サントラの鬼


Z7 + NIKKOR Z 50mm f/1.8 S

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子供の頃、最大の娯楽は映画であった。
まだ映像ソフトは市販していない・・というか、録画・再生する機器自体がなかった。
映画は劇場かテレビで見るものであり、映像をソフトとして手元に置き、何度も見直すことなんてことは夢のまた夢であった。

作品の鑑賞は一瞬一瞬が貴重であり、映像作品の価値は非常に高かった。
いい映画をテレビで放映する時は、先に風呂に入って身体を清め、一瞬でも見逃すことの無いよう心して見た。
大袈裟に聞こえるかもしれないが、本当にそうだったのだ。

映画に関して手元に置くことができる資料は、音楽ソフトと雑誌とパンフレットくらいであった。
音楽ソフト(アナログディスク)は特に重要で、作品の雰囲気をもっとも正確に再現してくれる媒体であった。
レコード屋には毎日のように通い、映画音楽の棚をチェックした。

中学生になりある程度ベテランになってくると、「サントラ盤」しか買わなくなった。
サントラというのは本来はフィルム上のサウンドトラックのことであるが、レコードなどのソフトでは実際に映画で使われたオリジナルの音源から作られていることを意味した。
映画音楽は、純粋に音楽として鑑賞するというより、映画の各場面を思い出して楽しむためのツールであった。
そういう観点から言えば、映画と同じ音源であるサントラ盤でないと意味が無い。

中学の後半になると、「サントラの鬼」と呼ばれるほどのサントラ盤コレクターとなっていた。
キングレコードがサントラシリーズのシングル盤をいろいろ出しており、ほとんどすべて買った。(今でも持っている)
見る機会の無かった作品などは、先にレコードを買って音楽を十分に覚えてしまい、数年後に映画を見ることもあった。

また高校生の頃には、都内にマニアを対象とした映画音楽専門のレコード店が出現した。
僕はそのお店で初めて自分と同じ趣味の人が他にもいることを知った。
そこでは夢かと思うほど多種多様な映画音楽のLPが揃っており、最初に見つけた時は本当に目が回った。
カタログを貰ってきて毎日のように眺めた。

だがそれとて、今となっては以前ほどの価値をなさないだろう。
現在は驚くようなマイナーな作品の音楽CDが出ている。
恐らくあの時お店で見たアルバムはすべてCDで手に入るだろう。

世の中にマスターが存在しないと思われていた、何十年も前の作品の音源がひょっこりと出てくる。
今までどこに隠してあったのかと訝しく思えるほどだ。
サントラ・マニアにとっては夢のような話のはずだが、簡単に手に入るようになると、熱い気持ちが失せてしまうのは皮肉な話である。
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