蛍光ペン

Z7 + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

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毎朝乗る電車で、ちょっと変わった男性と乗り合わせる。
その男性は、僕が降りる二つほど前の駅から乗ってくる。
それで僕と同じ駅でその男性も降りる。

僕はホームからエスカレーターで上にあがるのだが、その人は階段を駆け上って、僕より先に上の階に行く。
そこでゴミ箱の前に立ち、何やら紙袋をカバンから取り出して、ゴミ箱の中に捨てるのだ。
それだけでまたホームに戻ってしまう。

そこから先の行動は見ていないので分からないが、どうも次の電車に乗るようだ。
つまりゴミを捨てるだけのために、一度電車から降りるのである。
毎日のようにそれを繰り返している。

40歳代くらいの痩せた男性である。
いつ見ても顔色が悪く、髪の毛はオールバックで持ち上げている。
そのオールバックが不健康そうな顔に似合わなくて異質な感じを受ける。

面白いのは着ているシャツで、鮮やかな蛍光色のオレンジ色のティーシャツなのだ。
それも毎日必ずそのシャツを着ている。
まったく同じ色の同じ形の半袖のティーシャツである。

そればかりか、カバンと靴もやはりオレンジ色で、ティーシャツと色を合わせている。
よくぞ見付けたなと思うような色である。
この人よほどオレンジが好きなんだな・・と思っていた。
まさか何ヶ月も同じシャツを着るわけにいかないだろうから、オレンジ色のティーシャツをいくつも持っているのだろう。

どうしても奇異に思えて、最初はその人物の行動を目で追っていた。
すると先方もそれに気付いたらしく、逆にあちらがこちらの事を意識するようになった。
そのうち僕より先に駅の2階に行き、上ってきた僕とすれ違う際に、僕の方をジーッと見るようになった。
気味が悪くなり、以降こちらからは一切見ないようにして、あなたには興味は無いというふりをしている。

一度その男性の動きが乱されたことがある。
サミットが開催された期間に、テロ対策としてゴミ箱に覆いをかぶせて、ゴミが捨てられないようになってしまったのだ。
ゴミ箱の前まで一気に行った男性は、封印されたゴミ箱を見て、硬直して停止状態になってしまった。
かなりショックを受け、顔には強い動揺が表れている。
何となく予想していた通りの反応であった。

その後またゴミ箱は通常の状態に戻されて、男性もいつもの行動パターンを繰り返すようになった。
そのまま数ヶ月が過ぎたのだが、ほんの数日前、その男性は突然シャツの色を明るいブルーに変えた。
やはり蛍光色の彩度の高いブルーである。
しかもそれに合わせてカバンと靴の色もブルーに変えたのだ。
以降毎日そのブルーのシャツを着るようになった。

ここまでくれば立派である。
恐らくその男性なりのこだわりなのだろう。
男性が同じ色のティーシャツを大量に買う姿が頭に浮かんだ。

それにしても蛍光色が好きな人だ。
事務所で蛍光ペンのセットを見た時に、次のティーシャツはピンクか黄色だろうか・・と考えた。