真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「バージン協奏曲 それゆけ純白パンツ!」(2019/制作:トラウマサーカス/提供:オーピー映画/脚本・監督:小栗はるひ/プロデューサー:深澤知/音楽:でか大/撮影・照明:春木康輔/録音・整音:五十猛吏/編集:板倉直美/メイク:枝廣優綺/助監督:桃原こだち/撮影助手:平見優子・布施絢子・磯部雄貴/制作応援:武井茉周/車両応援:須佐芳男/スチール応援:島田大輔/脚本協力:北川篤也・大矢直樹/ポスター撮影:MAYA/機材協力:撮人不知・株式会社テックス/仕上げ:東映ラボ・テック株式会社/撮影協力:湘南シレーヌ/『バージン協奏曲』作詞:小栗はるひ 作曲:でか大 歌:神宮寺ナオ・西田カリナ・藤川菜緒・後藤つき/出演:神宮寺ナオ・西田カリナ・藤川菜緒・後藤つき・松嵜翔平・浦山佳樹・西山由希宏・鈴木太一・松岡美空・折笠慎也・真樹孝介・星美りか)。
 主演女優と、白バタフライの折笠慎也が既に裸でベッドの上、ベロチューだけキメるとレス・ザン・前戯で正常位。といふのは、次は何処がいいの?と焦らす折慎の問ひに対し、次は小菅駅云々の車内放送で神宮寺ナオが目を覚ます綺麗な夢オチ。上京した大学の夏休みに、地元である湘南平に帰郷する愛香(神宮寺)が「はあ、夢だつたのか」と車中で言葉に出す過剰な判り易さは、ここは量産型娯楽映画ならではの敷居の低さと好意的に捉へたい。駅前に降り立つた愛香を、高校の同級生、といふか幼稚園からの幼馴染であるはるな(西田)・奈々(藤川)・朋世(後藤)が出迎へる。神社に六時集合で夏祭りに繰り出す段取りがまとまると、御神輿と金魚のカットを適当に連ねて、何気に不意を突かれる唐突なタイトル・イン。ウィキペディアによれば四人は全員女子大生とあるが、会話を聞くに朋世は書店のアルバイト店員で、気楽な休みをやつかむはるなも学生ではない、奈々の現況は不詳。
 神社に銘々可愛らしいお浴衣で集合した四人は、奈々が最初に見つけた、姉御と称される高校の恐い先輩(星美)と、真樹孝介の大概無防備な境内姦を目撃。その場で一旦姉御と目が合ひつつ、愛香実家で凄かつた的に四人がマッタリしてゐると、愛香の妹(松岡)が浴衣を脱いだ姉のダサい白パンティを笑つた弾みで、愛香が実は処女である事実が発覚。とこ、ろが。敬虔な―敬虔か?―カトリック信徒である奈々は婚前交渉を禁じられ、はるなはオッパイが慎ましやかなコンプレックスに、アイドリアンである朋世は何となく。二十二歳の女が四人、揃つて未経験であつた、愛香は就活は終つてゐるのか。改めて四人をシメた姉御は、悪人ならぬ全員気娘を知るや度肝を抜かれつつも、夏が終る前の喪失を厳命、出来なかつた場合バラすと高笑ふ。一旦窮したものの、「私達の祭りはこれからだ」と四人は奮起。トップは一人一万出した三万円の総取りと、罰ゲームに羞恥オナニーを追加した上で、各々適当な相手を見繕ひ動き始める。ところで堂々のトメに座る星美りかは、“いまを選ぶのは、未来のわたしぢやない”。一撃必殺の名台詞を撃ち抜いた、渡邊元嗣2016年第二作「めぐる快感 あの日の私とエッチして」(脚本:山崎浩治)以来三年ぶりの三戦目。
 配役残り朋世がスマホの待ち受けにする、推しには手も足も出せず。改めて折笠慎也は事に及ばうとして驚いた愛香のパイパンを、写メに撮り友達に確認しようとした結構あんまりな元カレにして、要はトラウマの種。松嵜翔平は元々愛香が満更でもない地元の後輩で、浦山佳樹は母親が男を作り家にゐられなくなつた―父親はアメリカに帰国―はるなが目下同棲する、彼氏といふかはるな曰く舎弟のかずや、エンドレス前戯で何時もはるかをキレさせる。いつそ古典的なネルシャツ×チノパン×ダンロップの三種の神器も用意してみせればよかつた、若い頃の宮崎駿みたいな造形の浦山佳樹は、朋世がオフるSNS男、この御仁が何クラスタなのかは不明。西山由希宏は奈々が教へ子であつた高校時代から交際し、尺八までなら吹いてもゐる先生、藪蛇にシレーヌ暮らし。もう一人、愛香がヤリマンか否か論議で松嵜翔平に軽く声を荒げさせる、遠目には若い頃の荒木太郎みたいな眼鏡は内トラか。
 OP PICTURES新人監督発掘プロジェクト2018で審査員特別賞を受賞した、小栗はるひのピンク映画処女作。と、いふよりも寧ろ。2019年新作にしては、シレッとシリアスな地雷を踏み抜く大問題映画。
 油断するとそこかしこ牧歌的かETVの子供向け番組的なテイストに、家にゐても不自然にキメッキメな愛香妹のメイク。文字通り天下の往来にて、あたかもハンカチであるかの如くTバックを裸で持ち歩くはおろか、頭上に掲げ振り回してすらみせる底の抜けた所作。演出的にはある意味楽なのかも知れないが、高確率で爆死するアッカンベーの呪ひ。見事全滅した第一次初体験トライアルの反省を踏まへ、相手を全員入れ替へた第二次その名も“シャッフル同衾”。が、まとまるや朋世が同衾音頭をてれんてれん踊りだす、今は亡き荒木太郎に劣るとも勝らない壮絶なセンス、死んでねえよ。真樹孝介で早速頭を抱へた、場数不足の大根男優部が仕出かす、本来見せ場たる濡れ場が見るに堪へなくなるとかく外様作にありがちな悲劇は、テラハ以下三名は案外回避。躓き処には概ね満遍なく事欠かないにせよ、掛け合ひの軽やかさは手放しに瑞々しく、仲良し女子四人組のロストバージン物語はそれなりに見てゐられる。奈々の四人中最もハードルが高いかに思へた、信仰上の理由のへべれけな突破ぶりと、逆に展開上の要請には思ひ至らないフリをすると、愛香の無毛は一番低くね?といふそこはかとなくもない割と重大な疑問さへさて措けば。裸映画的にも少なくとも量的には全く潤沢で、中でも非裸稼業から果敢に参戦した後藤つきが、最強に訴求するワンマンショーを轟然と披露し気を吐くのに加へ、かずやの件で予め負ひ目を感じるはるなはまだしも、愛香のペナルティ自慰に奈々と朋世も兎に角飛び込ませ、四本柱満開の百合を遮二無二咲き誇らせた覇気は素晴らしい。さうは、いへ。
 到底看過し難いどころか、断じて無理ぢやボケな致命傷がかずやの永遠に続く前戯の、エターナルたる所以。愛香からも果てしなさを難じられた、かずやは血を吐くやうに振り絞る「性的なものに全く興味が持てへん」。長いものとなるとLGBTTQQIAAPとか、全ての性的マイノリティを頑強に救済せんと矢鱈な細分化を図つた結果、最早何だかファミコンのコマンドみたいになつてゐる所謂LGBT界隈。かずやは比較的短めなLGBTAの“A”ことAsexual、即ち無性愛者であつた。といふアクチュアルな風呂敷をオッ広げてゐながら、はるなとの関係の終息には涙すらするかずやを余所に、“人として”―おかしい―とまでそれこそ人としていつてはならない台詞を無造作に投げた愛香は、“私の方が泣きたいよ”と逆ギレしてのける。詰まるところ、アセクシュアルを愛香がミッションをクリアし損ねた方便―と、はるなのそもそもな事情―に使ひ捨てた、に止(とど)まらず。愛香からその旨を聞いたはるなもはるなで“何時か結ばれたい”だなどと、どいつもこいつもビリング頭二人がかずやの切実通り越して悲痛な苦悩を1mmたりとて理解してゐない、小栗はるひのレス・ザン・頓着極まりない態度は果たして如何なものか。満足に畳まない畳めない風呂敷なんて、初めから広げなければいい。クィア方面にも顔の利く、御存知反骨にして苛烈な歴戦のフェミニスト・浜野佐知に脳天から秘裂まで一刀両断されてしまへ、といふのは意図的に滑らせた筆で、直截なところ、小栗はるひの思想自体は別にどうでもいい。但し、オカマだインポだとぞんざいに笑ひ飛ばして済ませた、よくいへば古き良き旧態依然に座して殉ずるのでなく、大蔵ではないオーピーは新しい風で、新しい時代を切り拓くつもりの一環で今回小栗はるひを連れて来たのではないのか。そのザマが、斯くもアナクロな自堕落で果たしてよいのか。当サイトは純然たるストレートで、クィアに借りた金も通す義理も特にない。にしても2019年にこの映画はあり得ない、正しく言語道断であると段ボール箱一杯のスプーンを小屋中にバラ撒いた一作、あくまでイメージである。他方巷間のアワードに目を向けると、切通理作主幹の『シネ☆マみれ』誌主催のベストテン七位と併設された桃熊賞の監督賞に、西田カリナの助演女優賞。ザッとツイッター検索を眺めてみても、比較的好評の模様。尤も、新規に甘く、あるいは温かく接するのはピンクス相互なり供給側のユーザー目線の話としては兎も角、作品の評価に関しては、決してためにならないのではあるまいか。

 最もポピュラーである“スワッピング”を廃し、重ねて使用頻度は決して高くない“同衾”をわざわざ持ち出す。恐らく明確な狙ひがあると思しき用語法を窺ふに、“シャッフル同衾”といふのは、「機動武闘伝Gガンダム」(1994~1995)中に登場する最強の武闘集団・シャッフル同盟をフィーチャーしてゐるにさうゐない、と如何にもキモオタぽく勘繰るものであるがどうだらう。


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コメント
 
 
 
Unknown (Unknown)
2021-01-28 04:25:50
元スケバン「処女喪失してこい」
ヒロイン達「はい」

これだけでガックシでした。。。
理不尽な命令に何も抵抗しないとは。。。
自分のセンスが恐ろしく古いとは思ってるんですが。。。(´д`;
その後のルール強化もたしかに今の若者らしいのかもしれないけど、単に(しょうもない現実に)順応してるだけで、そんな若者らしさなんて(゚⊿゚)イラネ

ラストの神宮寺ナオのストリップは良かったです(純粋にスケベ親父としての感想)。
 
 
 
>「処女喪失してこい」>>「はい」 (ドロップアウト@管理人)
2021-01-28 07:04:24
 流石にそこで躓くと、物語が端から始まらないんで・・・
 あるいは処女信仰を再認識して終了とか(笑

 割と唐突に捻じ込んでるんですが、本屋の娘のワンマンショーに深い感銘を受けました。
 
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