酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

左京再論~「日本沈没第二部」

2006-09-24 00:27:32 | 読書
 「日本沈没」の続編が、33年の歳月を経て発刊された。小松左京のアイデアを基に数人のSF作家が構想を練り、谷甲州が執筆した。<チーム小松>による作品というべきだろう。

 400万部を売り上げた空前のベストセラー「日本沈没」を最高傑作と思い込んでいる方も多いが、左京作品ではせいぜい標準レベルである。期待しないで読んだ続編も「想定内」というのが率直な感想だ。以下に簡単に内容を記したい。

 国土消滅後、日本人は世界中に散らばり、中央政府はオーストラリア・ダーウィンに置かれている。パプアニューギニアでジャングルを開拓する移民、中央アジアで政治の波にもまれる難民が、苦闘する日本人の象徴として描かれている。日本海をめぐる中国との軋轢、エゴむき出しのアメリカの姿も、現実さながら盛り込まれていた。日本人が生き残る手段として、技術の粋を結集した<地球シミュレータ>が完成する。日本政府が講じた策は果たして……。

 姜尚中東大教授は、アメリカ追随の日本が<アジアのイスラエル>になりつつあると論じていた。<チーム小松>は本作で、流浪する日本人をユダヤ人と重ねて描いている。ユダヤ人とはユダヤ人の母から生まれ、ユダヤ教徒であること……。中田首相はユダヤに倣い、日本人を狭隘なアイデンティティーで束ねることを試みた。現実の政治でも同様の流れが進行している。安倍新首相は憲法と教育基本法の改正により、ナショナリズムの確立を目指しているからだ。

 国家ではなく組織原理に支配されがちな日本人の志向、異文化への柔軟な対応を勘案した鳥飼外相は、コスモポリタニズムの立場から中田首相と対立する。ナショナリズムとコスモポリタニズムのいずれに立脚すべきか、国家とは、民族とは……。<チーム小松>は結末で、自らの立ち位置を提示している。「日本沈没第二部」はテーマ性とスケールを併せ持つ作品で、特異の状況下に多くの登場人物を配しており、3倍以上のボリュームが必要ではなかったか。

 読了後、別稿(昨年11月29日)で紹介した「極冠作戦」(67年)を思い出した。環境破壊、地震の頻発、中国の台頭、利潤追求のみに邁進するアメリカ、権力ヘの盲従と知性の低下など、40年後の現在を高い精度で予測した作品である。

 小松左京の神髄に触れたいなら、「物体O」、「時の顔」、「夜が明けたら」、「結晶星団」(いずれもハルキ文庫)などの中短編集がお薦めだ。極大と極小を繋ぐ透明の糸が張り巡らされ、ホラー的要素もふんだんにちりばめられている。
コメント (2)
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