真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「SEXファイル むさぼり肉体潜入」(2012/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/撮影:小山田勝治/撮影助手:宇野寛之/見習ひ:末松祐紀/照明:ガッツ/助監督:北川帯寛/応援:田中康文・岡輝男/編集:有馬潜/音楽:中空龍/タイトル:道川昭/出演:大城かえで・浅井千尋・佐倉萌・松井理子・平川直大・丘尚輝・なかみつせいじ・小林徹哉・新居あゆみ、他)。照明のガッツが、ポスターには守利賢一、変名のカミングアウトに当たる。出演者中、小林徹哉・新居あゆみ、他五十音順の計八人は本篇クレジットのみ。Thanks二者をロストする。
 エフェクトのかけ過ぎで何が映つてゐるのか初見では殆ど判らず、都合三回目の挿入で漸く把握出来たのだが、それはさて措き黒い鶏の着包み―着包み自体は案外可愛らしい―を着用した怪人物・チキンマンに陵辱されるイメージと、「また、あの夢・・・・」、悪夢から目覚めた主演女優とを手短に連ねタイトル・イン。
 旦々舎にしては相当久し振り、もしかすると今世紀初ではなからうかとも思はれるまさかのミサトスタジオ、タキシードに伊達なハットを決めた鳥骨鶏ライフ(以後UL)の代表・神尾忠則(なかみつ)が、大城かえでら会員の面々を出迎へる。ここで、出演者中本篇クレジットのみ勢は、後々含めUL会員要員。妙に服装の若い山邦紀も、結構ガッチリ見切れる。後述する前作よりも更にイントロダクション乃至は以後の説明も省略した、セックスするには免許証の所持が必要とされる社会。免許証が交付されるのは幾つからで、それ未満の者の“犯罪”を、一体如何に処罰するのか。神尾は悪法もまた法なりとはしつつも、鳥骨鶏の卵の頒布を通して、セックス免許制に反対する運動を展開することを表明する。因みに、何でまた鳥骨鶏なのかといふと、山邦紀の卵偏愛は恐らく浜野佐知の知つたことではないにせよ、「人妻の恥臭 ぬめる股ぐら」(脚本・監督:山邦紀/主演:大城かえで)で用意した鳥骨鶏を、さくらと名付け浜野佐知が飼つてゐるからである。洋行帰りで、日本の特殊政策に仰天しULへの参加を決めた、藤代文緒(大城)を神尾が一同に紹介し、UL上級会員の平田信幸(丘)は、文緒に丘尚輝(=岡輝男)一流なのだか二流なのだか兎も角劣情の透けて見える視線を注ぐ。ところが実は大城かえでは、一言も語られないので何の略なのか手も足も出ない、F・G(意外とファイティング・ガール?)と呼ばれるSEX捜査局若くして伝説の女捜査官で、相手の声は多分丘尚輝二役のスカイプ的な会議を経て、ULへの潜入捜査を図つてゐるものだつた。神尾は一人残した文緒を、エキゾチックな扮装の吉村美代(松井)が控へる祈祷室に誘(いざな)ひ、古代インカ帝国より伝はるとかいふ―無論レッドな嘘で、過去作で何度も見覚えのあるブツである―張形で挨拶代りに嬲る。チキンマンを繰り返し想起する文緒には、もうひとつ囚はれる記憶があつた。それは幼少時に姿を消した、義父の背中。ところで、終盤の解説がゴチャゴチャする徒な実父回避の不可解の所以は、これは近親相姦を禁ずる、オーピー・レイティングに抵触したといふことなのか?話を戻して後日、神尾から手渡された卵を手にホクホク顔のUL一般会員・黒川諒介(平川)は、工藤百合香(浅井)とぶつかつた弾みで大切な卵を落とし、割つてしまふ。慌てる黒川を、百合香は自宅に招く。一方、文緒は神尾から“セッション”と称して、平田との祈祷室での情事を持ちかけられる。それぞれ互ひの免許証を照合した上での、浅井千尋×平川直大+大城かえで×丘尚輝二つの絡みが併走する中、事前に食させられた秘伝の剥き卵の薬効なのか、異常に興奮した文緒は、最終的には前門の平田と後門の神尾に挟まれる、二穴責めのエクストリームをも受け容れる。事後訝しみ、指先から採取した血液の簡易検査で違法薬物の使用に辿り着いたF・Gに、スカイプ越しの声は他部局からの、別の潜入捜査官の存在の可能性を告げる。
 浜野佐知2012年第一作は、重層的に交錯するイデオロギーがダイナミックに火花を散らす、思想の魔性あるいは歴史の狡猾をも射程に捉へた大ロマン「SEX捜査局 くはへこみFILE」(2006/主演:北川明花)の、オーピーからの要望を受けての五年ぶりとなる待望の続篇、ではあつたのだが。謎のチキンマン、蒸発した父親、そして正体不明もう一人の潜入捜査官。娯楽映画一般的には必ずしも疑問手ではないとはいへ、不用意な機軸を下手に盛り込んだ結果、始終は旦々舎的には甚だらしくない着地点に、悪い意味で素直に落ち着いてしまつた。確かにそれなりの強度は有してゐる反面、F・Gが神尾をカッコよくパクるのが一件の落着だなどと、天下御免の浜野佐知ともあらう女傑が、あたかも御上の片棒を平板に担いで済ますやうな物語を捻りもなく撮り流してみせるのは大いに考へもの。一応オーラスには、少なくとも日本人の全てがせえのでニュー・タイプに覚醒する日をイマジンする遣り取りも設けられはするものの、お為ごかしなエクスキューズ感は清々しく否めない。寧ろ、「あたしのセックスはあたしのもの」と金剛力士の如き面相で豪語し、当然セックスの免許制には反対しながら、同時に仮に薬物で誑かした女を喰ひ物にしてゐるのであるならば、当然ULも許してはおけない。官憲に捜査協力するにもあくまで自身の筋を通す、百合子ならぬ百合香の雄々しい、もとい雌々しい姿こそが、矢張り浜野佐知映画のヒロインには相応しい。偽造免許証の行使で摘発され、消沈する黒川を百合香が力強く励ますカット。与へられた役どころを骨の髄から理解した平川直大の好演にも支へられ、安定感は抜群、実に素晴らしい。強いエモーションを秘めた眼差しは光るがここまで二戦作品には依然恵まれぬ大城かえでを抑へ、今作最も輝いてゐたのは浅井千尋とみるものである。

 配役残り、何故か喪服の佐倉萌は、自らの不倫といふ身から出た錆で離婚後免許を失効、ULを頼る松島加奈子。元夫の免許は継続してゐることを捕まへ、「女は夫以外の方と、恋も出来ないのでせうか!?」と利いた風な口を叩くが、現行憲法下逆のケースでは男の免許のみが失効し元妻のものは継続することが常識的には予想され得る以上、一言で片付ければ自堕落な女でもある。それはそれとして、三番手ベテラン女優の濡れ場をクライマックスの修羅場に文字通り直結させるのは、流石と唸らされる熟練の妙手。いかつい男前を活かす田中康文は、UL本部を警護する黒服、スタンガンに昏倒する小芝居が完璧。
 最後に、映画の中身とは欠片の関係もないが、“見習ひ”といふスタッフ・クレジットは地味に凄い。初めからその旨であつたのか、現場で余程役に立たなかつたのか。


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