酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「獅子座」の衝撃~“アウトボクサー”ロメールに食らったKOパンチ

2008-10-20 00:10:56 | 映画、ドラマ
 ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、クロード・シャブロル、アラン・レネ、ルイ・マル……。

 ヌーヴェルヴァーグで思い浮かぶ監督を挙げてみたが、エリック・ロメールを忘れるわけにはいかない。シネフィル・イマジカとWOWOWが相前後して特集を組んでくれたおかげで、未見だった作品に触れることができた。

 スタイリッシュで緊迫感ある恋愛心理劇の「モード家の一夜」(69年)、絶え間ない少女の会話に引き込まれる「レネットとミラベル/四つの冒険」(86年)に感銘を受けた。全体の印象は淡々としたアウトボクサーだが、デビュー作「獅子座」(59年)にKOパンチを食らう。主人公ピエールの転落が我が身とオーバーラップし、忘れえぬ作品になった。

 ピエールは自称作曲家の中年男で、気質が俺とよく似ている。その日暮らしの怠け者で、根拠のないプライドが時に人生の邪魔になる。旺盛なサービス精神は、他者依存の証といえるだろう。ピエールは伯母の遺産を相続し損ね、路上生活者になる。

 偶然出会った知人に「金持ちの友達が大勢いたろ」と嫌みを言われ、「バカンスか、死んだか、蒸発したよ」と答える。落ち目の者に近づかないのが古今東西、世の定めだ。唯一ピエールの身を案じた記者のジャンは、海外出張から帰国後、消息を尋ねて回る。

 ピエールがパリを彷徨う30分が長くて濃いハイライトシーンだ。自身の享楽的な生き方を許容してくれた街に、「何たる猥雑さ、汚らわしいパリ」と呪いの言葉を吐く。堅実な生活を嗤った罰なのか、飢えを癒やすために羞恥心を失い醜態をさらす。背景に流れるバイオリンの不協和音がピエールの不安と葛藤、世間への違和感を表現していた。

 精根尽きたピエールを救ったのは大道芸人のホームレスで、コンビで演じる寸劇はカフェで大喝采を浴びる。同業の老人から借りたバイオリンを奏でた時、ピエールの運命が一変した。

 お蔵入りした本作は完成3年後に公開された。当初は低評価に甘んじたロメールだが、その後は冒頭に記した監督たちを凌駕する足跡を映画史に刻んでいる。

 最後にあれこれ雑感を。POG指名馬ダイワバーガンディは4着に敗れ、大波乱の秋華賞にはため息を吐くしかなかった。競馬の不調は相変わらずだが、悪いことばかりでもない。大銀座落語祭で「居残り佐平次」に聞き惚れた柳家権太楼をBS-で満喫し、将棋竜王戦をネット中継で堪能する。充実した日曜日だった。

 次回はシーズン7を迎える「相棒」について記すことにする。




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