【光の帝国】

【光の帝国】
 
 

(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2007年 2 月 23 日の日記再掲

ルネ・マグリットに『光の帝国』という作品がある。好きなのは 1954 年に描かれた『光の帝国』であり、未完の遺作になった 1967 年のものまで、何枚もの『光の帝国』が描かれている。

ルネ・マグリット:(1898-1967) ベルギーの画家。フランドル派風の写実主義の伝統を継承しつつシュールレアリスムの立場から,詩的な独自の幻想世界を描いた。(三省堂新辞林より)

作品の基本的なアイデアは「昼」と「夜」、「地上」と「空」、「ここ」と「あそこ」という対照的なものを「地と図」として反転させるもので、1954 年に描かれた『光の帝国』では地上に立つ白い建物のこちら側は日が陰って夜のようであり室内と街灯に明かりが灯っているが、背景である木立の向こう側の空は昼間の明るさなのである。マグリットはこの関係を反転させた作品も描いている。

それらの作品が意図するところはマグリットの言葉に
「この “昼と夜の同時性" は驚きと魅惑の力を持つ。この力を私は詩と呼ぶ」
とあり、絵という詩に頼らずとも “昼と夜の同時性" は見る人をして詩人たらしめる力を持っているということも意味し、夜明けや夕暮れの昼夜混然とした曖昧な領域は人を詩人にする。

■静岡県清水。清水橋跨線橋から港橋方向を見る光の帝国。

静岡県清水。東海道本線をまたぐ清水橋跨線橋が架け替えられて新しくなった。

東海道本線清水駅越しに西日を受けて赤く輝く富士山を眺める絶景ポイントのはずだけれど、粋な計らいは一切なく、ただ側壁を眺めて渡るだけのつまらない橋になっている。

■静岡県清水。清水橋跨線橋から東海道本線、清水駅、清水テルサ越しに微かに夕日に染まった富士山が見える光の帝国。

それでもわずかな隙間から街を覗くと、光の帝国では昼と夜の交代劇が静かに繰り広げられており、“昼と夜の同時性" の力を借りて、家路を急ぐ人々も否が応でも詩人にならざるを得ない不思議な空間になっている。

 

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