真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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三十路妻 濃蜜な夜のご奉仕
関根和美
/
2012年11月05日
「
三十路妻 濃蜜な夜のご奉仕
」(2012/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:金沢勇大/編集:有馬潜/監督助手:小鷹裕/撮影助手:榎本靖/照明助手:大前明/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/出演:白華ユリ・水沢真樹・片瀬由奈・甲斐太郎・泉正太郎・亜希いずみ・なかみつせいじ)。出演者中、亜希いずみは本篇クレジットのみ。
天地大作(なかみつ)が床の中で本を読んでゐると、「貴方ァ、ジャ~ン!」といふ底の抜けた嬌声とともに、妻の典子(白華)がブレザーの女子高生制服姿を披露し旦那を悩殺、したつもり。四十路手前の女―劇中設定で三十八歳、白華ユリの実年齢は知らん―の無茶振り以前に、何でまた今回のNSP―ニュー・関根和美・ピンクの意―の主演女優は、
日本語が片言なんだ
。無論、まづ間違ひなく白華ユリが外国人といふ訳ではなく、単に口跡が覚束ないだけである。ルックスは明らかに古臭いとはいへ確かに美人ではある―然し静止画と動画とで正反対の別人に見える、写真になると、どうしてか険がある―ものの、新田栄が沈黙するだか強ひられる昨今、かういふ女優?を堂々とビリングの頭に据ゑる豪気な御仁も、最早関根和美くらゐしか残されてゐないのではなからうか。今生御大小川欽也は、素直に若い娘が好きなのか、高目に浮いた無茶は滅多に仕出かさない。閑話休題、結婚二十年を迎へ、直截にいふと大作が典子に飽きた現状を打開する為に、カンフル剤なのかそれとも単なる趣味なのか、兎も角コスプレは典子から持ち出した機軸であつた。それに止まらず、今宵のブレザーには、更に特別な意味が。二十年前、大学受験生である典子の家庭教師を、七つ年上で、当時三浪+大学四年生の大作が務めた。その時の一度の過ちが、見事多分一人息子の健作(後程登場する)に命中、現在に至るといふ寸法である。ところで回想パートに際し典子はブレザーとして、それでは大作の扮装はといふと、角帽×瓶底メガネ×詰襟。クリシェにしても誰も使はなくなつた期限切れの遺物を、グルッと一周した飛び道具に転化する荒業も、関根和美ならではといへよう。今も御存命であつたとて、大御大小林悟でさへここまではやるまい、いや、やるのかな?
許されると許されざるとのラインが俄におぼろげとなりかねないので気を取り直して先に進むと、ともあれ最初の絡みとなる夫婦生活がひとまづ十全に完結したタイミングをまるで見計らふかのやうに、叉ぞろ夫婦喧嘩の末に家を飛び出したのか追ひ出されたのだか、大作父親の勇作(甲斐)が天地家―の寝室―に闖入、大作は驚き典子は悲鳴を上げる。過去に、勇作のセクハラが原因でノイローゼになつたことのある典子は頑として首を横に振る一方で、裏山がソーラー発電会社に売れた―関根和美なりに、時流を酌んでみせたか―とやらで一億の遺産をちらつかせられると、大作は父親の逗留を認めてしまふ。そんなこんなで、尻を触り風呂は覗く、翌日の勇作が破廉恥に羽目を外す件はロケーションから同一であることもあり、「
四十路の奥さん ~痴漢に濡れて~
」(2006/脚本:関根和美・水上晃太/主演:三上夕希・牧村耕次)を激しく想起させる。カッコよくいへばセルフ・リメイクか、無論違ふが。その夜、完全に臍を曲げるのも通り越した典子の機嫌を大作は修復するべく、随時顔を挿む、天地家出入りのジョイトイ訪問販売員―何だそれ(´・ω・`)―横山水穂(水沢)から下心も込みで購入したイボイボ君コンドームを駆使しての、劇中二度目、連夜の夫婦生活。未知の、そして強烈な快楽に典子が満ち足りたのも文字通りの束の間。ここは正直シークエンスが甚だ雑なのだが、フと隣に顔をやると勇作がニヤニヤ笑ひで添ひ寝してゐることに仰天、逆に典子が終に家を飛び出す。
関根組三戦目の新常連・泉正太郎が、両親とは同居してゐない健作。泉正太郎と一緒に登場して一緒に捌ける片瀬由奈は、典子の不在も知らず、健作が実家に連れて来た婚約者・志田綾乃。恐ろしいことに、何とこの人の台詞回しもへべれけ。白華ユリと同様、容姿には難がないことを寧ろ喜ぶべきなのか。後述するが要は全員濡れ場要員に過ぎない三本柱の中で、結果的にといふか相対的にといふか、水沢真樹が貫禄の大女優にすら見える。実際に、35mmカメラに捉へられることに、長足で慣れて来た風情は大いに窺へるのだが。
この期に及んで案外元気な関根和美の2012年第一作は、一旦姿を消したヒロインが出戻るまで完全に退場したまま本当に一切何もしない点が無言で雄弁に物語るが如く、女の裸が売りのピンク映画にありながら、あくまで主眼はボケ役の甲斐太郎の老獪にツッコミ役のなかみつせいじが時に軽妙に時にフルスイングで絡む、そこかしこで抱腹の父子コント。共に歴戦の大ベテラン故、息を合はせる程度は朝飯前ともいへ、丸顔の二人を並べてみると、絶妙に本物の親子に見える。当初は―勇作役は―牧村耕次ではないのか、と思へなくもなかつた反面、単なる結果論に過ぎないのかも知れないが、これは見事な配役の妙ではないか。基本面白可笑しく、当然所々で適宜助平に、そして次第にしみじみ染ませる父子劇は、やがて電話越しの声のみ聞かせる大作母親(亜希)の繰り出す大概な力技で、イイ話に、硬軟は微妙ではあれど何れにせよ、無事な着地を果たす。ホロッとしかけたところで、お芝居のフリーダムな主演女優が改めて卓袱台を引つ繰り返すほどのことはなく散らかしてみせる辺りは、照れ隠しとでも曲解してしまへ。大前提としてツッコミ処は満載の上で、笑ひあり情もあり、色気に関しては意外と地味に手堅い。そして正しく仕上げに愛妻・亜希いずみも飛び込んで来るとあつては、関根和美の当たりが観られたと、穏やかに幸福な気持ちになれる一作である。
因みに、見切れることならば以降もありつつ、亜希いずみの名前がクレジットに載るのは、実に「
どスケベ坊主 美姉妹いただきます
」(2005/脚本:関根和美・宮崎剛/主演:朝丘まりん・城春樹)以来となる、思ひのほか久し振りだ。
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