真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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熟女マントル 欲望放出
あ行
/
2012年11月03日
「
熟女売ります
」(1991『熟女マントル 欲望放出』の2012年旧作改題版/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:新東宝映画/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/撮影助手:余郷勇治/照明:隅田浩行/編集:井上和夫/助監督:國沢実/スチール: 最上義昌/録音:銀座サウンド/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドBOX/現像:東映化学㈱/出演:中川みず穂・稲村竜・織本かおり・井上真愉美・風間ひとみ・島村謙二・野澤明弘・久須美欽一・麻生勍司)。さあて諸々あるぞ、照明の隅田浩行と、出演者中井上真愉美と島村謙二・野澤明弘に麻生勍司が、ポスターでは順に隅田知行・井上真愉見・島村譲二・野沢明弘・麻生勅司、何でさうなるのか。
娘・アカネ(子役は登場しない)の教育方針を巡り夫婦喧嘩する、稲村竜と井上真愉美の声に続けて新宿。随分と日も高く見えるがアフター5に一杯やるかとしたサラリーマンの亀山(稲村)と同僚(麻生)は、それぞれその旨連絡を入れるため電話ボックスを探す。プリントの綺麗さに忘れかねないものの、時代を感じさせる光景ではある。さうしたところ、妻・キョウコ(井上)から出し抜けに実家に帰る、かも知れない最後―の半歩手前―通告を受け、麻生君(仮名)も女の下へ向かふといふので軽く途方に暮れた亀山は、“120パーセントの女”なるピンクチラシの惹句に釣られマントル―マンション・トルコの略―「エンゼル」に電話をかけてみる。ビリング推定で、猛烈に紛らはしいが織本かおるとはあくまで別人の織本かおりが、「エンゼル」のママ。後に亀山が後輩の加藤(野澤)に語つた弁によると、雇はれママといふことなのか人妻で、配偶者は長距離を走るトラック運転手。亀山に特にこれといつた希望はなく、ママに見繕はれたアケミ(中川)が、愛車のレモンイエローのベンツ280Sで亀山の前に現れる。勿論、アケミがママから連絡を受けるのは自動車電話。料金は二時間三万四千円、その癖、車で五分といふアケミのマンションに到着する頃には、真つ暗に日が暮れてゐたりする無頓着さが清々しい。ともあれ亀山はアケミと、満ち足りた束の間を過ごす。中川みず穂を観るのは初めてであつたが、アイドル級に整つた男顔に、ポップに琴線を激弾きされる。
配役残り、久須美欽一は亀山の上司で部長職の、多分斉藤。この人と麻生君は、絡みの恩恵に与らず。島村謙二は斉藤が是が非とも獲りたい、契約の相手先「丸菱商事」のナカギ専務。バーターに枕を要求するナカギに対し、斉藤が「これですか」と立てた親指を「何だこれは」とナカギが扇子で叩き、惚けて小指を立て直す下らない遣り取りがテンポも抜群で堪らない。斉藤から助けを求められた亀山がアケミを使ふ、微妙に複雑な心境のナカギ攻略戦を経て、祝杯の席にジゴロ自慢の加藤参戦。何処に出て来たのかが本当に判らなかつた風間ひとみは、加藤の「エンゼル」連戦内に瞬間的に見切れる、その他マントル嬢なのか?巨大な世話に過ぎないが、それぞれ野澤明弘と織本かおりで全く代用の効く麻生勍司と風間ひとみは、削つて削れぬ頭数ではあるまい。
二本
きりでは当然到底未だ全貌のヒントの欠片にも辿り着き得てゐない、市村譲の1991年全八作中第五作。亀山とアケミのそれなりに都会的な大人の恋愛映画で幕を開いておいて、セックスマシーン・加藤がアケミに興味を持ち「エンゼル」に足繁く通ひ詰める。即ち野澤明弘の濡れ場―の羅列―が支配する中盤、物語は一旦完全に消失する。終盤は取つてつけた順に対加藤、対アケミの二幕挿んで、休日の朝亀山が不意に思ひついたピクニックに家人を急かす、調子のいいハッピー・エンドに何となく着地。統一的なテーマなりストーリーには色気すら感じさせない一方、一幕一幕単位の演出は手堅い。それゆゑ何てことのない展開を何てこともなく見させる始終は、観客に無用な緊張を強ひないといふ面に於いては、量産型娯楽映画として良心的な一作といつていへなくもなからうか。惜しいのは、男主役たる亀山を演ずる稲村竜の、清水大敬と日比野達郎を足して二で割つた上に、止(とど)めで八掛けしたかの如く煌かない華のなさ。これでこゝの穴が埋められてあれば、主演女優に素直に連動した、スマート・ピンクへの途も拓けてゐたやうに思へる。
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