酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「リッキー足立のコスタリカ・トーク~〝まぼろしの鳥〟ケツァールを求めて」に参加して

2017-02-27 22:56:22 | カルチャー
 将棋のA級順位戦最終局で稲葉陽八段が森内俊之九段を破り、8勝1敗で佐藤天彦名人への挑戦を決めた。20代対決の名人戦は21年ぶりだ.当時の対局者、羽生善治3冠は今期の勝率が5割5分弱、もう一人の森内はB級1組陥落と、世代交代の波が押し寄せている。

 俺が楽しみたいのは盤上の闘いだが、盤外がざわついている。三浦弘行九段のソフト不正疑惑問題を巡る騒動は収まる気配がない。本日の棋士総会では3人の理事が解任された。この際、外部の有識者を招き、再生の道を歩むべきだと思う。

 棋界の内紛、安倍晋三小学校(塚本幼稚園)、トランプ暴走……。「リッキー足立のコスタリカ・トーク~〝まぼろしの鳥〟ケツァールを求めて」(高円寺グレイン)に参加して、憂鬱な気分が一瞬晴れた。足立力也氏は「丸腰国家~軍隊を放棄したコスタリカ 60年の平和戦略」(扶桑社文庫)などで知られるコスタリカ研究家だ。留学を含め何度も当地を訪れており、政治家にも知己は多い。

 足立氏を知ったのは一昨年のグリーンズジャパン総会だった。「丸腰国家」再版を報告し、「この出版社(扶桑社)には異質の本です」と笑いを取っていた。「コスタリカ・トーク」には志葉玲氏(ジャーナリスト)も娘さんとともに足を運んでいたが、野鳥の会などバードウオッチャー、自然愛好家が多くを占めていたこともあり、政治抜きの穏やかな会になった。

 グアテマラの国鳥であるケツァールをはじめ、中米は野性動物の宝庫だ。とりわけコスタリカの雲霧林に棲息するケツァールは評判を呼び、重要な観光資源になっている。「火の鳥」(手塚治虫)のモデルになったようにカラフルな容姿はひときわ目を引く。周到に準備していただけあって、足立氏が撮影したレアな画像と映像に、野鳥の会の人たちも感嘆の声を上げていた。ケツァールは薄暗い雲霧林に同化せず、カラフルな彩色を施したかのようだ。

 雲霧林にはケツァール以外にも、昆虫、両生類、サル類など珍しい種が棲息している。微笑ましいのはホバリングを繰り返すハチドリで、親近感を覚えるのがナマケモノだ。一日に20時間眠り、週に1回、排泄のために木から下りるという。俺の前世、いや来世かもしれない。弱肉強食の掟より、共存と共生の志向を感じたのは俺だけだろうか。

 「丸腰国家」について簡単に紹介しておく。今後、憲法や平和を論じる稿で、日本と重ねて言及することになるだろう。コスタリカに軍隊は存在しない。国境警備隊、警察を〝疑似軍隊〟と見做して論じる向きもあるが、コスタリカ人にとって、<軍事化>とは軍隊で見られる暴力性、上意下達と集団化を指す唾棄すべき言葉なのだ。

 本書は足立氏の〝青春日記〟風の味わいもある。足立氏は中学時代の公民の授業でコスタリカを知った。「コスタリカ人は、軍隊がないことが最大の防衛力と考えている」という新聞記事の切り抜きに受けた衝撃が冷めず、コスタリカに留学することになった。博士課程1年目、スペイン語が堪能ではないのに、哲学が必修科目に含まれていた。悪戦苦闘するうち、足立氏は社会科学、人文科学を学ぶ上での道筋を体得する。

 コスタリカを含む中米は〝火薬庫〟といっていい紛争続発地帯だ。権力者を思いのまますげ替えるアメリカの力をコスタリカは利用し、自国が民主主義国であることを欧州各国に印象付ける。巧みな外交に加え、徹底した平和教育で、平和と非武装はコスタリカ人の〝内在する価値観〟になる。

 足立氏が街行くおばさんに「平和とは何?」と尋ねると、「自由」と返ってくる。日本の小学5年生に「平和で連想する言葉は何?」と聞くと対語である「戦争」が返ってくるが、同年齢のコスタリカの子供からは「民主主義」「人権」「環境」「愛」と多彩な答えが返ってくるという。

 生物多様性、環境保護を早い段階から政策に取り込み、教育費と医療費が無料のコスタリカは、果たしてパラダイスなのか……。実態を知る足立氏の答えは「NO」だ。役人の腐敗、麻薬の蔓延、格差と貧困の拡大、公共サービスの質の低さなど、問題点は数え切れない。それでも、日本が学ぶことは多い。最たるものは<自由の気風>かもしれない。

 終了後、志葉氏と話す機会があった。劣化ウラン弾が投下され、ヒロシマ、ナガサキを彷彿させる状況を現出させたファルージャ空爆について、小泉純一郎元首相に問いただした時の様子を尋ねた。<小泉氏は脱原発を語る資格はない>と決めつけていたが、志葉氏によれば、バツの悪そうな表情を浮かべていたという。心の内の悔悛が、小泉氏を脱原発に駆り立てているのかもしれない。
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