電脳六義園通信所別室
僕の寄り道――電気山羊は電子の紙を食べるか
【夏の別れ】
(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2007年 7 月 18 日の日記再掲)
仕事に使えるというのを口実にして高級自家用車が買えるようなお金を払って、まだマニュアルが英語で書かれているものも多かった外国製パーソナルコンピュータとソフトウェアを買い、わからないことだらけで夜も眠れず、助けてくれる人を求めて電話線にモデムをつなぎ、雑音をかき分けてパソコン通信という人の海に出た 1990 年代があった。
やがてインターネットの時代になり、ひと昔前に生きた人にはあり得ないような多くの人との出会いを体験し、種々雑多な情報を共有しながら生きるのが当たり前の世の中になっていた。
■ 7 月 18 日、豊島区駒込にて。
Canon PowerShot TX1
友人のサイト運営を手伝う片手間に自分のサイトを立ち上げ、日々の他愛のない出来事をメモしていいたら、足かけ 9 年間も書き連ねるダラダラとした日記もどきになっていた。
インターネットを通じて知り合った友だちへの私信も兼ねて、きわめて個人的な情報も日記に書き込んでいたら、看護・介護の窮状を見かね、現実の世界に出て来て助けてくれた友人たちがいる。
■ 7 月 18 日、豊島区駒込にて。
Canon PowerShot TX1
そういう清水在住の友だちのひとりが昨夕他界され、思いがけない別れは、なぜかまた夏にやってきた。年下だけれど、夏は病人の残されたちからを奪う。
インターネット第一世代の人に人生の別れがやってきた。これからは電子の糸電話を通じて思いがけないほど多くの人が出会い、思いがけないほど多くの喜びに胸ふるわせ、思いがけないほど多くの別れに泣くことになるのだろう。21 日は葬儀に参列するため清水に向かう。
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【墓参りの挨拶】
【墓参りの挨拶】
人の漲る気魄というものをぴりぴりと感じる機会は少ない。
墓の掃除をしていたら何とも言えない気魄みなぎる人がこちらにやって来てドキッとする。墓の場所を思い出しつつ探しているようでお盆に友人の墓を尋ねたらしい。ドキッとしたので
「こんにちは」
と先に挨拶しておいた。
僕と同い年くらいに見える色黒で精悍できりっとした顔立ちの人で痩せて引き締まって、しなる鞭のような身体つきをしていた。
Canon PowerShot TX1
ビシッビシッとした動きで墓参りを済ませ
「じゃ、お先に!」
と一声掛けて去っていったのでもうもうと線香煙る墓参あとを見たら缶ビールで乾杯したようで、その後ろに競輪の新聞が供えてあった。
お墓の主の墓碑銘といい気魄溢れた人の容貌といいひょっとするとどちらも沖縄縁故の方かもしれない。
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【薬師沢東側の砂防堰】
(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2007年 7 月 16 日の日記再掲)
「何か、用事だけか? ばばちゃ」
と、おとしは丁寧な口ぶりで言った。三左ェ門は、村の内ではそう大きい百姓とは言えないが、自前百姓で親方衆(しょ)の端につらなっている。家は大きかった。
「うん、あねサ頼みごとあって来たなだども」
「何だろ?」
「今(えま)おら家(え)さ、ほれ、新しく来た山伏どが見えでの」
話が長くなりそうなので、おとしは婆を外の日射しの中から土間に招(しょう)じ入れ、上がり框(かまち)に掛けさせた。
神社の境内で、大鷲坊が長人の利助に啖呵(たんか)を切ってから五日経っている。そのあとがどうなったか、おとしは気にしていたが、田畑の仕事がいそがしくて、そのままになっていた。
「いやあ、外から来たば何も見(め)ね」
上がり框に掛けると、婆はそう言った。強い日射しの中から急に家の中に入ると、中は真暗になる。見えなくてさいわいだ、とおとしは粗末な土間を見回した。(藤沢周平『春秋山伏記』より)
子どもの頃、外の明るい日射しの中から屋内に飛び込むと、世界が暗黒になってしばらく目が見えなくなったことを懐かしく思い出した。そういうことを久しく体験しないのは、どんな建物でも採光が良くなって屋内の暗さというものが失われつつあるからだろうか。
台風 4 号が静岡県の沖合を進み、風雨が激しく、東海道新幹線も、在来線も、東名高速道路も不通になり、こんな天気では墓参りもできないし、かといって帰京もままならないので、薄暗い実家一階の板の間に寝転がって藤沢周平を読んで過ごした。正午を過ぎて鳥の鳴き声が聞こえるのに気づき、玄関のドアを開けて踏み出したら外には日射しが溢れていた。
「いやあ、内から来たば何も見(め)ね」
■薬師沢西側の砂防堰。
Canon PowerShot TX1
静岡県清水。東海道新幹線が清水平野を通過する際、平野の端に扇型の山塊が見えその中腹に室町時代創建という霊山寺の藁葺き仁王門が見える。その麓にある曹洞宗の寺、富谷山保蟹寺(ほうかいじ)に本家の墓や分家の墓とともに亡き母が眠る我が家の墓もある。
大内の観音さんこと霊山寺のある山あいから流れ出て山襞を下る沢を観音沢川と呼び、観音沢川は大内田んぼ脇を流れて巴川に注いでいる。その東側にもうひとつの山襞があり抱かれるように建っているのが保蟹寺とその墓地で、墓地脇を流れる小川が薬師沢である。この小川には昔は沢ガニがたくさん住んでいてとって食べると祟りがあるといわれていた。沢のある山の上にかつては祠があって保蟹寺ご本尊である蟹に乗った薬師如来像が祀られていたので薬師沢というのだと思う。山に親しんだ人々によって山や沢には実に懇切丁寧に名前がつけられてきたようで、そういう小地域の呼び名を記した地図が手元にあって眺めていたら楽しいだろう。
■薬師沢東側の砂防堰。雨が降ると泣いている人の顔に見える。
Canon PowerShot TX1
薬師沢は急傾斜地で土石流の心配があるため数年前に砂防工事が行われた。7 月 15 日、台風 4 号通過直後の薬師沢はどうなっているのだろうかという興味もあって墓参りに行ってみたけれど、轟々と水音は勇ましいけれどさしたる水量ではなくてこの程度の雨なら安心して墓参りができることを確認した。
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【台風と乗客救済】
(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2007年 7 月 15 日の日記再掲)
7 月 15 日、台風 4 号の東海沖通過によって不通になっていた東海道新幹線が、午後になって運転再開したというので上り新幹線に乗るため下り在来線で静岡駅に向かう。
■東海道本線下り列車、草薙・東静岡駅間。運転再開したという新幹線の姿が見えない。
FUJIFILM FinePix Z2
静岡駅の自動券売機で新幹線への乗り継ぎ切符を買う際に、無理だと思いつつこだま号の指定席を指定したら空きがあるので指定席特急券を購入した。改札を通過しようとしたら現在上りひかり号が入線しておりこの列車を乗り過ごすと当分上り列車はないと言う。
「じゃあ今自動券売機で指定席特急券を買ったけれどその列車はないってこと?」
と駅員に聞いたら
「そうです」
と言うのであわてて階段を駆け登って入線中のひかり号に乗車した。
通路まで人が溢れて立錐の余地もない車内に放送が有り
「この列車はひかり号ですが乗客救済のため終着東京駅まで各駅に停車して行きます」
と言う。
■東静岡駅手前で下り新幹線の列車が在来線を追い越していった。
FUJIFILM FinePix Z2
たとえ約 1 時間程度の旅でもまっすぐ立っていられないほどの混み方では辛いと思い、隣りの指定席車両を見たら通路がガラガラなのでそちらへ移動した。指定席券を持っていないと満員時に指定席車両の通路に立ってはいけないという決まりはなさそうな気がするのだけれど、どうして多くの人が自由席車両に顔をしかめ汗だくになって押し合いへし合いしながら立っているのだろうか。
一方、指定席車両にゆったり立っている人たちは、この乗客救済のため各駅停車になったひかり号には指定席もへったくれもないだろうと判断しているらしく、新富士駅や三島駅に停車して降車する客が席を立つたびに要領よく着席していく。
結局東京駅まで立って帰り、運行されない列車の指定席券を買わされて損したなぁという気もし、新幹線改札を出る際に精算窓口を見たら、払い戻しを求める客が長蛇の列を作っていてびっくりした。最後尾についたら 1 人 2 分かかるとしても 1 時間以上待たされるのではないだろうか。
いろいろな場面で頑張る人、要領の良い人、諦めの早い人が錯綜して鉄道は乱れに乱れている。
◉
▼51……棕櫚の言葉
港区赤坂の花屋。
静岡県清水で母が飲み屋を開業したのは36歳の夏であり、
清水大内在住だった祖父は鉢植えにしたヤツデを自転車の荷台にくくりつけ、
巴川沿いの道を下って開店記念だとそれを届けに来た。
末広がりのヤツデは人を招く縁起木なのだと。
撮影日: 07.6.27 1:23:33 PM
70歳になったのを潮時に
「頼むから深夜まで店を開けている飲み屋はもうやめようよ」
と説得し、仕送りを条件に店をたたんで貰ったのだけれど、他界する直前の母は
「店をたたんで一番辛かったのは日銭(ひぜに)が入ってこないことだったよ」
と言い、なるほどなぁと思い、仕送りも日銭にできれば良かったかな、
などと詮無いことを思う。
日銭で思うことだけれど、毎日仕入れをして毎日売り切らなければ売り物が傷む
生鮮品を商う商売というのも辛いだろうなぁと思う。
「店をたたんで一番うれしかったのは売れ残りを心配しなくて良くなったことだったよ」
と、そういう暮らしが苦手な僕は言いそうな気がする。
▼50……大衆万歳
とんかつという料理は日本人が創意工夫したきわめて日本的な料理であり
どう考えても現代日本料理の一つだと思うので
「和風とんかつ」とか「洋風とんかつ」とかうたっている店を見ると
首をかしげてしまうことが多い。
撮影日: 07.7.12 0:39:27 PM
新宿区西新宿。
「中華とんかつ」と書かれた看板に意表を突かれて思わず唸る。
現代日本料理の一つであるとんかつを
中華料理の料理人が得意の腕をふるって中華風のとんかつとして揚げたなら
どんな創意工夫を凝らすのだろうかと興味津々だったからである。
帰宅後インターネットで調べたら
このお店は驚くほどお洒落に最近改装されたらしいが
中華料理の他にハンバーグや親子丼やスパゲティやコロッケやトンカツも揚げている
きわめて大衆的ニーズに応えるお好みの店だった。
自慢料理の「中華」と「とんかつ」を誇らしく看板に掲げたので
幻の「中華とんかつ」を夢想してしまったのだった。
→ 大衆万歳
▼49……原始焼
新宿区西新宿7-19-22。
原始焼が売り物の『二代目 魚々子』。
店内に大きな炉があって魚を炭火で焼いて食べさせるという。
撮影日: 07.7.12 0:39:58 PM
OLYMPUS E-410 LEICA D VARIO-ELMARIT 14-50mm F2.8-3.5 ASPH
魚に串をうち、炉の真ん中に置かれた炭火のまわりに
立てた状態で焼いてくれるそうで確かに原始の調理法に近い。
なかなか良い店だと噂だけれど残念ながら入ったことがない。
日曜日定休で営業時間は17:00~23:30。
▼48……土木土木
思いがけない読みをさせる難読人名に対して
店の名前に妙な漢字をあてたものは駄洒落であることが多く
ちょっと間をおいて解読に成功すると「な~んだ」と脱力する。
撮影日: 07.7.12 11:44:04 AM
OLYMPUS E-410 LEICA D VARIO-ELMARIT 14-50mm F2.8-3.5 ASPH
新宿区百人町。
『土木土木』と書いて「どきどき」と読ませるのだけれど
どうしても「どぼくどぼく」と読めてしまう。
土木工学とか土木課とか土木事務所などになじみのない人々は
「きゃは、ドキドキじゃん」
などと簡単に読めてしまうのだろうか。
【2007 年のたなばた早歩き 3】
【2007 年のたなばた早歩き 3】
子どもの頃から金魚すくいがあまり好きでないのは、すくって持ち帰った金魚を入れた金魚鉢を置くために親子げんかしながらタンスの上を片付けなくてはいけないほどに狭い六畳一間のアパート暮らしだったからかもしれない。
Canon PowerShot TX1
金魚鉢に水を張って放し、餌をやると新居が自分のものだと宣言するように、金魚は引っ越しそば代わりのにょろにょろと長いうんこをした。
尾びれを振りながら気取って泳いでいるように見えて後ろに長いうんこを引きずっている姿が可笑しくて大笑いしたものだが、最近は人生の長いうんこを引きずって歩いている自分を見るようで笑えない。
◉
▼荷台の上
東京都台東区上野公園。
不忍池岸辺で見つけたアウトドアの達人。
この人は折りたたみ椅子や食べ物や飲み物を自転車の荷台にくくりつけて
気に入った場所までやってきて荷をとき、
折りたたみ椅子に腰掛けのんびり飲食をしながらくつろぐのだけれど
その際に自転車の荷台がテーブル代わりになるのに感心した。
撮影日: 07.7.8 4:20:22 PM
幼い頃、郷里静岡県清水の岸壁に行くと
自転車の荷台に古びた木箱をくくりつけた年寄りが大勢釣りに来ていた。
当時の岸壁の釣りは「てじ」と呼ばれる竿を使わない手釣りであり、
自転車の荷台から木箱を下ろすと中に「てじ」用の釣り具一式や餌があり
その木箱に腰掛けて釣りをし、小鯵などが釣れると
木箱のふたを開けて魚を入れていた。
そういう釣り用の木箱が売られていたのか手作りだったのかは知らないが
妙にかっこよくて憧れていた時期がある。
▼水辺のサッカー
東京都台東区上野公園。
不忍池岸辺で人間が投げ与えるパンの切れ端を奪い合う鳥たちのサッカーゲーム。
会場が水上ではなく陸上だと、レギュラーのスズメ、ハト、カラスに加えて
さまざまな野鳥が飛び入り参加するので楽しい。
撮影日: 07.7.8 4:14:13 PM
OLYMPUS E-410 Zuiko Digital ED 40-150mm F4.0-5.6
スズメ、ハト、カラスの場合、自分以外の者がキープしたパンを咄嗟に奪うことがあるが
それはサッカーで言えばちゃんとボールに行っているのでフェアなプレーである。
一方この日参加したムクドリは嫌な奴で、スズメがあまりにすばしこいので
パンのないところでスズメをつついたりしてボディチャージを繰り返し
サッカーならレッドカード一発退場なのだけれど
残念なことにパンの奪い合いはゲームではないので審判がいない。
写真はムクドリのチャージを避けて距離を置きながら両足を踏ん張って
どの方向にパンが来ても機敏に動けるよう
オシム監督が好きな走るサッカーの体勢を取るスズメたち。
【2007 年のたなばた早歩き 2】
【2007 年のたなばた早歩き 2】
静岡県清水七夕祭りにて。
儚いからこそ美しい煌めきというものもある。
幼い頃、露店で物をねだったら、父親は
「買ってやれ」
と言い、母親は
「そういうのが欲しいならちゃんとした店でちゃんとしたものを買ってやる」
と聞こえよがしに言い、路上で両親が喧嘩を始めたことがあった。
Canon PowerShot TX1
少女時代に戦争を体験した経験のあるわが母の世代はみな同じようなことを言うのかも知れない。
一方、
「もう少し早く生まれたら特攻で国のために死ねたのに」
というのが口癖だった父は
「またそんなくっだらない物を買ってきて!」
と母に叱られることが多く、そういうことをしてしまうのも男らしさのひとつかもしれない。
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【2007 年のたなばた早歩き】
【2007 年のたなばた早歩き】
7月7日、清水に日帰り帰省。
早朝の新幹線ホームで偶然知り合いの編集者に会い、「どちらまで?」と聞いたら京都まで出張だという。
清水在住の友人から「定説通り雨です」という携帯メールが届き、富士川の鉄橋を渡る際には川の水が増水し前方の山並みに低く雲がたれ込めているので、確かに清水は天気が悪そうだなと思い、清水駅に降り立ったらやはり雨だった。
FUJIFILM FinePix Z2
用事を済ませ午後になったら雨が上がったので七夕見物。
午前中雨だったせいで午後に人出が集中したのか、あまりに大勢の見物客がいることにびっくり。
FUJIFILM FinePix Z2
駅前銀座、中央銀座、清水銀座と歩き、桜橋の珈琲焙煎屋に行って珈琲でも買って帰ろうかなと思ったけれど、無人とはいえ実家前を素通りするのもはばかられるので巴川は渡らずに清水銀座突き当たりから元来た道を引き返す。
FUJIFILM FinePix Z2
駅前銀座に戻ったら知り合いの商店主が生ビールを売っていたので立て続けに 2 杯飲んだら眠くてたまらなくなり、清水駅から電車に乗って帰京した。
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【2007 年、清水たなばた祭りにて2】
(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2007年 7 月 8 日の日記再掲)
きんぎょ‐の‐うんこ【金魚の糞】
長くつらなっている形から、付き従って離れないさまを軽蔑していう語。
(広辞苑第五版より)
「金魚のうんこみたいについて歩くんじゃない」
などと人は自分について歩くうんこのような存在に向かって言う。そう言いつつ、どこへ行くにもついて歩いていたうんこがないと、ちょっと不安で物足りない気持ちもあるにちがいない。相手を自分のうんこと見なすということは、自分でいきんで産み出したものだと認めているのであり、人間同士の関係も金魚とうんこのそれに似てい。
■静岡県清水たなばた祭りにて。
Canon PowerShot TX1
一体化しているように見える金魚とうんこにも必ず別れがくる。
うんこをなくした金魚と、金魚をなくしたうんことどちらが可哀想かと言えば、やはり金魚よりうんこであり、なぜならうんこには胸びれも尾びれもないので自分で考えて思う方角に泳ぎ去ることができないからだ。
「うん!」といきむ声に幼児接尾語の「こ」をつけてうんこはできあがり、いきんで産み落とされたのだから出自はうんこであってもしかたないけれど、いつまでもうんこのようなもののままでいると、取り遺されて迎える夕暮れ時が寂しい。
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【2007 年、清水たなばた祭りにて1】
(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2007年 7 月 8 日の日記再掲)
縁日に香具師(やし)がならべる露店には、ありふれたものが思いもかけないものに変容して見えてしまう仕掛けが巧みに組み込まれている。
そういう幻術のような方法を使って財布の口を開かせていることを百も承知で、その妖しさにまんまとはまってみるのが祭りの楽しみであり娯楽の本道だと思う。街角で貸し店舗に年寄りを行列させている催眠商法のやりくちとは違う、健全な一夜限りの夢がそこにはある。
■清水七夕祭りにて。炎と油煙にまみれた食べ物の唸るような演出。
Canon PowerShot TX1
そもそも物を食べることには「生の欲動」が潜んでおり、テレビ CM などを見ていると食べ物のコマーシャルメッセージには広告人という香具師とは別の幻術師によって欲望の増進剤が巧みに組み込まれている。
■清水七夕祭りにて。意図してか、意図せずにか、驚くべき表象が紛れ込んでいる。
Canon PowerShot TX1
現代のハイカラ幻術師のテクニックより、もっと実用的で現実的なレベルで、香具師たちの露店が文化人類学の書物に出てくる器用仕事のような見事な手さばきで、欲動を操作する巧妙な仕掛けになっていることにつくづく感心する。
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