エルメスの道

 
Z7 + NIKKOR Z 85mm f/1.8 S
 
 
 
「エルメスの道」というコミックが面白い・・という記事をネットで見て取寄せてみた。 
ご存知エルメスというブランドの歴史を描いた漫画である。
 1997年の出版なので、もう20年以上も前の本だ。
ベテランの竹宮恵子氏が描いている。 
 
前書きや後書きを読むと、エルメス社の160周年の記念として、日本の漫画文化に共鳴したエルメス側から社史を漫画で出版したいというオファーがあったようだ。 
馬に乗れるマンガ家という条件をつけたのだそうだが、それに対し竹宮恵子氏に白羽の矢が立ったという。
 当人も企画を見て自分なら描ける・・と思ったそうだが、品質こそ命のエルメスであるから、要求は厳しかったようで、だいぶ大変な仕事だったらしい。 
 
物語はナポレオンの時代から始まり、エルメス社の設立から現代に至るまでの長い歴史が描かれている。
それは紆余曲折の日々であり、事実に基づいているだけに普通の漫画とは違う迫力がある。 
馬具作りから始まったエルメス社は、交通手段としての馬が車に取って代わられた時点で、当然生きるか死ぬかの大きな転換を迫られる。 
 
ものづくりの会社が時代に翻弄されながらも生き残っていく姿は、個人的に共感を覚えた・・というか、規模やレベルは違っても自分の日常そのものである。
時代の大きな変化への適応、職人気質と営業部門とのぶつかり合い、新しい価値観の受け入れ、次の時代を読むセンス、それに恐らく「運」・・・
何度か危機に瀕しながらも、その都度新しい方向に舵をとり生き残ってきた同社の歴史を見ると、あれほどのブランドでもやはりそういうところを乗り越えてきたのかと感心する。
 
ブランドを作り上げることが、いかに大変な事であるかは日頃痛感している。
高品質なものを作る・・というだけならば、ひたすらに努力すれば出来ることなのだが、それによって生まれる世の中からの信頼・・すなわちブランド力を得ることは、とてつもなく大変なことなのだ。
何代にも渡って、同じ思想に基づいて団結し、歯を食いしばってやり続けなければならず、その上時代の変遷に合わせて常に生まれ変わるセンスも必要とされる。
それこそ、自分が死んだら次の世代に託して・・の繰り返しによって作られていくのだ。
 
今回この本を読んでみて、漫画という媒体の持つ力も感じた。
興味深い内容ではあるが、人の会社の歴史をこれだけの量、文章で読めと言われたら、よほどエルメスが好きな人でなければ途中で投げ出すであろう。
それがほんの2時間ほどで気軽に読めて、しかも全体像はきっちりと理解してしまうのだから、これは大変なことである。
 
その上ちょっとエルメスの商品が欲しくなるのだから凄い。
Mrs.COLKIDに読ませたら「あなた(エルメス傘下の)ジョン・ロブの靴は持っていないの?」と聞かれた(笑)
(ちなみに当人はけっこうエルメスの製品は持っている)
僕自身は漫画をまったく読まなくなってから久しく、今回何年ぶりかで読んでみたのだが、改めて特殊なパワーを持つ媒体であると感じた次第である。
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