100年前の記録


Z9 + NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

大きな画像

今年は関東大震災から100年ということで、発生した9月1日を中心に、地震に関する番組がいくつか放映された。
次の大きな地震がいつ起きてもおかしくない、という状況下で、国民の防災意識を高める意味もあるのであろう。

その中で、9月2日、3日に放映されたNHKスペシャル「映像記録 関東大震災 帝都壊滅の三日間」は見応えがあった。
前編と後編に分けて、2夜連続で放映されたのだが、なかなかの力作であった。
感心してしまい、アーカイブでもう一度見たほどである。

番組では、関東大震災が発生した当時に撮影された映像、生存者の証言の録音などをもとに、その時に具体的に何が起きたのかを解明していく。
特に凄かったのは、現代的手法を駆使して映像を解析していく工程だ。
フィルムを8Kスキャナーで読み取り、高精細化したデータを作り上げ、補修、カラー化することでリアリティを増す。
細部が読み取れるようになった映像データを分析し、今まで気付かなかった事実を次々に明らかにしていくのだ。

映像は震災直後の東京を撮影した記録である。
未曾有の大災害に直面し、その記録を何とか後世に残そうと考える人は出てくる。
地震の直後に大きなカメラを持ち出し、瓦礫の山や迫りくる火災の中を撮影していく作業は、簡単なものではなかったろう。
被写体となる人々も殺気立っており、混乱の中、何度か危ない目にも遭ったようだ。

しかしその記録は、貴重な情報を現代の我々に与えてくれた。
番組ではそれぞれの分野の専門家が集まり、フィルムが撮影された日時、場所といった情報を特定しいく。
高精細化した画像に浮かび上がってきた様々な情報・・看板に書かれた文字、背景の地形、建物の形などを手がかりとするのだ。
それを当時の地図、特に火災の広がって行った記録と結び付けていく。

消失前の建物が写っていれば、火が回る前に撮影されているのが分かる。
人々の足元に映った影の方向で、時間帯が判明する。
・・という具合に、映像を分析することで、多くの事実が判明していく。
そして何日の何時頃、東京のどの場所でどの方向を向いて撮影した映像であると、ピンポイントで特定していく。

地震の揺れによる直接の被害も大きかったが、その後にあちこちで発生した火災が、東京の中心部を焼き尽くした。
特に当日は風速10mの強い風が吹いており、火の粉が道の反対側の建物まで飛び、延焼していく様子が映像に残されている。
関東大震災の人的被害の九割は火災によるもので、火災から逃げ切れるかどうかが生死を分けたと言ってもいい。

地震の揺れを何とか生き延びて、ほっと一息ついた人達を、あちこちで上がった火の手が時間差で襲う。
広場に避難して、助かったと笑顔を見せる人たちの映像が残されている。
まずは震災から生き残ることが出来たと安心したのだろう。
しかしその数時間後、気付いた時には周りを火に囲まれており、多くの人たちが逃げ場を失い犠牲となった。

映像に写されている人々の表情や動きは非常に興味深い。
たとえば、広場に集まった群衆の中の数人が、ある方向に気を取られ、不安げにそちらの様子を見ているのが映っている。
少し離れた場所で発生した火災を見て、このままここにいて大丈夫だろうか・・と危険を感じ始めているのが分かる。
番組では場所や時間を特定し、また当日の火災の広がった地図とも照合し、人々がどこで起きた火災を見ているのかも解明していく。

また上野公園の東側にある線路上の広場に、大勢の人達が集まっているのを写した映像では、奥のほうに小さく、高台に梯子をかけて逃げ始める人が写っていた。
いち早く危険を察知した人達が、火に囲まれる前にその場から離れようとし始めているのだ。
実際に数時間後にはその場所は焼き尽くされるのだが、多くの人々が上野の山に避難することで命は失わずに済んだ。
不忍池に水があったお陰でポンプを動かすことが出来、火災を食い止めることに成功したのだ。

一世紀前の映像から、現代のデジタル技術を駆使することで、当時の状況が次々に明らかになっていく。
100年もの時間が経っているのに、今まで埋もれていた当時の様子が、最新の技術により浮かび上がってくるのに圧倒される。
人々の表情がはっきり分かることで、当時の生活が急激に身近でリアリティのあるものへと変わってく。

何よりも目の前に迫った次の震災に、この映像から得られた教訓を、我々は活かしていかなければならないのだ。
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