電脳六義園通信所別室
僕の寄り道――電気山羊は電子の紙を食べるか
【希望の海へ】
【希望の海へ】
(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2006 年 11 月 4 日の日記再掲)
静岡県清水日の出町。
清水税関脇の岸壁に船のマストを模したようなモニュメントがある。
天を目指して聳え立つマストが左右に伸ばした腕は正確に南北を指し示し、そのことによって港町清水に立てられた帆柱は東西に正対して帆を張り風をはらむ仕掛になっている。
■静岡県清水日の出町。国立清水海員学校創立50周年記念モニュメント。
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秋天を突くように屹立する真白いマストが清々しく、何のために立てられたのだろうと側に行ってみたら、平成五年に国立清水海員学校創立 50 周年を記念して作られたモニュメントだった。マストの礎石はコンパスになっており、傍らの石碑には「希望の海へ」と大書されている。
■「希望の海へ」と書かれた国立清水海員学校創立50周年記念モニュメントの石碑。
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「希望の海へ」と書かれたモニュメント前の岸壁で波止場内の海に釣り糸を垂れる小学生が二人いて、その向こうに港内観光船『オーシャン・プリンセス号』がゆっくり後退し、方向転換をして港内巡りに出掛けていく。
■北へ向かって竿を突き出し釣り糸を垂れる子どもたち。
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全長 37 メートル、総トン数 232.41 トンのこの帆船は、1974 年にポーランドで建造されたものであり、当時の乗船名簿にはたくさんの著名人の名が記されており、彼らもまたこの小さな帆船に乗って希望の海へ出た。
■波止場内で後退して船首を清水港内(写真右手)に向け、港内巡りに向かおうとする『オーシャン・プリンセス号』。
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方向転換を終えた『オーシャン・プリンセス号』が清水港内に向けて前進をはじめボーッと汽笛を鳴らす。
狭い港内巡りであっという間に戻ってきてしまうため、当然帆を張って帆走することなど叶わないけれど、釣りをしている少年たちが手を振ったらデッキの乗客もちぎれるほどに手を振っていた。
幼い頃、園内を一周するだけのお猿の電車に乗せて貰った時に感じた、叫びたいほど晴れがましい旅立ちの高揚感をふっと思い出した。
笑ってはいけない。
最後まで希望を捨てなかったわが母もそうだし、次々に病気で倒れ、今も負けまいと頑張っている友人たちもまた、秋天に突き出した幻のマストに帆を張るようにして、一日一日小さな希望を胸に生きている。
希望というのは工面して自分が作るものであり、見えない風を帆にはらんでわずかでも前進しようとすることであり、そういうほんの一瞬にときめくことを笑わないこと……そんな気がする静かな秋の岸壁散歩である。
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