つまずきと転倒

2017年11月21日
僕の寄り道――つまずきと転倒

 

目が見えない人が世界をどうやって見ているかについて書かれた本を読んだ。中途失明者へのインタビューにある、目が見えなくなったらかえって転ばなくなったという話が興味深い。

本を読みながら考えるに、自分は同年輩の仲間うちでも転びやすい方ではないかと思う。転ばないまでも歩行中にしょっちゅう何かに蹴つまずくのでカメラマンの友人に笑われている。

目が見えない人は足の裏で地面に触ることでたくさんの情報を読んでいる。足裏の感覚を使って世界に触れ、情報を読むことで世界を見ているのだという。

晴眼者でも真っ暗な小部屋に入ってみれば足裏の触覚に集中し、感覚を研ぎ澄ませている自分に気づく。世界が目で見えることによって、晴眼者の足からは触覚が減衰し、身体を運ぶ運動器官に過ぎなくなっている。

つまずきやすさの原因のひとつは視覚に頼りすぎることにより、思い込みという情報を信頼しすぎることにあるかもしれない。物にでも心にでも、人は自分自身に蹴つまずいている。昨日の夕方も、買い物に出た本郷通りの歩道で敷石に蹴つまずいて転びそうになった。

歩道の敷石にある段差を注意して見ていなかったというより、均一に敷き詰められた歩道の敷石に段差などあるはずがないという思い込みが、わずかな出っ張りにもつまずかせたのだろう。本郷通りの歩道では植えられた街路樹のイチョウが元気に根を張って、あちこちで敷石を持ち上げている。

そういう段差に蹴つまずいて冷や汗をかいていたら、塒(ねぐら)へ帰るカラスが頭上で「アホー」と笑っていた。そういえば、口ひげを動かして笑うカメラマンの友人も最近は転ぶらしく、
「○○ちゃん、歩道に置いてあるゴミ袋のカラス除けネットに足を引っ掛けて転んだのよ」
と奥さんが笑って教えてくれた。


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