刑事ルーサー


Z7 + NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

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NHKのBSで毎週土曜日に放映している「刑事ルーサー」を観ている。
現時点では本国(英国)ではシーズン5まで作られているようだ。
すでに日本でも有料チャンネルで放映されており、アマゾンプライムでも無料で観ることが出来る。

英国BBC製作の質の高い大人向けのドラマである。
主人公のジョン・ルーサーは大柄な黒人の刑事で、イドリス・エルバが演じている。(この作品でゴールデングローブ賞を受賞している)
舞台はロンドンで主人公はロンドン警視庁の重大犯罪捜査課の刑事。
心理分析の天才で、犯人の行動や言動、犯行現場の状況などから犯人像を解明していく。
少々暴行を受けたり銃で撃たれても平気な頑強な体と精神力を持ち、体を張って犯人を追いかけていく。

製作も舞台もヨーロッパであるところが、この作品の独特の雰囲気を醸し出しているのだろう。
アメリカのテレビドラマとはちょっと異なる重く陰鬱な空気が、ドラマ全体を覆っている。
近年米国のドラマも飛躍的に質が向上しており、その理由の多くはリアリティの向上にあるような気がする。
それがヨーロッパが舞台だとこうなるのか・・という感じだ。

古い建物の中で感じる特有の臭い・・・
殺人現場の床に溜まった大量の血液・・・
そういった生々しい感触が、映像から滲み出てくる。
ヨーロッパに行くと感じられる重く暗い空気が、画面全体に濃厚に漂っているのだ。

このドラマをもっとも特徴付けているのは、「善悪の基準の曖昧さ」であろう。
主人公のルーサーは違法ギリギリ・・というか、違法側に一歩足を踏み入れた行動を取る。
より大きな正義を行うためであるとしても、証拠を捏造したり、死体を隠したり・・といった、常識的な刑事ドラマの主人公では許されない事を平気で行う。

その上情緒不安定で、時に署内で暴れてものを破壊したりする。
ルーサー自身が犯人と疑われて指名手配されることもあり、毎回ギリギリの危なっかしい展開となる。
これでいいのか?という疑問も残り、人によっては受け入れられないストーリーかもしれない。

上司もルーサーの天才的な能力や行動力を買いながらも、一方で暴走しがちな部下を疑い危険視している。
凶悪な犯罪に対抗して犯人を追い詰めていくためには、多少法を犯すことも厭わず、ルーサーはたびたびその一線を越えてしまう。
署内でも彼に協力するものと反発するものに分かれる。
主人公が完全に破滅型の人間で、しかも警官という職業に固執していないため、半ば自暴自棄な行動を取ることもあり、自らを不味い方向へと追い込んでいってしまう。
彼に関わった人々の多くも、結局は破滅に追いやられていく。

どこまでを正義と捉えるべきか、判断が難しいドラマで、そういう意味でもリアリティがある。
勧善懲悪であった過去のドラマの型を突き破っており、見る側にもそれを許容する適応力が求められる。
救いはルーサー自身が常に人に対する大きな愛情を持ち、それをベースとして行動していることであろう。

また猟奇的な殺人や大量殺戮の犯人との対決となるため、凄惨な現場の描写が多く含まれる。
同じような血生臭い場面を描いても、米国製ドラマより暗く寒々しい感触が強くなるのは、歴史的な重みの違いであろうか。
NHKの放映で、ショットガンで撃ち殺した犯人の遺体がアップになるシーンで、傷口にぼかしが入ったため、驚いてアマゾンプライムで確かめたところ、オリジナルには入っていなかった。

Mrs.COLKIDはこの作品を「病んでいる」と言って嫌がる。
しかし僕はなかなかの傑作と思い観ている。
二人の評価が真っ二つに分かれた珍しい作品でもある。
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