真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「超いんらん家族 性欲全開」(1994/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:双美零/企画:中田新太郎/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:榎本敏郎/撮影助手:片山浩/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:林田ちなみ・石川恵美・杉原みさお・平岡きみたけ・池島ゆたか)。
 川辺にセドリックを停めた画にタイトル開巻、流石に車は違ふ、何と。芦田聖子(林田ちなみ/荒井まどか)は同じ会社に勤める粟野邦洋(平岡きみたけ/熊谷孝文)とキスを交すと車外に逃げ、あゝだかうだ他愛ない遣り取りの末、家族に関し含みを残す邦洋から、実家で紹介して貰ふ旨言質をとりつける。内心勝ち誇る聖子であつたが、林田ちなみのモノローグに曰く“さう、この時は確かに勝つたと、思つたんだけど”。一方二者択一の津田スタに構へた粟野家では、邦洋の父親で社会生物学教授の洋二(池島ゆたか/久保新二)と、後妻の美津江(石川恵美/村上ゆう)が聖子の来訪を心待ちにしながら昼間から夜の営み。ヤバい体の薄さでスレンダーは正義を体現する石川恵美の、大股開きがエクストリームにクッソどエロくて素晴らしい。性懲りもなく筆を滑らせるが、当サイトがお嫁さんにしたい女優第一位である。明後日か一昨日に暴発したエロスはさて措き、聖子がいよいよ邦洋を射らうと、天守閣に乗り込む当日。洋二こと池島ゆたかが、プレスリー柄のアロハを着てゐるのが何気に微笑ましい、狂ほしくダサいけれど。不自然に勧められた風呂に聖子がとりあへずか仕方なく入つてゐると、あらうことか洋二が平然と覗きに来る。抗弁を訴へた邦洋は、邦洋も邦洋で美津江と風呂に入る一方、憤慨してゐると洋二から一応手篭めにされた聖子は、そのことすら邦洋が満足に取り合はない、不条理に憤慨して遂に粟野家を辞す。とこ、ろで。林田ちなみと池島ゆたかの絡みが完遂には至りこそすれ、ピントが結構あり得ないレベルでボッケボケなのはどうしたものか。
 配役残り杉原みさお―か麻生みゅう―は、普段何処に住んでゐるのかは謎な、美津江の連れ子・久美。美津江との単独会談を経て、聖子が粟野家を再訪したところ義父たる洋二に抱かれてゐたかと思へば、再度踵を返した聖子が帰宅すると、先回りして布団に潜り込んでゐたりする神出鬼没ぶり。
 全七作からなる深町章の「いんらん家族」シリーズ、1994年第五作が最後に残してゐた第五作。さうしたところ自力で辿り着くより早く、ex.DMMのユーザーレビューが教へて呉れたのが1999年第二作「とろける新妻 絶倫義父の下半身」(脚本:深町章/主演:荒井まどか)の、例によつて人に書かせた脚本―双美零は普通に実在する単独個人とのこと―を剽窃した元作。スラッシュを挿んだ徒に煩はしい配役表記は、とろ絶版を併記したものである。要は粟田家を津田スタで撮るかそれとも水上荘で撮るのかに伴ふ、全般的なロケーションの別。と洋二役が池島ゆたかから久保新二に変つた最早当然の結果として、爆増する久保チン持ちネタの絨毯爆撃。以外には少々の不自然もものともせず、自由に遊撃する久美の扱ひなり、大オチまで寧ろ差異の方が余程僅かな見事でないコピー映画。量産型娯楽映画であればこそ、許された所業にさうゐない、許されてゐるのか?
 根本的な疑問はさて措き、話の中身が逐一の流れごと同じ以上、比較するかとした場合俳優部にでも目を向けるほかない。ビリング頭は荒井まどかが総体的な美人度では勝りつつ、お芝居の心許なさで概ね五分。大体似たやうなタイプを揃へた二三番手に関しても、決定的な優劣は見当たるまい。反面所詮エテ面で小男の平岡きみたけが、社内中の女子社員が争奪戦を繰り広げる優良株には凡そ柄でなく、無論久保新二は池島ゆたかをアシャッと瞬殺、男優部はとろ絶に分がある。
 更に荒木太郎が遺した数少ない有効な視座―死んではゐねえ―に従ひ、量産型娯楽映画を線として捉へ攻め進んでみると、林田ちなみが性的にエキセントリックな一家に翻弄されつつも、やがて惹かれて行く展開と来れば、七作後の1995年第五作「痴漢電車 夫婦で痴漢」が思ひ浮かぶ。脚本が双美零といふのは矢張りと受け取るべきであるのかも知れないが、家長が何れも池島ゆたかなのは流石に偶々かも。いや、まだ終らないよ。「いんらん家族」シリーズ中、第三作の「いんらん家族 花嫁は発情期」(1992/脚本:周知安=片岡修二/主演:桜井あつみ)が、2005年第五作「変態家族 新妻淫乱責め」(脚本:深町章/主演:山口玲子)の親作。津田スタで撮るか水上荘で撮るかの違ひだけの二作も、1991年第二作「ザ・夫婦交換 欲しがる妻たち」(脚本:周知安=片岡修二/主演:川奈忍)と、1998年第七作「隣の女房 濡れた白い太股」(脚本:深町章/主演:村上ゆう)が見当たる。事この期に及ぶと、さういふ例に出くはすのも一興と錯覚か錯乱しかねないでもなく、脚本の使ひ回し自体は百歩譲つて目を瞑るにせよ、元々さういふ契約を結んでゐたといふのならば―んな訳ない―まだしも、他人の仕事を、文字通りの我が物顔するのは擁護の余地なく宜しくないと思ふぞ。


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 「痴漢電車 相互連結」(昭和61/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:深町章/製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/音楽:二野呂太/編集:酒井正次/監督助手:橋口卓明・小原忠美/撮影助手:片山浩/照明助手:馬太里庵/スチール:津田一郎/録音:東音スタジオ/現像:東映化工/出演:橋本杏子・井上真愉見・水野さおり・松田知美・鈴木幸嗣・ジミー土田・市川悠・橋井友和・御原庄助・池島ゆたか・港雄一)。
 VHSのジャケでは「下から改札」と一応改題してゐるにも関らず、堂々と「相互連結」の元題でタイトル・イン、ヤル気のなさが清々しい。適当に行き交ふ雑踏をタイトルバックに、改めて電車の画に深町章のクレジット。車内実景を何枚か連ねて、向かひ合はせの倫子(井上)のお胸が村沢(鈴木)にコンタクト。村沢は堂々と正面から電車痴漢開戦、ガラス戸にオッパイでなく、裸に剥いた尻を押しつける案外珍しいメソッドも繰り出しつつ、頃合を見計ひ、倫子は村沢の財布を掏る。降車後倫子を追ひ駆け捕まへた村沢は、己の痴漢は棚に上げ倫子を警察に突き出す。対応した刑事の沼田(港)は村沢も村沢の脛の傷につけ込むかの如く、村沢が掏られたと主張する所持金一万四千円を遺失物の形で処理する。
 ジミー土田が痴漢した高井望(水野)はこの人も刑事で、当然車中の現行犯逮捕。ところがジミ土の一目惚れ抗弁に、望がコロッと陥落。職務も何処吹く風、後日ジミ土とデートした望は、サクサク処女をも捧げる。尺八を吹く水野さおり―の巨乳―を、仰角で抜く画がガチのマジでヤバい。望に対して独身を偽るジミ土には、実は松田知美といふ妻がゐた。配役その他橋井友和は、ジミ土同僚の橋口君、変名の意味ねえ。あと一人笠井係長が、会話の中にのみ登場する、ナベなら課長かな。
 画面左から池島ゆたかと橋本杏子に、御原庄助(=小原忠美)ともう一人津田一郎(a.k.a.津崎一郎)まで一遍に飛び込んで来る。買物して友達とお喋りする用事で、アキコ(橋本)は刑事の夫(池島)と通勤電車に揺られる、また刑事かよ。池島ゆたかの劇中固有名詞は、アキコが本命・明子であつた場合園山高志。対抗・亜紀子で野沢俊介、但し大穴の岩淵竜也か達也も残る。閑話休題アキコは園山(仮名)が触つて来てゐるものかと思ひきや、犯人はまさかの自分でマスもかく御原庄助。小原忠美によるヤバいドライブの変態野郎が、割と名演技。さて措き駅前で園山と別れたアキコの、本当の用件は間男・マコト(市川)との逢瀬だつた。御原庄助と一緒に見切れるゆゑ、当初津田一郎の匿名かと早とちりした市川悠が全く以て初見の、といふか何時か何処かで観るなり見てゐたとしても、まづ覚えてゐまい特徴のない面相。
 タグつきでシリーズ管理されてある新東宝の痴漢電車を、片端から攻めて行く趣向の殲滅戦。終に第十五戦で残り弾のなくなつてしまつた、深町章昭和61年第四作。ロマポが膨大に残つてはゐるのだが、正直ピンクは結構見尽くした。トチ狂ふかどうかした勢ひで、旧作をジャブジャブ新着させて貰へると大変有難い。未知の新作と、未見の旧作との間に於ける差異など、甚だ形式的なものにさうゐない。酔へば酔ふほど強くなるのが酔拳なら、掘れば掘るだけ旨味を増すのが量産型娯楽映画、であるやうな気がする、断言する勇気はないのか。
 やけに刑事だらけの三篇オムニバスが、例によつて互ひに連関するでは一切なく。倫子の江藤が崩れる「ミセス痴漢の愛液ビシャビシャ編」―VHSジャケより、以下同―が、パート尻のぞんざいさを除けば、最もオチらしいオチがつく。途中で松田知美の顔が透けて見える「婦人警官のパンティ塗れ濡れ編」も、予想通りともいへ綺麗に落とす。対してアキコ園山双方不自然な言動に終始する「人妻の不倫グチョグチョ編」―にしてもどのサブタイも凄まじく酷い―が、前二篇より幾分長めの尺を費やしながら、最後まで雑なまゝ振り逃げる。単純な面白い面白くないでいへばさういふ問ひを設定すること自体が無体な一作ではあれ、四番手まで夫婦生活をキッチリこなす、女優部四人態勢はしかも穴のない顔ぶれが何気でなく明確に豪華。最終的には何時も通り津田スタを手替へ品替へするのは兎も角、濡れ場に際してはテンションの高いショットをそこかしこで叩き込み、のんびりと女の裸を愉しむ分には、それなり以上に激しく楽しませる。


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 「痴漢電車 素肌にタッチ」(1991/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/製作:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:柴崎江樹/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛己/監督助手:渋谷一平/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/ナレーター:芳田正浩/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演 パート1“テレパシー”:橋本杏子・荒木太郎・川崎浩幸/パート2“予知能力”:小泉あかね・南城千秋/パート3“霊能者”:石川恵美・池島ゆたか・山本竜二)。助監督の寛巳でなく広瀬寛己は、本篇クレジットまゝ。
 手前に戸建の密集を置いた団地ロングに、「世の中には色々な能力を持つた人間がゐる」。芳田正浩のナレーションが、地味に手堅い。「常識では理解出来ない特殊な能力を持つた者もゐる」、といふ流れで津田スタ床の間に目覚まし時計が鳴り、轟渉(荒木)が止める。轟の特殊能力とは、人の心が判るテレパシー。尤も日々周囲の雑多な思念に煩はされ、轟は自身の精神感応を持て余してゐた。「聞きたくもない他人の本心ほど」、「やかましいものはないかも知れない」と一旦まとめてタイトル・イン。通勤電車の車中、轟はハシキョンの「あゝゝ、誰か痴漢して呉れないかしら」なる心を読み、お任せ下さいといはんばかりに実行する。ヨシマサレーション曰く「とまあ、こんな時は超能力の威力を発揮する」、随分な“とまあ”感が清々しい。そんな轟に、部長(川崎浩幸)が縁談を持ちかける。外から抜ける喫茶店「CARRY」で紹介された江藤倫子(橋本)は、その日の朝轟が意を汲んで痴漢した女だつた、また箆棒に仕掛けの早い見合だな。その後二人がぶらぶらするのを、デパートの店内的なロケーションで撮つてゐるのにも軽く衝撃を受ける。
 予知能力を持つOL・望となると苗字は恐らく高井(小泉)は、プリディクションした通り南城千秋の電車痴漢を被弾する。劇中一切呼称されない南城千秋の固有名詞に関しては、定石を消去法で攻めると本命が野沢俊介、対抗は岩淵竜也か達也といつた辺りか。ところでひとつ不思議なのが、2020年新版ポスターに―俳優部として―紛れ込む渋谷一平の名前。パート3に一人如実に映り込むその他乗客がゐるにはゐるにせよ、髪が未だフッサフサといふかモッジャモジャの、ひろぽんに見えるのだけれど。
 石川恵美に痴漢した園山、と来れば下の名前は高志にさうゐない池島ゆたかは霊能力者で、矢張り津田スタの自宅に、交通事故死した四回戦ボーイ・佐伯(初代林家三平みたいな髪型の山本竜二)の幽霊が現れる、恭司だな。佐伯が園山の前に化けて出た用件はズバリ文句、園山が手を出した悦子(石川)は、佐伯の恋人だつた、苗字は絶対に黒崎。
 この御仁は三篇オムニバスを全体何十本撮つてゐるのか、深町章1991年第八作。深町章に限らず近年あまり見ないが、女優部三本柱で話を三つに割るといふのは、テンポなり各パートの連関なり、上手くハマれば戦略的な手法であるやうにも思へる。
 ロケ特性を活かした、真実を知つた轟こと荒木太郎が見せる恨めし気な表情が絶品なパート1は、ある程度綺麗にオトす、尺的にもほぼほぼ三等分。尺から短いパート2は甚だぞんざいな出来で、プリップリにキュートな小泉あかねを、逆の意味で見事に飼ひ殺す。良くも悪くも問題なのがパート3、経験の豊富な園山が、要は初心者幽霊である佐伯を鼻であしらふ様から斬新で、「ゴースト」よろしく自分の想ひを伝へて欲しいといふ要求を面倒臭がる園山に、佐伯が“一生のお願ひ”とかいひだすと、脊髄で折り返して「お前にはなあ、もう一生はないんだよ!バカ」とツッコむのには普通に声が出た、確かにねえ。兎も角佐伯―の霊―を伴ひ園山は悦子に会ふものの、常人ゆゑ佐伯が見えない悦子は園山が代弁者でなく佐伯の生まれ変りであると思ひ込み、山竜一流のメソッドで地団太を踏む佐伯の眼前、園山が悦子を抱く。即ち今風にいふならば、NTR幽霊譚とでもいふべき画期的な構成には、量産型娯楽映画の大山に埋もれた隠れた逸品に遭遇、したものかと一旦はときめいたのに。汽車がキタところで、一時間に十分弱余してゐるにも関らず、大オチも設けずザクッと畳んでしまふ最早一種のストイシズムですらあるのかも知れない、豪放磊落な終劇には何て粗い映画なのかと吃驚した。

 改めて近年のオムニバス作を何があつたかいなと探してみたところ、2018年第二四半期に連続して封切られた、池島ゆたか2018年第一作「だまされてペロペロ わかれて貰ひます」(二話構成/脚本:五代暁子/主演:神咲詩織)に、髙原秀和の十三年ぶりピンク復帰作にして大蔵上陸作「フェチづくし 痴情の虜」(三話構成/原作:坂井希久子『フェティッシュ』/主演:涼南佳奈・NIMO・榎本美咲)。の前となると、オーピーが総勢六人の監督をデビューさせておきながら、結局一人も残らなかつたか残さなかつた、「いんらんな女神たち」(四話構成/2014/監督:金沢勇大・中川大資・矢野泰寛=北川帯寛・江尻大/主演:佳苗るか・森ななこ・円城ひとみ・上原亜衣)、「いんらんな女神たち ~目覚め~」(二話構成/同/監督:小山悟・永井吾一=永井卓爾/主演:友田彩也香)まで遡る。いんらんな女神たちはそもそも、全く別個のコンセプトだろ。


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 「痴漢電車 感度は良好」(昭和61/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:深町章/製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:佐藤寿保/監督助手:末田健/撮影助手:片山浩・鍋島淳裕/照明助手:尾田久泉/録音:東音スタジオ/現像:東映化学/出演:田口あゆみ・橋本杏子・星野みゆき・高原香都子・池島ゆたか・ジミー土田・鈴木幸嗣・久保新二・港雄一)。照明助手の尾田久泉は、元々変名臭い小田求の更に変型か。といふか、時期考へると先行する尾田久泉の方が寧ろ原型だ。ついででどうでもよかないのが、フィルムからの翻刻を謳ひながら、nfaj―国立映画アーカイブ―の情報量がjmdbに劣つてゐるのは何たる体たらく。公金使ふのは構はんから、堅実に仕事して欲しい。伊能竜から佐藤寿保までの記載がnfajにない―東化は両方とも未記載―のは、よもや所蔵プリントが飛んでゐたゆゑなどといふまいな。
 開巻即のタイトル・イン、「やゝゝゝ、私民営分割で頭の痛い国鉄の回し者ぢやないが」とか気持ち軽い久保チンによるナレーション起動。曰く「痴漢したい人は、何といつても電車に乗ることをお勧めします」。のつけから切られる、アカン火蓋が清々しい。ともあれ昭和を令和の視点で裁断しても始まらない―昭和でもダメだろ―ので、先に進むと滔々と久保レーションが説くのは要は痴漢のハウツー。仕方ないぢやないか、さういふ映画なんだつてば。時間帯的な狙ひ目は朝のラッシュ時といふのに続き、路線選びのポイントを騙りもとい語り始めたところで、スペースまで全角なのが猛烈に気持ち悪い、ブルーならぬ赤バックで“Part Ⅰ”。電車痴漢実践のヒップ篇と称して、他愛なくクッ喋り続ける久保レーションに特段の意味は相変らずなく、大西商事勤務のOL・西山(田口)に、ヤマザキ食品営業課長のウシナダ?ユウイチ(池島)が電車痴漢。ウシナダは西山の定期入れを掏つた上、小型カメラで写真も撮影して再度の逢瀬を迫る。“Part Ⅱ”クレに続いては、「いやあ馬鹿だね、このサラリーマン氏」とぞんざいな第一声。セーラー服の女子高生(星野)に、髭なんて生やした鈴木幸嗣が電車痴漢。久保レーションの中身的には、車内痴漢実技の性器とその周辺篇。鈴木幸嗣が星野みゆきを愛人バンクにスカウトする、喫茶店に顔を出したアコ(橋本)はその足で三友商事部長(港)の下へと向かふ。“Part Ⅲ”は一応胸バスト篇、高原香都子に電車痴漢したジミー土田は、降車後津田スタの自宅―表札は松下―まで女を尾けて行く。ジミ土はそのまゝ庭に大絶賛不法侵入、ガラス戸も開け放つた松下夫人の豪快な自慰に誘はれるかの如く、家内に突入しての一戦を敢行。ところが目出度く完遂した事後、筋者の亭主(久保)が帰つて来る。
 “Part Ⅲ”を兎も角走り終へての、久保レーションが「いやいやこんな楽しい落とし前にありつけるのも、電車に乗ればこそ」、「さあ君も勇気を出して車内痴漢にチャレンジしてみよう!」。地に穴をも穿つ覚悟で底を踏み抜いてみせる、深町章昭和61年第三作。尤も当時的には、そもそも底が抜けてゐる意識すら、なかつたものにさうゐない。早々にオチを割つてからが一本調子で、限りなく薔薇族のPart Ⅰはビリング頭のオッパイが拝めるのが漸く十五分前―そして七分後にはPart Ⅱに移行―と、女の裸映画的には大概問題と難じられなくもないものの、序盤で斯くも飛ばして来た日には、以降は全体何処に転がつて行くのかといつた、明々後日なワクワク感がまだしもなくはなかつた。Part Ⅲもネタ的には他愛なく締めるに止(とど)まれ、高原香都子の超絶裸身が麗しく火を噴くワンマンショーは大いなる見所勃ち処。対して、そもそもハシキョンが電車に乗りすらしない、加へて三番手の扱ひも大概宙に浮くPart Ⅱが兎にも角にも箸にも棒にもかゝらない。ただでさへ中弛む火に油を注ぎ、久保レーションで何となく繋ぐ以外には、各Partが1mmたりとて連関するでもなく。オーラスの方便は、痴漢で通勤地獄を通勤天国に。結構どころか普通に豪華な面子にしては、今となつては最初の数行から脚本が通る訳がない、旧いだけで別に良くも何ともない時代を偲びたいのなら偲べば?といつた程度の生温いか自堕落なレガシーといふのが、精々関の山といつたところである。いや、高原香都子のワンマンショーは本当に燃えるぞ。


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 「痴漢電車 夫婦で痴漢」(1995/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:双美零/企画:中田新太郎/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:榎本敏郎/演出助手:今岡信治/撮影助手:小山田勝治/照明助手:広瀬寛己/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:林田ちなみ・三橋里絵・青井みずき・風見怜香・杉本まこと・池島ゆたか)。照明助手の寛巳でなく広瀬寛己は、本篇クレジットまゝ。
 年を跨いで春に挙式を控へた、霧子(林田ちなみ/a.k.a.本城未織/ex.新島えりか)と中込ノリオ(杉本まこと/a.k.a.中満誠治/ex.杉本まことでなかみつせいじ)の婚前交渉にさくさくクレジット起動。尺は一割絞つた五十四分弱、小品の火蓋が小気味よく切られる。霧子の制止も聞かず、何某か急いてゐる様子の中込は一方的にフィニッシュ。事後友人である村岡(電話越しの声も聞かせず)からの誘ひを携帯に着弾した中込が、そゝくさ出て行つてしまふのにそれで急いでゐたのかと霧子は呆れ返る。友達が多いのはいいものの、的に霧子が結婚後の生活に漠然とした不安を覚えた流れで、プアンと汽笛一発電車にタイトル・イン。混雑する車中、霧子は丈太郎(池島)の電車痴漢を被弾する。のも束の間、正直この辺り、誰が誰に何をしてゐるのか然程でもなく―事前の手間込みで―画が整理されてはをらず甚だ判り辛いのだけれど、霧子は丈太郎のみならず、花江(風見)の挟撃をも受ける。降車後霧子に捕まつた丈太郎と花江の、「あなた達何なんですか?」といふ問ひに対する声も揃へた驚きの答へが、「夫婦よ」。仰天した霧子は、カット跨いだ勢ひで判で捺したかの如く津田スタな丈太郎宅にお邪魔、あれよあれよと巴で改めて嬲られる。丈太郎が霧子に指を捻じ込む描写に際しては相当攻め込んでみせるのと、風見怜香が満を持して開帳する爆乳の、ボガーンと物理的音声すら聞こえて来さうなジャスティス感。激しく翻弄させられながらも、霧子は至つて幸せさうな痴漢夫婦に興味を持つ。
 配役残り、歯を入れてゐなかつたりして冷静に抜かれると厳しい三橋里絵は、三橋里絵も丈太郎の妻・ユキコ、花江との序列は不明。「籍なんかどうだつていいぢやないか」、丈太郎のダイナミックな思想に打ちのめされる霧子の止めを刺す青井みずきは、母親の夫婦生活にアテられたワンマンショーで飛び込んで来るユキコの連れ子・ツキミ。そして、もう一人。
 深町章1995年、案外少ない最終第五作はjmdbによると、池島ゆたか薔薇族込みで1995年第四作「色情女子便所 したたる!」(脚本:岡輝男/主演:柚子かおる=泉由紀子)と同日に封切られた、ex.青井みずきで相沢知美の目下確認し得る最初期作。
 霧子に花江なりユキコとの関係を、“ただの助平親爺と愛人”と解されたとてまるで意に介さない丈太郎いはく、痴漢とは“狩り”。ここで池島ゆたかのアクセントが尾高型の“仮”で、咄嗟に面喰はされる件に関してはもう通り過ぎろ。猟師は丈太郎、今作に於いては霧子が獲物。丈太郎にとつて花江やユキコは獲物を捕まへさせて、あとで―肉棒の―御褒美を与へる猟犬といふ寸法、因みに猟場は電車の車内。何処から突つ込んだらいいものか、大沢誉志幸でなくとも途方に暮れる豪快な方便ではあれ、それをいつては痴漢電車は始まらない。地球上にあのサイズの外骨格生物が存在する訳ねえよ、とモスラを否定するのと同じである、同じか?とまれ元々中込との間に隙間を抱へてゐなくもなかつた、霧子は天真爛漫な夫婦どころかツキミも含めた痴漢家族の姿に火に油を注がれ、次第にシリアスに動揺する。何気にスリリングな、展開の落とし処があまりにも秀逸。案外的確なアバンで実は既に蒔いてゐた種を、丹念に積み重ねる霧子の会話ないしモノローグの端々で何時の間にか芽生え育てた上での、最後に切る文字通りの切札、二課の榎本君(当然榎本セルフ)を中込が新婚一年の中込家―も矢張り津田スタ―に連れて来た瞬間、鮮やかに花咲くオチが見えるユリイカみが抜群に心地よい。どうしてかういふ映画がベストテンに絡んで来ないのかが寧ろ不思議な、しなやかな脚本を得て、深町章の妙手が冴え渡るさりげない逸品。強ひて難点を論ふならば、結局榎本敏郎に活躍の場が与へられぬまゝに、結末のキレを重視した諸刃の剣で、いはゆる締めの濡れ場が概ね消失してゐる点程度か。滅多にない強度で、内容にジャスト・フィットした公開題も麗しい。シナリオ題がこれを超えようとした場合、如何なる形になるのかといふレベルでさへある。
 霧子が辿り着いた“狩り”の境地< 人付き合ひの多い中込に家まで遊びに来させた若いツバメを、中込を寝落としたのちに喰ふ


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 「痴漢電車 人妻柔肌篇」(1995『痴漢電車 人妻の肌ざはり』のVHS題/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:双美零/企画:中田新太郎/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/演出助手:榎本敏郎/撮影助手:小山田勝治/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/スチール:津田一郎/出演:青木こずえ・吉行由美・風間晶・田口あゆみ・杉本まこと・荒木一郎・池島ゆたか)。
 ミヨ(青木)とリョースケ(杉本)の夫婦生活で開巻、ミヨが“また”と呆れる頻度で中折れたリョースケは、入院した理由が腎虚を噂される鳥山課長の話で茶を濁す。脚本がイコール片岡修二の周知安でないからか、固有名詞が耳慣れない名前ばかり。リョースケは滅法肉感的な鳥山夫人(吉行)が悩ましく大股開くイマジンを膨らませるどころか、すぐ隣のミヨと比較する口を滑らせかけた挙句、不用意な粗相を察して布団の中に潜り込む。至極全うにむくれたミヨは、「その時アタシは思つたいい女になつて、こいつを腎虚にしてやるんだつて」と決意、明快にテーマを設定する。てな塩梅でミヨは寿退社した職場の先輩で、重役が相談に来るほどのSEXカウンセリングを社内で誇る性豪・風間葵(田口)を頼る。葵が唱へるのは、自らを知る上でもオナニーのすゝめ。何でもやつてみると泣きつくミヨに、葵が念を押して電車にビデ題タイトル・イン。明けて車内の、実景からセットに。左右を田尻裕司と榎本敏郎に挟まれたミヨが逡巡する、葵から最初に下された指令が電車内ワンマンショー、初球からフルスイングすぎんだろ。とまれ果敢に決行したミヨが、気づかれた演出部に加へ周囲の集団痴漢を被弾する一方、駅前のラブホテル「山下」に入る葵の逢瀬の相手は、あらうことか結婚式当日に出会つたリョースケだつた。
 配役残り池島ゆたかが、件の鳥山課長、勤務先は初芝電産。二度目に見た荒木一郎名義の荒木太郎は、電車に乗つた鳥山夫人が会敵する痴漢師・花田、風間晶が花田の配偶者。
 もしや今作が幻の、映画の公開順は前後した「人妻篇Ⅰ」となるのかも知れない深町章1995年第一作。この年案外少ない全五作、昨今のローテーション監督と然程変らない。自身とレスであるにも関らず、鳥山が腎虚で入院した不義理か不条理に怒つた吉行由美は、鏡に映して自信のある乳尻に対し、最終的な具合は挿れた男に訊いてみないと判らない観音様の是非を確かめてみるべく、捕獲した花田と劇中一同が常用する山下に。脛を抱へる形のM字で、秘部を男に曝す吉行由美が鬼のやうにどエロくて素晴らしい。ところが出て来るところを、花田を張つてゐた風間晶に目撃される。そもそも鳥山が腎虚になつた所以は、告白された夫の痴漢癖に衝撃を受け電車に乗つてみた風間晶が、電車痴漢を仕掛けて来た鳥山を矢張り捕獲。「これが私なりの―痴漢行為に対する―復讐なのでした」とか自堕落極まりない方便で、元々自覚する人一倍強い性欲で鳥山を貪り尽くしてのことだつた。偶さか鳥山夫人と一度山下に入つた程度の花田に、憤慨する謂れ一欠片たりとてねえよこの女。兎も角、あるいは兎に角。改めてキレた風間晶は、入院中は流石に手を出さなかつた鳥山に連絡。リアル生命の危機を感じた鳥山は、葵と山下を出て来たネタを出汁に、上司を見舞ひに来てゐたリョースケに虎の尾を踏ませる。風間晶からの呼出に応じるのが「代理でもいいつてさ」と嘯く鳥山の力ない言葉を、初め黙つて聞いてゐたリョースケが真意を察するや「あ俺!?やですよー」と途端に鳩が豆鉄砲を喰らふのは、杉本まことの見事なノリツッコミ。とここまで、棹と蛤で繋がつた全ての俳優部が壮大な惑星十字配列“グランドクロス”を形成する、何気に秀逸な構成は案外比類ない完成度を誇つてゐた。序盤から四十一分―総尺五十五分弱―の長きに亘り豪快に退場する、ビリング頭の存在をいつそ忘れてしまへば。結局何だかんだでミヨとリョースケが何となくヨリを戻すラストは展開自体他愛ないか下手にまどろこしいばかりで、ピンク映画デビュー間もない青木こずえにも、全然普通の三本柱たり得る、女優部後ろ三人を単騎で蹴散らす決定力を望むのは未だ酷だつた。最後がある意味見事に尻すぼむ、仕上げを仕損じた印象の拭ひ難い一作ではある。


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 「痴漢電車 女子校生人妻夏服篇」(1991『痴漢電車制服篇 相互愛撫』のVHS題/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/製作:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:恵応泉/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/監督助手:山崎光典/撮影助手:北沢弘之・重岡幾太郎/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・早瀬瞳・植木かおり・石川恵美・南城千秋・池島ゆたか)。脚本の周知安と製作の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。
 早瀬瞳が公園の中をそもそも冬服のセーラー服で歩いて、開巻即のクレジット起動。新東宝ビデオが今回クレジットを改悪しない分まだマシともいへ、夏服篇掲げて冬服を売るのは、流石に出鱈目が目に余る。それはさて措き早瀬瞳の、背後には詰襟の南城千秋が。下の名前が倫子と来た日には苗字は江藤にさうゐない、江藤倫子(早瀬)に憧れる高三の岩淵か岩渕タツヤ(南城)は、さりとてクラス一の美人で勉強も出来る高嶺の花に手が出せず、連日連夜オナニーに勤しむ日々。仰け反つた岩淵の視点で、逆さの電車が正立にでんぐり返つてタイトル・イン。これといつた意味も見当たらないまゝに、180°回転カメラを何かにつけ全篇を通して多用する。
 配役残り、偶さかな勢ひで岩淵が倫子に電車痴漢した翌日。岩淵に接触する引きのファースト・カットだとそこそこのおメガネに見えた―真横から抜くと、三日月型に湾曲してゐる―植木かおりは倫子の友達で、岩淵を倫子から遠ざけるためなら体も張る黒崎、となると下の名前は悦子か。石川恵美は、大学三年の岩淵が職業で狙ひを定める、役名不詳の新米看護婦。橋本杏子は新社会人になつた岩淵に電車逆痴漢を仕掛けて来る、欲求不満で矢張り役名不詳の和服人妻、池島ゆたかが配偶者。そして、隠れキャラ的にもう一人。酷似した背格好のみならず、全く同じ場所に立つてゐる点を窺ふに、「痴漢電車 百発百中」(1989)に於いて山竜が喜捨する托鉢僧が、岩淵と石川恵美が出て来る駅前のロングに見切れてゐる。当サイトが気づいてゐないだけで、目撃例はこの頃ほかにもチョコチョコあるのではなからうか。高三篇に話を戻すと、悦子に筆卸して貰ひ明後日な自信をつけた岩淵は、刺された釘もてんで意に介さず“女は誰でも男に抱かれたがつてゐる”なる歪んだ常識に則り、「ようし今夜、江藤クンの部屋に忍び込んで処女を奪ふぞ!」。とか青春映画風に凶悪犯罪予告する抜けた底が高速回転しながら、ハイブの殺人トラップばりに頸動脈目がけて飛んで来るシークエンスには、クラクラ眩暈がするのも通り越して卒倒しさうだ。
 何故か石川恵美がVHS題には拾つて貰へない、深町章1991年第三作。岩淵の部屋と江藤家にハシキョン宅は、全て津田スタで賄ふ。仮に浪人も留年もしてゐない場合、最短で五年に亘る岩淵の痴漢ライフを描いた悲喜劇。といつて、よくよく冷静に振り返つてみるに帰結は悲劇ばかりでもあるのと、その間なりが変るだけで岩淵が成長するでは特にも何もなく、要は体よく尺を概ね三等分する緩やかなオムニバス仕立ての一作。ネタの扱ひにナーバスになるほどの映画でもないゆゑ、無造作にバレてのけると高三篇は、先述した歪んだ常識が、咲き誇る百合によつて見事に覆される。一方、新社会人篇はハシキョンが岩淵をホテル代を惜しみ自宅に招いた時点で、「車内口撃」(1989)の久須りん的なオチかと思ひきや、池島ゆたかが少なくとも両刀使ひといふ、百合に続いて薔薇も狂ひ咲かせる力技。尤も痴漢電車の車中、岩淵が池島ゆたかの存在に気づいてゐるのかゐないのか判然としないオーラスに、失速は否めない。対して大三篇は面子から一人少ない最小単位で、落とし処が全く読めなかつた。とこ、ろが。要領が悪いだの不器用だの再三再四石川恵美が自嘲するのを秀逸な伏線に、他愛なくも予想外のパンチラインが炸裂。かてて加へて早瀬瞳や橋本杏子に勝るとも劣らない美人、といふ訳では決してないにせよ、電車痴漢の最中、岩淵のモノを触らされると綺麗に目を丸くし、連れ込み―も当然津田スタ―での事後、一転攻勢に転じる機運を弾けさせ「アタシのいふことは何でも聞いて呉れるつていつたはよね」。石川恵美がキラッキラ輝かせる豊かな表情が、麗しくて麗しくてもうどうしたらいいのか判らない。胸がキューッとなる、医者行けよ。それはお前の琴線の張り具合に過ぎないだらう、さう呆れられてしまへばそれまでに過ぎず、敢へてでさへなく抗弁するつもりもない。但し橋本杏子が絶対的な四番打者に座つてゐた90年代前半、慎ましやかに五番を務めてゐた影の名女優にもう少し光が当たつても罰は当たらないのではあるまいか。さう思ふ常日頃、ダレる間のないちやうどいい塩梅の長さで石川恵美の魅力にときめく至福に浸つてゐられる今作は、確かに見た甲斐があつた。

 一緒の読みで恵深に改名して、石川恵美が芸能活動を継続してゐるのには軽く驚いた、今年還暦なんだ。まだイケる、何が。


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 「痴漢電車 後ろからも愛して」(1989/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/製作:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:小原忠美/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/スチール:津田一郎/撮影助手:鈴木一博/照明助手:京応泉/監督助手:佐藤俊宏/車輌:元井祐司・嶋中聡/出演:橋本杏子・山本竜二・芳本愛子・風見怜香・池島ゆたか・清水大敬)。脚本の周知安と製作の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。
 高架を正面に据ゑたロングにタイトル開巻、超絶そこら辺の生活道路から電車を見上げる、適当な仰角の画にクレジット起動。車内に繋いで、乗客が読む87分署シリーズ『キングの身代金』(ハヤカワ・ミステリ文庫)と、名無しの探偵シリーズ『誘拐』(新潮文庫)を抜く。これは以降元ネタにでも絡められたら―何れも未読につき―厄介だぞと身構へかけたが、どうやら、誘拐して身代金を要求するといふだけのモチーフに過ぎない模様、プリミティブにもほどがある。『誘拐』を読んでゐた橋口タカコ(橋本)の背後に、笠井元嗣(山本)が迫る。いや本当に、劇中さういふ名前なんだつてば。笠井の案外巧みな指戯に、『誘拐』が床に落ちる。降車後笠井を捕獲したタカコは、何をトチ狂つたか痴漢の腕を見込んでの相談を持ちかけ、笠井が役者で警官役―のエキストラ―の経験もあると知るや、なほ好都合と美貌を輝かせる。津田スタ改めタカコ宅、「アタシね、一遍レイプされてみたかつたの」だの大概ぞんざいな切り口でAV歴もある笠井相手に一動画撮影したタカコが、漸く切り出す本題。「何をやるんスか?」と未だ雲を掴む―我々も掴む―笠井の問ひに対し、脊髄で折り返したタカコの即答は「誘拐」。山本竜二が仰天するメソッドは、容易に御想像頂けよう。ところで絡み初戦、タカコが据ゑたビデオカメラ越しに二人を狙つた結果、カメラが邪魔でハシキョンの裸がよく見えない馬鹿画角はどうにかならなかつたのか。
 俳優部残り、ミサトスタジオに居を構へる清水大敬は、地上げで財を成した不動産屋・黒沢年男。トシオは年雄か俊夫とかかも知れないが、兎に角何でか知らんけどクロサワトシオなんだつてば。風見怜香が後妻のアキコで、芳本愛子は前妻との間に生まれた実の娘であるランコ。途中で配役が読める池島ゆたかは、黒沢の財産目当てで結婚したアキコの情夫、固有名詞不詳。
 ある意味順当に深町章が積み上がつて行く、ex.DMM新東宝痴漢電車虱潰し戦、第八戦で1989年第一作。タカコが画策する、“完全犯罪”とやらの正体は。元々黒沢の愛人であつたタカコは、中盤の大いなるハイライトを担ふ濃密な夫婦生活を窺ふに、滅法床上手のアキコに黒沢をカッ浚はれた挙句、手切れ金すらビタ一文貰へずじまひ。てんでランコを誘拐しての、身代金五千万奪取。画期的に秀逸なのが、その計画に笠井の電車痴漢スキルが必要となるところのこゝろ。タカコが描いた絵図が電車で笠井がランコのマンコに―そのまゝ書くな、そのまゝ―ローターを捻じ込み、起動させお前のアソコに時限爆弾を仕掛けた云々と拉致するといふアイデアには痺れた。ハシキョンの絡みは些か軽さも否めなくはないものの、とろんとろんにタップンタプンの風見怜香のオッパイ爆弾は大炸裂。息するのやめればいいのにな、俺。電車の車中、ズッブズブ指を挿入するショットに際しては結構アグレッシブに攻め込む。正直女子高生らしくは清々しく見えない点はさて措き、油断してゐると不意すら討たれるど美人の二番手が、一見脱ぎ処が設けやうなくも思へた始終から、事実上締めの濡れ場に飛び込んで来る急展開は裸と映画の二兎を鮮やかに仕留めてのける。さうは、いへ。山竜は何時も通りアチャラカで、結局風見怜香の二戦目を介錯する以外には、一欠片たりとて何の役にも立ちはしない池島ゆたかの機能不全には逆の意味で吃驚させられる。痴漢電車ならではさが折角のサスペンスが、エッジの緩い作劇―と、ちぐはぐなくらゐ長閑な選曲―で最終的に弛緩した印象は否み難く、いつそ下元史朗を笠井役に、片岡修二が自分で撮ればよかつたとか、適当な素人考へが過(よぎ)らなくもない。


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 「痴漢電車 みだらな指先」(昭和63/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:小田求/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:五十嵐伸治/撮影助手:中松敏裕/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・堀河麻里・しのざきさとみ・秋本ちえみ・いわぶちりこ・池島ゆたか・山本竜二・小杉甚)。脚本の周知安と企画の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。それ、どころか。
 ど頭の衝撃が、例によつての津田スタ台所、忙しなく朝食の支度をするジミー土田が飛び込んで来る。・・・・て、あれ?クレジットには、ジミー土田の名前なんて何処にもないぞ!慌てて調べてみると、初めて見た小杉甚といふのがジミー土田、何と読むのかも判らない。そんな次第でサクッと、あるいはググッと簡略に当たれる範囲では、ジミー土田の活動が公に確認されるのが昭和57年からで、小杉甚の痕跡が窺へるのは昭和から平成に跨ぐ二年間。但し、土屋隆彦の「メイク・ラブ 女体クルージング」(ロマンX/脚本:浅井理=渡辺寿)は二月公開―ちなみに今作は六月―につき、もしかすると62年終盤辺りも怪しいのかも知れない。幸ひ、「女体クルージング」もex.DMMにあると来た日には、毒を食らはば何とやらで見ざるを得まい。毒なのか、毒だつたんだけど。
 閑話、休題。幾ら呼んでも、何時まで経つても起きて来ない妻・明子にキレたジミ土が、起こしに行くカットでは撮影部も追随して家内を大がかりに動きつつ、ジミ土の稼ぎが少ないからと実も蓋もない理由で、ルポライターとか藪蛇な職を持つ当の明子(橋本)は、書きかけの原稿に突つ伏して寝てゐた。ここで、嫁が明子となると、どうせ旦那は渉で苗字は轟だらうと高を括つてゐたところ、後々明子が電話口で名乗る苗字が予想外の岩渕か岩淵。さうなると、ジミ土の役名には呼称なり自己紹介して呉れないでは途端に手も足も出せなくなる。明子とジミ土が朝から盛大に夫婦喧嘩した上で、電車が行き交ふ軽く俯瞰のロングにタイトル・イン。ところで小杉甚名義時に於ける、仕事ぶりに関しては今回目にした限りでは特にも何も全ッ然変らない、全く以て何時も通りのチャカチャカ愉快なジミー土田。
 鮨詰めの車中、ジミ土のすぐ前に立つた、髪飾りからアレな所謂男顔といふよりも、寧ろ女装子に近く見える―VHSではジャケを飾る―二番手が、電車逆痴漢を仕掛けて来る。今作の特徴として、ほかの乗客の隙間から下手に狙ふ、臨場感だか画角だかに拘つた―あるいはセット撮影を誤魔化した―結果、誰が何をどうしてゐるのか判然としないシークエンスを暫し漫然と見せた末に、堀河麻里はジミ土の耳元で「貴方つて不幸な人ね」と囁き虚を突く。てつきり警察に突き出されるものかと平謝りするジミ土を、堀河麻里が「いいからついて来て」と強引に誘(いざな)ふ一方、電話越しの声が白山英雄の声色に酷似して聞こえる編集長から、明子は社会問題化する悪質な新興宗教のルポルタージュを依頼される。
 堀河麻里がジミ土を連れて来たのが、デッカい張形状の御神体の供へられた、「世界まぐはひ教」の本堂。配役残り改めて堀河麻里は、まぐはひ教の工作員を自ら名乗る、蜂谷ならぬ七谷か質谷真由美。不謹慎の誹りを懼れもせず、エッジ効かせすぎだろ。山本竜二がまぐはひ教教祖で、秋本ちえみが片腕格の教育係・ウメ。しのざきさとみは、悪魔祓ひと称した、教祖による公然セックスを恭しく被弾する信者の女。その他信者部に、二十人くらゐ擁する無闇な大所帯。どちら様なのか、お爺さんに片足突つ込んだやうな御紳士までゐたりする。池島ゆたかは、結局何の目的で電車に乗つてゐたのかは謎な、明子に接触するまぐはひ教工作員、実は真由美の夫。男の悪魔祓ひは真由美ら女人がヤッて呉れると聞くや、ジミ土は脊髄で折り返してまぐはひ教入信に翻意。とはいへ入会金始め諸経費を払へず、真由美の指導の下、免除を許される工作員の途を目指す。イコール五代尭子のいわぶちりこは、さういふ塩梅での痴漢電車車中、ジミ土が目星をつける女、声はしのざきさとみのアテレコ。
 ex.DMMのピンク映画chにタグつきで管理されてある新東宝の痴漢電車を、手当り次第に見て行くかとした虱潰し戦。七本目で凄い映画がヒットしたかと思ひきや、単に酷い映画であつた深町章昭和63年第三作。
 ジミ土が小田急線のりばの表で真由美に拉致されるカット跨いで、受話器片手にハシキョンが「新興宗教のルポ!?」。すは深町章が社会派ピンクかと、ときめいたのはまんまと吠え面かゝされる早とちり。最大の見せ場は、まぐはひ教の読経風景。基本形は「まぐはつたーらーええぢやーないか」を山竜に続いて一同が合唱する合間合間に、秋本ちえみがファルセットで叩き込む素頓狂な合ひの手が「エーイヤイヤ」。この「エーイヤイヤ」が爆発的に面白くはあるものの、所詮は枝葉。酷いのが明子に金ぴかの電動コケシを七千円で買はせた直後に、改心か変心し編集部に苦情の投書を寄こした池島ゆたかと、接触した明子が思はぬ再会を果たす件。そもそも池島ゆたかがまぐはひ教に回心(ゑしん)した経緯に関して、真由美の浮気性に苦しんでと語り始めたにも関らず、切らずに長く回す一幕のうちに、先に工作員になつた真由美に勧誘されてやりましたとか、話が思ひきり変つてしまふ木端微塵の体たらく。この手の支離滅裂を見るなり観てゐて常々不思議なのが、だから誰も、何も思はなかつたのか。斯様なザマで、宗教とは何ぞや、インチキに絡め取られる心の隙間とは如何なるものか。本質的な領域に切り込んでみせよう訳がなく、教祖とウメの造形も精々パパさんと愛人に二三本毛を生やした程度の、市井の枠内から爪先も踏み出ではしないチンケな小悪党に止(とど)まる。加へて火に油を注ぐ本末転倒が、「エーイヤイヤ」遊ぶのにうつゝを抜かした挙句、何時しか疎かになる女の裸。しのざきさとみの悪魔祓ひに際しては、折角のどエロい女体が信者部に埋もれよく見えないもどかしさに急き立てられ、ビリング頭たる橋本杏子が、初めてまともに脱ぐのが驚く勿れ五十七分といふ、壮絶なペース配分には引つ繰り返つた。ジミ土の誠意は認めた真由美が、教祖には内緒でコッソリ悪魔祓ひする濡れ場。数少ないオーソドックな攻め方を見せつつ、オッパイを押しつけるでもないガラステーブルが、邪魔で邪魔で仕方ないのは逆の意味で画期的、そんな間抜けな絡み見たこたねえよ。最初は女高生と家庭教師といふ形で出会つた明子とジミ土の、上京しようとするジミ土を、明子が観音様を御開帳して天照大御神を誘き出さう、もとい引き留めようとする回想。ジミ土が明子にハモニカを吹き始めると、出し抜けに電車音が鳴るのが何事かと思へば、そのまゝ現在時制の電車に繋ぐのには、何と雑な映画なのかとグルッと一周した感興すら覚えた。中身がないのは十万億歩譲るにせよ、乳尻さへ決して満足には拝ませないとあつては、溜息も萎むルーズな一作、エーイヤイヤ。ぢやねえよ、トカトントンか。


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 「痴漢電車 指で点検」(昭和62/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:深町章/企画:伊能竜/撮影:下元哲/照明:守田芳彦/音楽:二野呂太/編集:酒井正次/監督助手:橋口卓明・五十嵐伸治/撮影助手:村山浩/照明助手:馬田里庵/スチール:津田一郎/録音:東音スタジオ/現像:東映化学/出演:田口あゆみ・橋本杏子・水野さおり・松田知美・ジミー土田・池島ゆたか・山本竜二・増利仁・津崎一郎・橋井友和)。出演者中増利仁が、どう読むのかも誰の変名なのかにも辿り着けず。
 パンで順々に移動する高層ビルのロングに電話が鳴り、南田(池島)・西川(ジミー)・北山(山本)が“何時ものとこ”に呼び出される。ドラムロールが起動してタイトル・イン、駅のコンコースを目的地に向かふ三人を一人づつ押さへて、一堂に会したのは何時もの「鈴乃」。多分東野辺りの東“トン”ちやん(増利仁か津崎一郎=津田一郎)交へ、この面子での雀歴が十二年も超える四人が麻雀の卓を囲む。適当な流れで記憶に残る牌の話になり、さりとて過剰な思ひ入れをあくまで否定する西川の手が、赤い中“チュン”を引いたところで止まる。以降北山が白“パイパン”、南田は發“あを”と、三人が三元牌を引く毎に、それぞれの色に因んだ過去の女性遍歴を想起する。といふ趣向のオムニバス仕立ての一作、実は当サイト、マージャン全然知らないんだけど。
 配役残り橋本杏子が、西川が電車の車中で会敵したルミ子。当初処女を騙りつつ、“メンスの時ぢやないと燃えない”と称し、経血を滴らせながら電車逆痴漢で男を漁るハードコアな女。橋口卓明変名の橋井友和は、西川が同居する同僚のヒムセルフ。血が極端に苦手な橋井君が、西川に紹介した婚約者がルミ子といふオチ。水野さおりは、北山が一方的に電車痴漢を仕掛けるパイパン、呼称されぬゆゑ役名不明。無毛を苦に五年前一度自死を図つた、パイパンを救つた矢張り博打打ちで老けメイクの山竜が闇雲に登場する白パートが、最もトッ散らかつたまゝどさくさ振り逃げる。南田が痴漢する女子高生のチエミが松田知美、田口あゆみがチエミの姉で、福島の牧場主に嫁いだとかいふユウコ。青色を担当するのは、闇雲に未だ蒙古斑の残るチエミ。そして問題が、まんまと三百万カッ浚はれた―相続成金の―南田に、他愛ない真相を明かす牧場主。東ちやん同様、この人も背面肩口からしか抜いて呉れないため、津田一郎は見れば判るにも関らず、増利仁と津崎一郎を詰めきれない。ただ、僅かに覗く横顔を窺ふにどちらかといふと牧場主が津田一郎で、東ちやんの背中は深町章に見えるやうな気がしなくもない。
 “指で点検”なる下の句は盲牌にかけたのか、深町章昭和62年第一作。回想突入は各色の丸枠で色も合はせた車両を囲んで火蓋を切る三篇のうち、青―実際には緑だが、信号の要領で青―は無理矢理気味でもあれ、細かいことをいひない。苛烈な性欲に駆られ、切なささへ漂はせ男を求める橋本杏子の痴態に、グラマラスの力任せで圧す水野さおり。田口あゆみと松田知美は締めに車内で百合も咲かせる姉妹丼勝負と、四本柱で最後に登場するビリング頭が、実はヘテロの痴漢電車には乗らない一種の奇襲も繰り出しつつ、バラエティ豊かに裸映画的には過不足なく安定。呆然と南田が手から落とした發が、東ちやんに大三元を振り込む大オチが綺麗に決まる気の利いた小品である。

 にしては一点画竜点睛を欠くのが、宅を囲んだ四人の並び。各篇冒頭で各々西川・北山・南田に寄る程度で、東ちやんは頑強に背中しか見せない画角から基本微動だにせず、東ちやんの対面は西川、ここまではいい。問題が東ちやんの画面左手に北山で、右手に南田。即ち、東南西北を実際の方位にも合はせようとした場合、北山と南田の座り位置が逆である。


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 「痴漢電車 百発百中」(1989/製作:メディア・トップ/配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:瀬々敬久/監督助手:小泉玲/撮影助手:片山浩・桑島泰弘/照明助手:京応泉/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:山本竜二・芳田正浩・橋本杏子・川奈忍・南崎ゆか・吉本美奈子・港雄一)。
 藪から棒に安い戦争風の音効を鳴らしてタイトル開巻、“百発百中”にでも合はせたつもりなのか。通勤電車車内の実景を一拍挿んで、最初に飛び込んで来るのは山本竜二。兄弟分の山本竜二(以下山竜)とマコト(芳田)が、吉本美奈子を挟撃する。調子に乗つたマコトがおパンティの中まで指を捻じ込むと、途端に聞こえよがしな悲鳴をあげられる。托鉢僧(この人は本物かも)に喜捨しつつ、山竜がマコトに説教するロング。電車痴漢に開眼したマコトがうつゝを抜かしながらも、二人が電車に乗る目的はあくまで父親(家族は全く登場しない)の借金の形に母親と姉を犯した挙句、マコトの菊穴まで散らせた仇・新藤か進藤か新堂英次郎捜し。黒田一平でもあるまいし、人を捜すのに何故電車に乗るのかといつた原初的な疑問に関しては、度を越した吝嗇である新藤は、車なんて使はないとする方便で後々意外と律義に処理される。
 新藤に青春を遠回りさせられ、床の中でくすんくすん泣きだすほど女とヤリたがるマコトを見かねた山竜は、一計を案じる。配役残り橋本杏子は、占師・高山堂学(完全なる当て字)に扮した山竜に、占はれるエルオー・藤井多美子。背後で手荷物を漁るマコトが個人情報を何やかや伝へるカンニングで外堀を埋め、すつかり信用させた多美子を―多美子の―自宅にて全身の黒子占ひに持ち込む、とかいふドリーミンなシークエンスが清々しい。川奈忍は一旦電車の中で軽く一戦交へたのち、山竜とマコトが海山保健所の職員を名乗り、トリコモナス菌の殺菌と称して急襲する人妻。その日の電車痴漢の標的を、山竜がマコトの琴線に任せるかとしたところで、リーマンに押された川奈忍が二人の間に割つて入らされるフレーミングが案外超絶。それとトリコモナス菌といふのは山竜が薬瓶を持ち歩く、豚の尻から採取した菌を純粋培養した、効能的には要は山芋のブツ。南崎ゆかはハシキョンと川奈忍に続くターゲット、トリコモナスを使ひたがるマコトを、山竜が「マンチョの匂ひが不幸」であると制するアユミ。山竜は俗物図鑑ばりの慧眼の持ち主であつたのか、降車後二人が家まで尾けてみたアユミは、漸く辿り着いたかものの弾みで巡り合へた新藤(港)から拘束された上での熱ロウにお浣腸と、何気でなくハードに責められてゐた。ちな、みに。各々のヤサは全て、津田スタを使ひ回す。一応、新藤は金持ち設定なのに。話を戻して山竜とマコトが保健所職員を名乗る際の、白衣その他小道具についても撮影所の大部屋俳優部であつた山竜がその時の伝(つて)で調達した旨、思ひのほか実直に回収してのける。
 ビリング頭を山竜と芳正の二人で飾る、痴漢電車版「ばか兄弟」ともいふべき深町章1989年第五作。黒子占ひの体でおとなしく二人がかりでヤラれた末に、これといつたオチのひとつつくでないハシキョン篇に劣るとも勝らず、海山保健所の急襲を受け漸く電車内で塗布されたトリコモナスが効いて来た川奈忍に対し、山竜いはく「私共が開発した今世紀最高の治療法」と肉棒注射。川奈忍も川奈忍で「早く治療してえ」、「もつと治療してえ」と大歓喜。臆したら負けの抜けた底が天から降り注ぐ世界が繰り広げられる、穏やかな裸映画。とはいへマコトが家人と自身の失はれた青春の仇を討つ、本題は何次元の狭間に消えたのかと頭を抱へた手を放し匙を投げかけた、タイミングで三番手がばか兄弟を港雄一に誘(いざな)ふ、鮮やかな妙手が火を噴く。起承転結の転部までは、裸を映画が猛追する構成が満更でもなかつたものの。ショット単位では見事でなくもない砂の器に始まり、多羅尾伴内に破れ傘刀舟悪人狩りと来て、止めは血飛沫が水つぽい必殺仕事人。締めの濡れ場も疎かに、他愛ないパロディに終始するクライマックスが失速も通り越した完全に木端微塵。大体、マコトの尻に彫られた刺青なんて、ハシキョンと川奈忍両篇に於いてはそんな代物なかつたぢやねえか。斯様な無様な悪ふざけよりも、ウエストのヤバい細さを薄幸ルックスが加速する、南崎ゆかの裸をもつと愉しませるべきだ。序盤を潔く駆け抜ける濡れ場要員―所詮、女優部全員濡れ場要員みたいなものなのだが―かと思ひきや、再登場を果たした吉本美奈子が再び山竜とマコトの挟撃を被弾する、相変らずな日常に持ち込む力技の小団円が精々関の山の、肝心要で軸足を失した一作。ところでビデオ化に際しては、そんな大絶賛四番手に悪くいへば過ぎない吉本美奈子が堂々とパケを飾つてゐたりする、今となつては正体不明の匙加減は御愛嬌。


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 「赤い暴行」(昭和62/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:朝倉大介/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:五十嵐伸治/監督助手:渋谷一平/撮影助手:中松俊裕/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:東音スタジオ/現像:東映化学/出演:橋本杏子・風見怜香・春原悠理・鈴木幸嗣・山本竜二・池島ゆたか)。脚本の周知安は、片岡修二の変名。
 ファースト・カットは湖畔に車椅子を並べる二人の老婆―メイクのハシキョンと風見怜香―ではなく、端から当てられてゐる黒電話に続き、ピンスポで闇の中から浮かび上がる橋本杏子。池島ゆたかの声が「さあ奥さん、貴女は今家にたつた一人でゐるんです」と大雑把に語りかけ、野沢亜紀子(橋本杏子/里見瑶子)に対する催眠治療が開始される。他愛ない遣り取りは薄らぼんやりしながらも普通に交してゐた亜紀子が、電話が鳴るや途端に狼狽。観察する精神科医の佐伯恭司(池島ゆたか/なかみつせいじ)と妻でインターンの悦子(風見怜香/水原香菜恵)を一拍抜いて、電話機を破壊し始めた亜紀子を佐伯が慌てて制止。呼ばれた悦子も注射器を手に駆け寄ると、波面に競り上がり式のタイトル・イン。簡単な粗筋に目を通した際脊髄で折り返した確信は、日が東から出づるが如く的中する。
 安普請を豪快に開き直つた矢張り湖畔、でもなく適当な椅子を二つ向かひ合はせに置いただけの砂浜。佐伯が、亜紀子の夫である俊介(鈴木幸嗣/平川直大)に療後の面談。電話の受信音に異常に反応し極度の興奮状態に陥つた末、何気なく電話に出ようとした野沢に出刃を向けた挙句、電話線をブッた切る結構な刃傷沙汰を起こした亜紀子を、遂に見かねた野沢が佐伯のクリニックに入院させたものだつた。亜紀子の異変に野沢が最初に気づいたのは三ヶ月前、何か起こらなかつたかと佐伯に促された野沢は、洋服を新調する亜紀子に付き合つて外出した折、会社の会合で二三度会つた程度の面識があるといふかしかないといふか、兎も角取引先である「黒崎工業」の若くして部長・沼田明(山本竜二/牧村耕次)とバッタリ出くはした、他愛ない出来事を器用に思ひだす。出演者残り、今作に於いては額面通りの三番手に納まる春原悠理は、課長である野沢の部下兼、不倫相手の江藤倫子、藍山みなみの役。
 忘れた頃に再起動した国映大戦第三十四戦、深町章昭和62年第三作は、2006年第一作「淫絶!人妻をやる」がほぼ忠実にカバーした元作。スラッシュ挿んで不可解に煩雑な配役表記は、「淫絶!」版を併記してゐる。いはずもがなを幾度でも繰り返すが、片岡修二に書かせた脚本を、我が物面するのはよくないぞ。
 電話を起爆剤に壊れるやうになつたヒロインが、療養先で劇中二度目の再会を果たす大筋と、沼田が始末されるに至る顛末は全く同一。サブスク最高と改めて「淫絶!」に軽く目を通してみたところ、細部に関しても雄琴はまだしも、トルコまで馬鹿正直にトレースしてゐる、あと城南公園。逆に異なつてゐるのは俳優部の面子のほか、津田スタと水上荘といふ―主に―野沢家とそれに伴ふ周囲のロケーションに、手切れ金の有無まで含め倫子の扱ひ。とこ、ろが。2006年の新作映画で特殊浴場を称してトルコはねえだろ、土政府激おこどころか、この期にはノーマークにさうゐない。とかいふのは早とちりであるのが、最大の相違点。完全新規で設けられた四十年後のプロローグとエピローグで挟んだ「淫絶!」の本篇時制は、最も単純に考へると実は昭和41年、ソープランドなんて言葉使ふ訳がない。深町章らしく最後の最後まで溜めた一ネタを、明かしたそのまゝの勢ひで“終”を叩き込む。かに思はせたものの、不用意なストップモーションをしかも御丁寧に二つクロスさせ絶妙に後味を濁す今作と比べると、別にまどろこしくもなく、「淫絶!」の方が丁寧に形を成してゐなくもない。あと明らかにいへるのは、部長感一本勝負ならば牧村耕次の圧勝、寧ろそこで何故山竜を連れて来たのか。裸映画的には風見怜香のユッサユッサ悩ましく弾むエクストリームなオッパイに、もう少し尺を割いて欲しかつた含みを除くと大体互角。約二十年の時と時代を超え世紀をも跨いだ、橋本杏子と里見瑶子の竜虎相搏つ激突は見応へがありつつ、さうなると今度は沼田に関する逆で、正しく下手な憔悴メイクを施してみた分「淫絶!」の分が悪くなりもする。一長一短が色々白い、元々の一作。だけれど人が書いたものを、自らの筆によるやうな顔をするのはあまりでなく感心しないのも大幅に通り越して、端的にけしからん。

 一旦脱稿後一時して気がついたのが、新東宝が十月に「淫絶!」を、「赤い凌辱」なる改題で新版公開してゐやがる、十年ぶり二度目。片岡修二―と志賀葉一=清水正二―が黙つてゐれば誰も気づきやしないとでも思つたか、新東宝もシレッとキナ臭い真似をしてのける。


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 「痴漢電車 パンティの穴」(1990/製作:メディア・トップ/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:佐野正光/撮影助手:片山浩/照明助手:恵応泉/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・しのざきさとみ・岸加奈子・早瀬美奈・芳田正浩・小林節彦・下元史朗)。脚本の周知安と企画の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。
 何処ぞ東京のど真ん中の画に、「世の中平和である」。切り口のぞんざいさも兎も角、ナレーションの主が小林節彦といふ意表を突いてタイトル・イン。老はさて措き、若男女の中オジサンが一人負けしてゐる状況を適当に組み立てた上で、朝六時四十五分の津田スタ。妻の明子(ショートカットの橋本杏子)は眠りこける傍ら、園山高志(下元)が目覚ましを止める。そんな訳で通勤電車、コバレーションによるオジサンの条件が、曰く麻雀とカラオケが好きな巨人ファンでおしぼりで顔を拭いて下らない洒落をいひ、「そして痴漢をする」。空前絶後の、“そして”感。どうせ苗字は黒崎にさうゐない悦子(しのざき)に、園山が電車痴漢。改札を出たロングで悦子に捕獲された園山は最初白を切りつつ、悦子が続きを希望してゐると知るや、宣誓でもする形で手の平を立て「私ですー痴漢したのは」。この件、掌の返しぶりの鮮やかさは面白かつた。もしくは、鮮やかさだけは。
 配役残り改めて小林節彦は、十八齢の離れた久美子(早瀬)と結婚した轟渉、共稼ぎ。岸加奈子は電車痴漢を介して轟が偶さかミーツする、浮気性の人妻。芳田正浩は、毎晩遅い久美子の帰りに猜疑を募らせる、轟が頼つた興信所の探偵・岩淵。小林節彦・下元史朗と三人並んだ名前を見た時点で、よもや芳田正浩が探偵役だとは予想だにしなかつた。
 最早そこにしか弾が残つてゐない、新東宝の痴漢電車を片端から見て行くかとしたところ、予想通り深町章映画祭の火蓋が切られた模様の1990年第三作。さうはいつても、近年深町章は痴漢電車撮つてないよな?とも思ひ調べてみると、さんざ撮り倒した末に飽きたあるいは厭きたのか、深町章最後の痴漢電車は、1998年第四作「ノーパン痴漢電車 まる出し!!」(主演:相沢知美/ex.青井みずき/a.k.a.会澤ともみ)まで遡る。
 尺を二等分した後半の轟篇に際しては、今度は下元史朗がナレーションを担当する。かといつて電車痴漢がフランクな底の抜けた世界観を共有する以外には、二篇が一欠片たりとて交錯するでなく。“女元気時代”と、“男ショボ暮れ時代”。二年目の分際で、平成の世をさう総括してのける粗雑な着地点には、呆れるのも通り越し直截に腹が立つ。ベクトルの正負はこの際等閑視するとして、映画が突発的に煌めくといふか揺らぐのは、大概唐突に岸加奈子が飛び込んで来る瞬間。事前の轟家電車内夫婦生活が観客のミスリードを目した周到な伏線であつたならば、鮮やかな妙手といふほかない。あくまで、さうであつたならば。形式的には早瀬美奈よりひとつビリングが優位とはいへ、純然たる濡れ場要員に限りなく近い岸加奈子を、その発言を以て岩淵に橋を渡すのは、ギッリギリの救済策。もう一点特筆すべきなのが、“パンティの穴”だなどと屁のやうな公開題を、誰も別に気にしてゐなくとも何らおかしくないにせよ、カッ攫ふかの如くキシカナが回収して行くのは何気なサプライズ。

 に、してもだな。一応順番上最後といふ意味に於いてのみともいへ、締めの濡れ場たるカーセックスに関して。幾ら何でも、午前様間際にしては車の外が薄らぼんやり明るすぎるだろ。白夜かよ、何時から東京はそんな高緯度になつたのか。


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 「痴漢電車 車内口撃」(1989/製作:メディア・トップ/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:夏季忍/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:白石宏明/編集:酒井正次/助監督:カサイ雅裕/監督助手:瀬々敬久/撮影助手:中松敏裕/照明助手:福井道夫/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:川奈忍・石原ゆか・南野千夏・橋本杏子・池島ゆたか・久須美欽一・芳田正浩・山本竜二)。脚本の夏季忍と企画の伊能竜は、それぞれ久須美欽一と向井寛の変名。
 タイトル開巻、満員電車の車内実景にクレジット起動。新東宝ビデオでクレジットが普通に流れてゐると胸を撫で下ろす、そんなゴミの如き屈折した安堵なんて要らない。クソみたいなウェリントンの、吉田正夫(芳田)が大欠伸。芳田正浩は二宮和也に見える時もあれば、加藤芳郎にも似てゐる。吉田に対面で密着した小夜子(川奈)が、身を預けてグラインドし始める。「女の痴漢・・・・痴女だ!」と判り易く火の点いた吉田は迎撃に転ずるものの、あへなく陥落。降車後“おスペ代”と称して吉田から一万円を徴収した小夜子の名刺には、痴漢総合代理株式会社営業部とあつた。「世の中には色んな仕事があるんですねえ」と吉田が素直に感嘆する、飛躍の大きな設定を豪快に一撃で纏めてみせるダイナミズム溢れる流れで、吉田は小夜子から三万円で人妻とのプレイを紹介して貰ふ流れに。尤もそんな吉田が自宅の津田スタでは、夫婦生活の不甲斐なさを理由に、妻の随子(南野)から尻に敷かれるどころか下僕以下に虐げられてゐた。
 尺も大体綺麗に三等分した、三篇のオムニバス?仕立ての一作。配役残り山本竜二は、橋本杏子に電車痴漢を仕掛けて、手錠をかけられる男。山竜を自宅に連行したハシキョンは、ボストンバッグ一杯の淫具で責める。鞭で出鱈目に乱打され、山竜があげる悲鳴が殆ど怪鳥音。久須美欽一は、浣腸は打つのではなく自らに打たせたハシキョンが、助けを呼ぶと押し入れから飛び出して来る、インポの治つた亭主。何故かこの頃の久須りんは、今より髪が薄い。不思議だなあ、何でだらう、不思議だなあ。閑、話、休、題石原ゆかは、高速道路の計画ルート内にある池島ゆたかの土地を、妹の小夜子と狙ふ毒婦・イズミ。病に伏せる―にしてはガンッガン元気な―池爺を肉弾往診する際には、イズミが普通に看護婦の白衣を着てゐるにも関らず、あくまで“主治医”と称される。池爺が所有する畑の権利書は、何時の間にか息子であるヘースケ(山本)の名義に移つてゐた。
 ex.DMMピンク映画chの中にある、五十音順でエクセス・大蔵・新東宝、シリーズとしてタグがついてゐる三社の痴漢電車を虱潰しに見て行くかとしたころ、最早新東宝しか残り弾がなかつた。そんなこんなで盛大な深町章祭になりさうな予感の、1989年最終第七作。
 電話越しの声すら聞かせない色男一枚噛ませて、小夜子が吉田に宛がつた人妻といふのが、あらうことにといふか何てこともないといふべきか、兎も角随子。ありがちなオチはさて措き、問題なのが小夜子が提供したコンセプトが、自宅の寝室で眠る人妻に、劇中昼間なんだけど事実上の夜這ひを仕掛けるといふもの。それ、吉田は思ひきり帰宅してんぢやねえかとかいふ空前絶後のツッコミ処は、ある意味見事に等閑視してのける。破天荒にもほどがある作劇が、驚く勿れ呆れ果てる勿れ、まだまだ全然序の口に過ぎなかつたんだな、これが。ハシキョン篇は、そこだけ切り取れば十全に成立してゐる。男性機能を回復した久須りんは、山竜を押し退けハシキョンと―正常位で―夫婦生活をオッ始める。あぶれた山竜に連ケツを掘られ、オカマに変貌か本来の姿を取り戻した久須りんの発案で、三人での新生活がスタートする運びに。左右に山竜と久須りんを据ゑハシキョンを扇の要に、三人でキメッキメの記念写真を撮る中盤ラストは、スリーショット自体の豊潤な威力もあり綺麗に形を成す。更なる大問題が、結局痴漢総合代理も小夜子も掠りもしないハシキョン篇に於ける山竜と、池爺パートのヘースケとが同じ人間なのか、もしくは豪快か底の抜けた二役であるのかに関して、一ッ欠片の説明も為されなければ、三篇を統合しようとする試みも1mmたりとて行はれない点。小夜子も小夜子、川奈忍が小夜子なる名前の女を演じてゐるといふだけで、東京でヘースケが小夜子に電車痴漢する一幕こそあれ、痴漢総合代理はちの字も出て来ない。よしんば序盤の小夜子と終盤の小夜子が同一人物であつたとて、ドリーミンなセールスレディから、姉妹で将と馬を挟撃せんとする他愛ない小悪党に堕してしまつてゐる。悪びれもせず結末にまで筆を滑らせると、計画ルートが変更され父子の土地が単なる田舎の畑に戻つた結果、脊髄で折り返して手の平を返した姉妹は去る。なほも納まりのつかなくなつた親爺に迫られた、山竜の絶叫エンド。改めて整理すると、わざわざ金を払つて自宅に昼這ひし、個人を特定し得ない不作為のパラレルな登場人物がしかも二人。そして山竜の持ちキャラに胡坐をかき、投げ放した締め。無論、締まつてなどゐない。滅多にお目にかゝれないレベルの、粗雑極まりない映画を見たといふのが、それ以外に溜息も屁も出ない直截な概評である。


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 「淫獣捜査 夫婦暴行魔を追へ!」(1996『夫婦暴行魔 牝肉レイプ』の2019年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:岡輝男/企画:中田新太郎/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/協力:獅子プロ/出演:葉月螢・田中真琴・森下ゆうき・的場貴徳・熊谷孝文・小川真実)。jmdbには榎本敏郎とある助監督が、本篇クレジットでは抜けてゐる。それと矢張りクレジットからは等閑視されつつ、スチールは確実に津田一郎。
 土ワイな車列と、それを呆然と見やる葉月螢の横顔。道路にダイブせんとする、パジャマに足元もスリッパ履きの葉月螢を熊谷孝文がすんでで制止するのが、病院の屋上辺りかと思ひきや、よもや歩道橋といふ予想外のロケーション。の火にガソリンを注ぎ、新人女検察官の優子(葉月)が、大学の後輩(熊谷)とそんな突拍子もない形で再会しただなどとある意味画期的なシークエンスにクレジットと、限りなく確信に近い不安とが起動する。熊谷クン(仮名)に自宅まで担ぎ戻された、優子は茶色い酒を飲み始める。「アタシね、男に捨てられたの」、大雑把か大概な第一声で語り始めた優子と、熊谷の会話は畢竟噛み合はず。矢鱈な勢ひで杯を呷る優子に、熊谷が半ば匙を投げてペラ紙一枚のタイトル・イン。もう半分は、俺が投げよう。
 徹頭徹尾優子の会話中にしか登場しない優秀な上司と、優子は不倫する。優子の検察官としての初陣は、連続強姦事件。担当を優子に命じた、優秀な上司改め“彼”に認められたいと優子は燃えるものの、一人目の被害者・渡辺静香(田中真琴/ex.田中真琴で西藤尚)はモデルの仕事で人気雑誌と専属が決まつたゆゑ。一ヶ月後二人目の被害者である町田明代(森下)も交際相手から求婚されたため、それぞれ告訴取消。公訴に持ち込めず、優子は梯子を外される。さうは、いふけれど。薬物で水のないプールして連れ去つた上で、津田スタに数日間監禁する。静香と明代で各々が元ゐた場所しか違はない犯行の状況を窺ふに、刑法第225条(営利目的等略取及び誘拐)は同177条(強制性交等/ex.強姦)同様、一昨々年の刑法改正までは親告罪であつたにせよ、第220条(逮捕及び監禁)に該当してゐる時点で、非親告罪のセンも残らなくはない。
 配役残り、ダーリン石川(ex.石川雄也/a.k.a.石川ゆうや)と澤村清隆を足して二で割つた感じの、活動の痕跡が今作以外に見当たらない謎の俳優部・的場貴徳が、件のレイプマン・三枝ゲンタ。三年前まで精神科に入院してゐた、優秀なプログラマー。小川真実はその際担当看護婦であつた、目下三枝の妻・キリコ。諦めきれない優子が独自捜査を進める過程、別宅設定の津田スタに聞き込んだ際の、耳の遠い住人は津田一郎。この、玄関口で優子に応対するツダイチを背中から抜いた画を観てゐて発見が一点。かつて、深町章三十一作後の未亡人旅館第三作に新田栄が見切れてゐるやうな気がして首を捻つてゐたのが、あれは、案外背格好の似た津田一郎であつたのだとこの期に思ひ至つた。尤も、あるいは要は。勝手に見誤つたものを、ゼロに復旧しただけのマッチポンプではある。
 小屋オンリーで辿り着いた、最強の番組占拠率を誇る“無冠の帝王”新田栄。以降ex.DMM戦も絡めた、浜野佐知渡邊元嗣。深町章1996年第四作で、四人目の感想百本となるフォース・ハンドレッド。ex.DMM戦で百本を通過する、半ドレッド戦は結局回避した格好。とかいふのは、当該映画の中身とは一欠片の関りもない、純然たる私事にして些事に過ぎない。
 裸映画的にはとりあへず安定、どころか相当に充実する、ビリング頭をさて措けば。前半戦を支配する静香と明代に対する牝肉レイプは、津田スタ和室を記憶にないほど暗く歪める、ハードな描写が大いに下賤な琴線を激弾きする。些か面相はオッカナイ系ではあれ、森下ゆうきのパンチの効いた肢体は、卓袱台を引つ繰り返しての変型大の字拘束に激越に映える。疲弊した隙を突かれた優子も遂に囚はれ、突入する後半戦。優子に関しては手短に通り過ぎながらも、小川真実のこちらも見た覚えのないくらゐたをやかなオッパイを、潤沢に尺も費やし丹念に堪能させる。問題が、そこからいよいよ舞台を劇中現在時制の優子宅に戻しての、広げた風呂敷の畳み処。優子が完全にブッ壊れるのは、ある意味葉月螢にとつて十八番に近いものもあつたにせよ、映画ごと命運を共にデストロイドされてしまふんだな、これが。ガッバガバにダダッ広い行間をマキシマムな想像力で補ふと、三枝夫婦から凌辱された結果―キリコは華麗にペニパン装着―“彼”の子供を流産した優子が、何故か部屋の中に転がつてゐた金属バットで二人を撲殺。最終的には“彼”が事態を収束、心神を喪失した優子は責任能力を問はれなかつた系。と、いふか。そもそも“彼”の存在―なり“彼”との関係―自体甚だ怪しいサスペンスを通り越したサイコ・スリラーを、観客が諒解可能な状態で解決か着地させる営みを一切拒否。ケラケラと優子が狂ふばかりで、ちつともエロくない締めの濡れ場―締まつてない―をファンファンファンのサイレン音で締め括る。だから括れてゐない、六十分にも三分強余した強制終了。さんざトッ散らかしたまゝ放り投げるラストが、一見のんべんだらりとしかしてゐない始終を、実は周到に外堀を埋めての狙ひ澄ました一オチで、鮮やかに幕を引く。最後まで観ないと判らない終劇の魔術師・深町章にしてはらしからぬ、最後まで観てもサッパリ判らない一作。反面、もしくは一方。そこだけ切り取るつもりで掻い摘めばらしい切羽詰まりぶりを振り抜くのが、文脈とか最早どうでもいい優子の「“彼”がアタシを捨てるのよ、捨てたのよ!」のシャウト。葉月螢が持ち前の突破力で、一撃必殺を振り絞る。


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