真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ブルセラ編 ザ・盗撮マニア」(1994/企画:サン企画/配給:大蔵映画/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/撮影助手:倉田昇/照明:堀川春峰/編集:酒井編集室/助監督:関口智康/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドBOX/協力:ラピス六本木《ランジェリー店》/出演:若菜いつき・夏川葵・林田ちなみ・野上正義・太田始・樹かず・神戸顕一)。
 断固としてさうは見えないが女子高生らしいミカ(ビリングの推定で若菜いつき)が、多分大学生の彼氏(樹かず)と六本木でデート。ホテルで致しながら頻繁に、ミカが下着を履き替へなほかつ古い下着をパッキン付きのビニール袋に保存するのは兎も角、ここの濡れ場に際しハチャメチャに動く手持ちのカメラは全く理解出来ない。動き方が絶妙にランダムで、臨場感といふよりは主に不安感を惹起する。樹かずと別れたミカは当時隆盛のブルセラショップに店長の野上正義を訪ねると、下着を金に換へる。圧倒的に渋い黒の革ジャンに身を包み、昭和の香りを爆裂させつつ外出した野上正義は、街行く女達に下着を売つては貰へまいかと仕入れに精を出す。乗つて来た制服姿の女子高生・ヨシコ(覚束ない消去法から夏川葵)に五千円を渡したガミさんは、路駐したライトバンの中で下着を替へて来るやう求める。バンの中に仕掛けられてある股間を狙つた盗撮カメラを、勿論ヨシコは知らない。ガミさんに紹介されたテレクラを通して、ヨシコはサラリーマンの太田始と会ふ。インスタントにホテルで一戦交へるのはいいとして、まあ、ヨシコの腹の肉の太いこと太いこと太いこと。太田始が、肉の海の中で溺れてゐるやうに見える。さういふ肉襦袢が―しかも女子高生役で―堂々と登場してのけるアメイジングに、時代の太らかさ、もとい大らかさを感じ取ればよいのか。太田始が、といふか太田始も盗撮カメラを回してゐるのに今度は気付いたヨシコは、ガミさんを呼ぶ。筋者風に凄んでみせ、太田始から持ち金とカメラとを巻き上げた返す刀で、ガミさんはヨシコと寝る。場面はガラリと変り、林田ちなみと神戸顕一の夫婦なのかさうでもないのか関係性からよく判らないカップルが、どうやらそれを生業としてゐるらしき、自宅での自分達の情事をビデオに収める。林田ちなみもパンティを売るらしく、履いたまゝ事に及ぶ。プロポーションは普通なものの顔が散らかつてゐるミカに、腹肉のまあ太い太い太い太いヨシコ。林田ちなみの登場に、初めてマトモな女優が出て来たとホッとする。事後パンティにオマケとしてつける林田ちなみのエロ写真を、二人で選ぶ。ガミさんとブラつくヨシコは、制服のミカと合流、二人は高校の同級生であつた。口から出任せの身の上話でガミさんから金を巻き上げるのに成功したミカとヨシコは、二人でホテルに入る。ここでの、野上正義の昔気質を気取るブルセラ店店長の芝居が、今作の映画的頂点か。風呂に入りながらのマッタリとした濡れ場の内に、唐突にエンド・マーク。ところでこの期に気づいたが、制服でフロントを通過出来るのか?
 憚りながら六百本を超えるピンクの感想―十二本に一本は新田栄であつたりもするのだが―を書き倒して来た上で、初めて遭遇する未知なる監督・市村譲。jmdbのデータによると昭和55年のデビュー以降、今作の翌年1995年まで計117本を―殆ど全てに近く―主に大蔵から発表してゐる。サラッと触れてみたが、決して馬鹿に出来る数字ではないのはいふまでもなからう。のうのうと全篇をトレースしたゆゑあはよくばお察し頂けるやも知れないが、実は今作には、統一的な筋を持つた起承転結といふものは一切存在しない。僅かに間にガミさんを挟んでミカとヨシコが繋がる程度で、樹かずも太田始も、用が済めば退場するばかり。二人揃つて麗しい濡れ場要員である林田ちなみと神戸顕一の、撮影したビデオや使用済みパンティも、別にガミさんの店で捌くのか否かも明確ではない。そもそも辛うじて主人公と思しきミカとヨシコ自体が、何らの物語も終に纏はないのだ。場面場面はヨシコの腹回りのほかには目立つた破綻もなく、概ね手堅く纏まつてはゐるものの、それでゐて斯くも鮮やかに明示的なストーリーもテーマも回避してみせるといふのも、腹の据わつたルーチンワークにして初めて可能な、それはそれとしての難事であるやうにも思へる。 1994年といふ数字以上に異常に古びて見える映画の肌触りはそれだけで個人的には心地良く、同時に途中で寝落ちてしまつたとて、さして構ふまい。勝ち負け強ひてどちらかといふならば今作の敗因は、女優部と男優部のバランスが取れてゐない点にあるといへようか。

 因みに1994年作のしかも旧題のまゝではありつつ、今回王冠の大蔵マークではなく、普通に今時のオーピー映画のカンパニー・ロゴで開巻する。久し振りに懐かしいファンファーレが、聴きたくもあつたのだけれど。それと「ザ・盗撮マニア」のブルセラ編以外の他篇といふのは、ザッと探してはみたが見当たらなかつた。


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