◉ニューヨーク炭鉱の悲劇

2018年4月27日
僕の寄り道――◉ニューヨーク炭鉱の悲劇

呼吸には「荒い呼吸」「穏やかな呼吸」「浅い呼吸」「深い呼吸」があり、穏やかで深い呼吸は心にも身体にも良いという。確かにそうだろう。

呼吸が浅くなるのは余計なところに力が入っているからであり、人は余計なところに力が入らざるを得ない状況に直面したとたん血圧が上がる。とんでもない他人のおかげで頭に血がのぼるのは、高血圧の人にとっては好もしからざる状態なのだと思う。

腹の立つ相手を振り払おうとするより、自分の呼吸法を身につけることで対処する方が有効かもしれない。バカはひとりだけじゃないので、縁が切れない不意のバカ――もちろん自分自身という内なるバカも含む――に備える護身呼吸術。いいかもしれない。

自分の呼吸のことを考えて足元に目を落とし、臍下丹田(せいかたんでん)を思い浮かべたとたん、丹田と炭田がつながって「ニューヨーク炭鉱の悲劇」という古い歌のタイトルが記憶の中から転がり出てきた。ザ・ビージーズ 1967 年のヒット曲だった。

曲自体は覚えていないのだけれど、「はてニューヨークに炭鉱などあるんだろうか」と気になったことだけを、今も曲名とともに覚えている。

結論から言えば「ない」のだけれど、インターネットなどなかった時代は「ある」ことに対して「ない」ことを突き止めるのはたいへんだった。だから作家やタレントでもいいから博識のお兄さんが必要だった。そういうお兄さんが身近にいなかったので、ずっと謎のままになっていたのだった。

ニューヨーク炭鉱の非在を確かめるためネット検索すると村上春樹がたくさんヒットし、彼の短編集に同名の作品があるらしい。

今ではもてあますほど多い解説記事のひとつをクリックしたら
「みんな、なるべく息をするんじゃない。残りの空気が少ないんだ。」
という台詞が登場するという。文脈の坑道はどう穿たれているのだろう。

呼吸のことを考えて潜り込んだ話の坑口に奇妙に合いそうなので、「ニューヨーク炭鉱の悲劇」が収録されている文庫本『中国行きのスロウ・ボート』を買ってみた。大好きな彼の翻訳本以外を買うのはおそらく初めてだと思う。(2018/04/27)

***

このところ仕事の合間に苦手だったリコーダーの練習をしている。静かに穏やかに息を吐く練習にちょうどよく。吐いているうちに吹いていて心が穏やかになる。上手くなりたいというより、心と身体の健康法としてやっている

「だんだん上手くなってるけど、なんであなたグループ・サウンズばかり吹いてるの?」
と妻に笑われ、昨夜は
「ノーベル賞とったんだから、あなたの好きなボブ・ディランでも吹いたら?」
と言われた。(2018/04/27)


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