酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ヒトリシズカ」~結末に心が濡れるミステリー

2012-12-06 22:32:47 | 映画、ドラマ
 俺の中で、「悪夢」と題されたミステリーが進行中だ。6日付の主要紙に総選挙の情勢分析が掲載されていた。原発を推進し、格差を拡大した自民党が、政権の座に返り咲くらしい。日本人は<3・11>から何を学んだのだろう。日本人は踏みにじられ棄てられる快感に痺れるマゾヒストなのか。俺はもちろん、どんでん返しの望みを捨ててはいない。人を信じる気持ちを失くしていないからだ。

 鮮やかな結末を迎えるミステリーを見た。WOWOWで放映された「ヒトリシズカ」(誉田哲也原作、全6話)である。宿命と意志、絆と孤独を追求したドラマで、時を行き交う物語を再現するには270分が必要だった。今年映像化されたミステリーで「ヒトリシズカ」を超える作品はあっただろうか。

 夏帆が10代半ばから30代前半までの伊東静加を演じている。通常なら主演は出ずっぱりだが、本作の静加はセリフが少なく、物語を綾なす透明の糸といった感じだ。関連のなさそうな複数の殺人事件の陰に、ひっそり静加が寄り添っている。偶然によって手繰り寄せられたかに思えたが、ストーリーが遡行しつつ進行するにつれ、静加の意志が見えてくる。

 最初の殺人事件の8年前、警察署内で起きた拳銃を巡る不祥事が起点になっていた。3人の当事者、静加の父(岸部一徳)、私立探偵(長塚圭史)、暴対課刑事(松重豊)が、ストーリーに大きく絡んでいる。ラストの慟哭に繋がるのが、静加の母(黒沢あすか)の悲しい過去だ。複数のプリズムで屈曲する物語の核に、家族の崩壊と絆が据えられている。静加の志向を明らかにする肝ゼリフも用意されていた。善と悪、罪と罰の境界に関わる静加の言葉に、両親は愕然とする。

 静加のプランを実行する周到さ、危機に即座に対応する果断さ、他者の死を平然と見つめる冷酷さに衝撃を受けるが、彼女を支配するのが熱い感情であることが明らかになってくる。憎悪は愛の裏返しでもある。極限に達した愛に一滴の狂気、そして孤独が垂らされたら、人間を衝き動かすマグマが発生する。

 上記の松重に加え、不気味な刑事を演じた新井浩文の個性が光っていたが、最終話で緑魔子が放ったオーラに圧倒された。演技を超越し、緑の人生がそのまま表現に結びついている。階段を踏み外した者たちの終着駅ともいえる安アパート経営者の役で、逃げてきた姉妹に手を差し伸べる。15年後、静加と澪の絆は完結し、俺の心はカタルシスで熱く濡れた。

 開局以来、WOWOWに親しんでいる。サッカー、ボクシング、映画、舞台と豊富なアイテムを誇っているが、ドラマの充実ぶりも素晴らしい。高村薫ファンとして待ち遠しいのは来年3月、シリーズで放映される「レディ・ジョーカー」だ。作品の根底にある差別問題にどこまで踏み込んでいるのか気になるところだ。
コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする