられるでなく。シークエンスの突飛さないし、ショットの激越さに全てを賭けるイメージ勝負のソリッドなファンタにせよ、前年アップならぬインで一足先に初陣を果たした、黒沢直輔の「ズームイン 暴行団地」(脚本:桂千穂/主演:宮井えりな)にまだ分があるやうにも思へる。今作単体で激賞する声に些かならずピンと来ないのはこの際兎も角、面白い面白くない以前に首を傾げたのが、男女分け隔てなく、意図的な無機質でも藪蛇に狙つてみせたのか、俳優部の肌を微妙に血色悪く見えさせるマリシャスな撮影には、もう少し綺麗に撮らうと思はなんだのかといふより根本的な疑問を否み難い。さうはいつても要は全部見ても残り僅か三本につき、このまゝ先に進む。

 ひとつ地味に残る謎が、ナミと木村が二年ぶり二回目の廃工場でヤリ倒す傍ら、現場から二人が消えたため途方に暮れた引田が、一人猫と遊ぶ艦橋アパート(仮称)。に、行方を完全に眩ませてゐたマコが帰投する件。その際、マコが着てゐるトレーナーに―決して外れない周到さで―ボカシがかけられてゐる理由に辿り着けない。配信動画を節穴で見た感じ、元プリントから施されてゐる処理であるやうに映つたのは、全体何が絶対に見切れてはならないデザインであつたのか。


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