真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「いんらんな女神たち ~目覚め~」(2014/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/第一話スタッフ 脚本・監督:小山悟/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/撮影助手:中村ゆう子/企画協力:鎌田一利/脚本協力:小鷹裕/第二話スタッフ 監督:永井吾一/脚本:佐藤稔・永井吾一/撮影監督:佐久間栄一/編集:酒井正次/撮影助手:大江泰介/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/共通スタッフ 録音:シネキャビン/助監督:禅立煙猫/監督助手:小関ユウジロウ/音楽:小鷹裕/スチール:津田一郎/現像:東映ラボ・テック/主演:友田彩也香/第一話キャスト:星野ゆず・久保田泰也・岡田智宏・倖田李梨・加藤義一・竹洞哲也・鎌田一利・森羅万象/第二話キャスト:春山めい・佐藤良洋・亜留蜂乃・山口真里・松井理子・伊藤猛)。第一話キャスト中、加藤義一・竹洞哲也・鎌田一利は本篇クレジットのみ。第二話監督と共同脚本の永井吾一が永井卓爾の変名で、助監督の禅立煙猫といふのは、撮影当時前立腺炎を患つてゐた小鷹裕の変名。更に、第二話キャスト中亜留蜂乃だとか他愛のない名義は、クレジットから抜けてゐるけーすけの変名か。ついでで佐藤稔の名前を見かけるのは、「したがるかあさん 若い肌の火照り」(2008/監督:堀禎一/脚本:佐藤稔/主演:かなと沙奈)以来結構久し振り。
 クレジットの流儀に従ふと共通題のタイトル開巻、鄙びたバッティングセンター。ヘルメットまで赤で固め豪快な大根切りで空振りする森羅万象に、倖田李梨が大はしやぎで声援を送る。森羅万象と倖田李梨のコンビが、実にイイ感じ。この二人、この後(あと)ガッツガツしたセックスするんだらうなといふ風情を漂はせる。高卒後十一年―長えな!―当地でアルバイトを続ける、元高校球児の景浦伸二(久保田)が咥へ煙草で古く調子の悪いピッチング・マシーンを整備し、黒ヘルの若い女が予告ホームランの動作で打席に入る。金を入れたのに球が出ないと伸二の下の名前を呼び苦情を入れて来た女は、十一年前に死んだ筈の野球部マネージャー、兼伸二の彼女・南舞(友田)であつた。混乱する伸二と舞がすつたもんだした後(のち)、森羅万象と倖田李梨も金を入れたのに球が出ないと伸二をドヤして第一話題「場内ホームラン」が改めてタイトル・イン。伸二と、同棲相手・松林凛(星野)の生活もモニタリングしてゐるらしき舞はその後も伸二の前に現れ、舞からの電話を取つた凛の頭上には、謎の金属バットが降つて来る。これがロケーションも鑑みるに、一体何処から降つて来たのか本当に超常現象。凛にも出て行かれ、伸二は次第に消耗する。
 第一話配役残り岡田智宏は、吉商野球部監督・工藤安武。伸二の子供を妊娠した舞は、不祥事を懼れ秘かに堕胎。そのための費用稼ぎの援助交際を今度は工藤に嗅ぎつけられ手篭めにされかける現場に、伸二が飛び込む。三人が揉み合ふ中、舞は工藤に金属バットで撲殺される。加藤義一と竹洞哲也と鎌田一利は、バッセンその他客、並びまではロストする。それと一点瑣末、舞が伸二をバッセン事務所に訪ねる件、伸二の煙草が変つてるぞ。
 第二話「『思ひ出作り』『自分探し』『夢』『愛』に関するピンク」、センスのないタイトルで開巻。偽女子高生のノノミヤナナコ(友田)と、淫行補導教師―本物の教師か否かは不明―のコシミズ(だからけーすけ)が三万の約束でホテルに入る。事後シャワーを浴びる隙に支払前のコシミズに逃げられたナナコを、彼氏のアツヤ(佐藤)は激しく叱責する。人気AV女優と超一流ヴィジュアルアーティストを共に目指すと称して、アツヤは要は家出娘相手の質の悪いスケコマシだつた。続いてナナコが客を取らされたキンジョー(伊藤)は、背にはシーサーの彫物を背負ひ、勃たなかつた。なほかつ上着からは回転式拳銃まで転がつて来たがキンジョーの振る舞ひはジェントルで、金払ひもよかつた。
 第二話配役残り、見切れるか見切れないかの写真出演に止(とど)まる山口真里はナナコ憧れの、AV女優からタレントに華麗な転身を果たした夢の島舞、何なんだその関取みたいな苗字は。松井理子は街頭ビジョンから夢の島舞急死と、広域指定暴力団鍋組の渡邊元嗣―読みはゲンジ―組長襲撃事件を伝へるアナウンサーの、声のみ。春山めいはナナコと縁を切る前からアツヤが部屋に連れ込んだ、ナナコの後釜・ユズキ。
 金沢勇大・中川大資・矢野泰寛名義の北川帯寛・江尻大が合同デビューを果たした無印第一弾「いんらんな女神たち」(主演:佳苗るか・森ななこ・円城ひとみ・上原亜衣・津田篤)、中川大資の単独デビュー作「女子トイレ エッチな密室」(脚本:小松公典/主演:由愛可奈)を経て、小山悟と現役助監督界最後の太者、もとい大物・永井卓爾が二人それぞれ初陣に挑む「いんらんな女神たち」最終第二弾。主演女優は共有すれど、二篇の中身自体は半欠片たりとてリンクしはしない。終にあの大蔵もデジタル移行といふ歴史的なトピックとの兼合ひもあるのかも知れないが、北川帯寛は兎も角中川大資―にせよ第二作―以外残る四人の一人立ちの話が依然聞こえて来ないのは、地味に問題でもあるまいか。
 意図的にザラついた撮影に、俳優部若年層の面構へが浮いてしまふ仕方のない違和感も否めぬ小山悟の第一話は、新味に乏しい塞ぎ込んだサスペンスが、よくいへばよくも悪くもない。個人的な時事意識としては斯くも手当たり次第万事手詰まつた状況下に於いて、閉塞感だけ放つて寄こす感覚は、大いに疑問視したい。冷たい北風には吹かれ慣れた、小屋の暗がりの中でくらゐ、他愛ない慰撫にせよ怠惰な御都合であつたにせよ、暖かい南風を吹かせて欲しい。それと再度もう一点、今度は瑣末ではない。バッセンが伸二と舞にとつて思ひ出の残る場所であるといふ情報を、梓の指摘以前に完全にスッ飛ばしてのけるのは娯楽映画の段取り上甚だ如何なものか。最後に、どうにも腹の虫が納まらないのが、逆立ちしても経験者には見えない伸二のクソ以下のスイング。誰か久保田泰也の辞書に役作りの項目を追加して呉れ、商業映画ナメてんのか。対して永井卓爾作は、こちらもこちらで清々しく救ひのない物語とはいへ、最後の最後に再び飛び込んで来たけーすけが、ユーモアで暗さを埋め上手いことバランスを取るラストは、実のところは全く以て類型的な手数ながら確実な手応へで映画を締め括る。持ち尺十五分といふ非常に窮屈な戦ひを強ひられた、金沢勇大と北川帯寛と江尻大を同じ土俵に上げるのは公平を欠く気もしつつ、「いんらんな女神たち」組の中では永井卓爾に、流石に一日どころでは済まない長を感じた。
 加へて当然通り過ぎることが許されないのは、渡邊元嗣2014年第二作「純愛不倫 恍惚のくちづけ」(脚本:山崎浩治/主演:本田莉子)に続く、昨年九月に飛び込んで来た急過ぎる訃報が深い衝撃と哀しみとを呼んだ、伊藤猛のピンク・ラスト・バトル。今回は脱衣しての濡れ場も敢行、髪には白いものが混じり、深い皺が刻まれた表情はお爺ちやんにも見え、血色はよく、口跡にも所作にも覇気がある。五月中盤に封切られた今作の撮影時期が正確に何時頃であつたのか―もしかすると「純愛不倫」より先なのかも―は存じ上げないが、大雑把な筆を滑らせると、半年後には亡くなるいふなれば末期の人間には凡そ見えない。伊藤猛がエクセスライクなヒロインを頑丈にサポートする、既に地獄に堕ちた娘と、これから地獄に赴く男との邂逅は抜群に見応へがある。ナナコの、アツヤに傷つけられた背中に気づいたキンジョーは、直前の遣り取りも踏まへ「酷いことする神様だな」。第二話冒頭、同じシチュエーションにて無造作に昂るコシミズとの対比込みで、如何にも伊藤猛らしく投げた台詞が今も耳に残る。伊藤猛にカッコいい花道を用意した功績を、永井卓爾も胸を張れると思ふ。

 拙筆オーラス、二発目は何処にどうなつたのか二回観てもよく判らなかつたのだが、弾着がそこそこの出来。相当のアップで切り抜けざるを得ない着弾先を、劇中最初のナナコ帰宅時に、それとなく見せておいた一手間も心憎い。


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