真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「白昼の人妻 犯られる巨乳」(2011/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典・山口大輔/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/助監督:山口大輔/監督助手:布施直輔/撮影助手:丸山秀人・酒村多緒/音楽:與語一平/美術協力:さつかわゆん/エンディング曲:かほりはうたうことにした『夜がきた』/協力:加藤映像工房・江尻大・新里猛作・高野平/出演:櫻井ゆうこ・かすみ果穂・酒井あずさ・園部貴一・毘舎利敬・岩谷健司・倖田李梨《特別出演》・井尻鯛《特別出演》・サーモン鮭山・岡田智宏)。あちこちクレジットの情報量に屈するが、新里猛作の名前は久し振りに見た。
 背景には風力発電設備の聳える、風車(かざぐるま)の何本か立てられたまるで賽の河原のやうな海岸。しやがみ込む櫻井ゆうこの傍らに立つた倖田李梨が風の出て来たことを告げるのを、背中から抜く開巻。
 頭に包帯を巻き、自宅内を人の家のやうにぼんやりうろつく櫻井ゆうこを噛ませて、回想パート。寂しいリビング、浴衣姿の長野優子(櫻井)が、仏頂面でスケッチブックに鉛筆を走らせる。一見綺麗な加藤義一に思へた―この似顔絵の主が、さつかわゆんなのか?―のは、岡田智宏。ある一定の癖に支配されてゐるので、絵としての上手い下手は兎も角、似てゐるゐないでいふとあまり似てはゐない。そこに、夏祭りに行く約束を反故にした、夫で刑事の雅雄(岡田)が帰宅。長野家に近付く謎の女の足下も挿みがてら、ああだかうだとよくいへば小松公典らしい掛け合ひの末の夫婦生活。夫婦喧嘩と外れた障子、以下略な事後、玄関のチャイムが鳴る。応対に雅雄が向かふと、聞こえて来るのは一発の銃声。驚愕する優子の前に現れたのは、戻つて来た雅雄ではなく、左手に黒手袋を嵌めた不遜な男・ジョン(岩谷)。どういふ人物設定なのか、ジョンの片言の日本語が、岩谷健司との声の近似もあり石橋凌に聞こえるのが可笑しくて可笑しくて仕方がない。白昼ではないが、巨乳の優子は、ジョンに犯られる。二戦目の事後、漸く優子が玄関に辿り着くと、あらうことか、そこには雅雄の射殺死体が。遅れて到着した件の謎の女・蘭(かすみ)は、弄ぶかのやうな講釈を垂れた上で、優子に向け銃爪を引く。ブロンド・ショートのウィッグを装着したかすみ果穂の、鋭いハクさが堪らない。この人の銀幕に自らを固定させる資質の高さは、尋常ならざるものであるのではなからうか。
 微妙にビブラートする発声の張りが造形に深みを与へる毘舎利敬は、ジョンとは男女ならぬ男男の仲にもあるボス・菊池宗。酒井あずさが、両刀使ひである菊池の妻・知子。目的の明確な優子は桃色方面には寄り道しない中、知子が直球で勝負する濡れ場の回数を稼ぐ。知子との間に出来た子供ではないが、蘭は実は、菊池の娘であることも後々語られる。
 一命を取り留めた優子は、忘れぬやうジョンと蘭の似顔絵を描いたスケッチブックを小脇に街を彷徨ふ。一方、菊池の仕事を請け負つた殺し屋の鄭龍一(園部)は標的を仕留めはしたものの、自身も腹部を弾が掠め大量出血する。リベンジャー・ミーツ・アサシン、優子と擦れ違つた龍一は、終に力尽き倒れる。龍一が拳銃を所持してゐることを看て取つた優子は、自宅に連れ込み応急処置を施す。三日後意識を取り戻した龍一に、優子は銃と、撃ち方を教へて呉れることとを求める。
 倖田李梨は、一旦逡巡しながら何故か優子から金を受け取つた龍一が、改めて治療を受ける闇医者・女医。これは武士の侍の類の重言ではなく、現に女医と呼べと本人がいふのだから仕方がない。それぞれ出番は大きく前後するが、かすみ果穂の濡れ場の要さへさて措けば―ピンク的にはそれは措けまいが ―物語上は省いて省けぬこともない井尻鯛(=江尻大)と殊にサーモン鮭山は、蘭に男性公衆便所で喰はれる男と、蘭の奴隷でマスク芸人のデブ・マスカラス。デブ・マスカラス、確かに面白いことは面白いけどさ。
 刑事である夫を闇組織に殺害され、自身も頭部に銃弾を受けつつ辛うじて生還した人妻が、上手いこと深手を負つた殺し屋と出会ふ。当人は当然気付きもしないまゝに、更に上手いこと相手の心を掴み得た画期的な偶然の巡り合はせの力も借り、女は師事した殺し屋と共に夫の敵への復讐を期する。よくよく考へてみると、大胆あるいは豪気にも、通常だと定番ギミックたる未亡人属性は清々しく放棄してみせた点も、地味に特筆されるべきなのか。話を戻して、ピンク映画に一般映画の水準を求める野暮を敢て冒すならば、リハーサル感覚の安普請や、プロフェッショナル同士がノー・ガードで撃ち合ふ脇のベロベロな甘さ。致命的であつたとて決しておかしくはない短所も露な反面、ガンエフェクト皆無のプリミティブなピンク・ノワールに、竹洞組十八番のキャラクター劇が珍しくハマり形になる。園部貴一の、普通の役では上滑ることも多い徒に芝居がかつた口跡が、非日常的な殺し屋像には意外とすんなり馴染む。毘舎利敬と岩谷健司は薔薇の花も咲かせる曲者主従を何時も通りに頑丈なコンビネーションで好演し、かすみ果穂の絵に描いたやうなクール・ビューティーぶりは、完成形とすら讃へることも許されよう。更には左目をアイパッチで隠したカッコいい倖田李梨が、スタイリッシュに脇を固める。何より、幾ら旦那を殺されたとはいへ、堅気の―推定―主婦が銃も持ち犯罪集団に立ち向かふといふ劇中第一にして随一の飛躍を、櫻井ゆうこの激しい熱量が躓かせることなく捻じ伏せてみせる。創優和の必殺が火を噴く、冴えたビジュアルも出色。海と空の青が超絶に映えるショットは俗なことをいふやうだが、あたかも北野武映画を思はせ、立ち姿のサマになる布陣を揃へロングを多用する画作りが、スクリーンの広さを実感させる。風車の小道具も強力なまでに印象的に、開巻を綺麗に回収するラストは、鮮烈な刹那を叩き込む。観終つた後に疲労を覚えるほどの、映画的な緊張に満ち満ちた一作。これはもしかすると、新東宝とエクセスがパッとしないので諦めかけてゐたが、2011年は豊作の一年なのかと、改めて襟を正せさせられる。

 ただ、一点首を傾げさせられたのは、蘭に撃たれた頭に爆弾を抱へる優子の異常を、龍一が初めて察知する件の音響設計。食欲がないだとか適当にはぐらかした優子が捌けた後、龍一は ―優子が―完食したばかりのカップラーメンの容器を不審げに手に取り、机に音もなく戻す。このカットは、空容器がテーブルに置かれるコトンといふ音を入れて、優子が嘘をついたことをより明示すべきではなかつたらうか。


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