真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ザ・高級売春 地獄の貴婦人」(1990/制作:メディア・トップ/配給:新東宝映画/脚本・監督:片岡修二/撮影:下元哲/照明:佐久間優/編集:酒井正次/助監督:松村とおる・水野智之・川崎季如/撮影助手:古谷巧/照明助手:池田光/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:栗原早記・加納妖子・深田ミキ・佐野和宏・爆発村とおる・池島ゆたか・下元史朗)。を、日本ビデオ販売から発売されたVHSタイトル「ザ・女狐 地獄の貴婦人」で。
 栗原早記が、自らが娼婦となつた経緯を振り返る。元々堅気のOLであつた栗原早記は、処女も捧げた上司の佐野和宏と不倫関係に堕ちる。佐野和宏は栗原早記を肉体的にも精神的にも、そして経済的にも満たすことを望み、その結果、会社の金五千万を使ひ込む。栗原早記はその金を返すためにOLを辞め、娼婦となつたものだつた。在り来りな理由、男と金と栗原早記がプロローグを締め括つたところでタイトル・イン。
 タイトル明けると栗原早記のホテトル面接風景、栗原早記に店長の下元史朗が対峙し、後方のソファーには初め深田ミキが一人座り、ほどなく加納妖子も加はる。ここで“地獄の貴婦人”なる大仰な文言が、単なるホテトルの店名に過ぎない点には正直度肝に近く拍子を抜かれる。客からの電話が入り出撃した爆乳自慢の深田ミキと、イメージ風に挿入される爆発村とおる(=松村とおる=松村透=爆発村とをる)との濡れ場を経て、アメリカ大統領の名前を尋ねるところから始まり、主に国際情勢の基礎用語に関する質問責めに終始する、腹立たしく説教臭い池島ゆたか相手の栗原早記ホテトル初陣。池島ゆたかの鬱陶しい能書の締めが、「チェルノブイリに比べれば幸せなんだよ、日本は」。何時の間にか栗原早記が売れつ子になる中、茶を挽く加納妖子を下元史朗が抱く一幕噛ませて、客の下に出向いた栗原早記は、取引先から噂を聞きつけた佐野和宏と対面する。ホテトルをホテルに呼んでおいて、寝るでなくあゝだかうだと煮え切らぬ佐野和宏に対し、栗原早記は「私は娼婦よ!」と一喝。幾ら丸腰の役どころともいへ、佐野和宏を圧倒し得る栗原早記の思はぬ決定力には驚かされた。
 七月の名作特選(緊縛特集)から、企画としては兎も角枠的には一定の形で固定されたのか、二週前の「谷ナオミ しびれる」(昭和53/監督:姿良三《=小川欽也》/脚本:神田明夫/主演:谷ナオミ)に続く十月二本目の新東宝クラシック・ピンク枠―仮称、日本ビデオ販売リリース枠と称した方が、より適当であるのかも知れない―は、公開題が闇雲な片岡修二1990第三作。ただでさへ短い尺が更に深田ミキと加納妖子の裸にも削られ、推移自体は流れの中で上手く誤魔化された感もなくはないが、初め自らを―娼婦に―“なつてはいけない女”だとすら考へてゐた栗原早記が最終的には娼婦としてのアイデンティティに辿り着く展開は、そこだけ掻い摘むと俄には呑み込み難く思へるのかも知れないが、栗原早記の侮れない地力にも支へられた、ドラマの仕上がりは頑丈に見応へがある。深田ミキの寿引退と、送りついでに下元史朗が栗原早記宅に一泊する一夜を挿んで、ラストは下元史朗の送迎車。首を縦に振るのか横に振るのか、二者択一をいよいよ迫られる土壇場中の土壇場に客からの自動車電話が鳴る、緊張感迸るカットには震へた。栗原早記と下元史朗の色気の真向勝負が甘さよりは苦さを残す、ソリッドな大人の恋愛映画。粒は然程大きくはないものの、いゝものを観させて貰つた。量産型娯楽映画の大樹の、幹なり根を成しはしないにせよ、枝先を鮮やかに飾る一輪の花にも似た佳品である。

 さうはいへ、クレジット後のオーラスに“我が愛しの娼婦たちへ・・・・・”と字幕を打つ、打つてしまふのは清水大敬病とまではいはないが、流石にクサいといふ誹りは免れ得まい。


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