◉「発見は着目を変えることに始まる。」

2019年5月30日(木)
◉「発見は着目を変えることに始まる。」

午前中に古書買取業者が手配したヤマト運輸が伝票を用意してやってきて、段ボール箱 8 個を回収していった。またひとつ片づけが進んだ。

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「発見は着目を変えることに始まる。」と吉阪隆正(よしざか たかまさ 1917 - 1980 建築家)の本にあった。

ほしい道具は意外に生活の片づけの中から見つかる。ほしいものはすでに所有していて、所有していること自体を忘れていることが多いのだ。「なんだ持ってたのかラッキー!」と思う。

暑さが季節はずれであることに反発して、冷たいものをひかえて熱い珈琲やお茶を飲んでいる。酒「以外」の冷たい飲み物は身体にとって毒だと言った人がいた。珈琲を熱いまま保温しておく小さなポットが欲しいと思っていたら、片づけもので出たガラクタの中にちょうど良いのがあった。偶然ではなく、かつて同じことを思いついた自分がちょうど良いのを選んで買ったことを忘れていたのだろう。

いま「知らないこと」「わからないこと」も、かつては「知ったり」「わかったり」したことがあったらしい。どうやらそれをいつの間にか忘れてしまっている。ネット上に日記を書き始めて 20 年経つけれど、むかしの自分はこんなことを知っていたのかと、古い日記を読み返して感心することが多い。過去の自分に教えてもらっている。「わかった、一生忘れないようにしよう」と思っても、知識が身に付かないで忘れてしまうのが人間であり、そのくせつまらないことはくよくよ何度も思い出すので忘れたいのに忘れられない。だから苦しい。

「忘れないこと」と「忘れてしまうこと」を分けているのは、なんども思い出されるものは有益、めったに思い出されないものは無益と片づける脳の判断によるものだろう。一度納得したら思い出したくないものでも、大切なことは何度でも思い出すことが、忘れない唯一の方法かもしれない。なんだか認知症予防脳トレのようだ。忘れないために日記を書いても、読み返さないなら物忘れ予防に有効ではなさそうだ。

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覚えておきたいこともあれば忘れたいこともある。自分にとって都合の悪いことを「まったく記憶にございません」と言い張る政治家は多い。「もう!自分に都合の悪いことは覚えていないんだからっ!」と女性に叱られている一般男性もよく見かける。だが本当に自分に都合の悪いことを忘れてしまえると人は幸せだろうか。

脳の細胞は一年ですべて入れ替わってしまう。それでも記憶が消えないのはありがたい。けれど、一年ごとに人生が更新され元旦の朝を迎えるとまっさらな全生活史健忘という記憶喪失が起こるとしたら――暮れから正月への年越し儀式はそもそもそういうものだと思うけれど――大晦日除夜の鐘を聞くたびにどういう感慨が浮かぶだろう。「ああ、このかけがえのない自分の一年の記憶もあとわずかで消えてしまうんだなぁ」と嘆くだろうか、それとも「ああ明日になれば一年間の嫌なことを全部忘れて生まれ変われるんだなぁ!」と喜ぶだろうか。というか、元日の朝目が覚めて、まっさらでおニューな状態になっているわたしは、大晦日のわたしと同じわたしであると言えるだろうか。

それでも悪夢でうなされて目が覚め、いまの現実の自分に戻れて「ああよかった」と思える境遇の人間は幸せだ。親の在宅介護で辛かった頃は、夜明けに目が覚めて今日も一日介護者である自分を思い出した瞬間、世界が暗転することがよくあった。そういう境遇で暗い気持ちで目覚めている人は多いだろうし、学校嫌いの子どもたちも朝は目覚めとともに暗転して暗いだろう。かわいそうに。

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新聞を読んでいたらアルコール依存症に関する記事があり、家族の依存症を意図せず助長してしまう人をイネイブラー(Enabler)と言うらしい。懐かしい言葉を久しぶりに聞いた。たしか Macintosh パソコンでよく使った記憶があり、イネイブラーではなくイネーブラーで検索したら情報があった。システムイネーブラー(System Enabler)のことで漢字 Talk 7.5 以前の Mac ではそれが「支え手」としてシステムフォルダに必要だった。フリーズや爆弾マークで泣かされた時代のことほど忘れずに覚えている。

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