弁理士の日々

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審査基準案に意見提出

2007-01-23 22:10:37 | 知的財産権
現在、特許の新しい審査基準案に対してパブリックコメントが求められています。私は以下の意見を特許庁に送りました。

----意見の内容-----
    改訂審査基準(案)への意見
  「発明の特別な技術的特徴を変更する補正」の審査基準(案)について
                     平成19年1月20日

 以下、改訂審査基準の「第2章 発明の単一性」を「単一性基準」、「第Ⅱ節 発明の特別な技術的特徴を変更する補正」を「シフト補正基準」と略称する。

1.発明の特別な技術的特徴を変更する補正
 以下のような事例について考える。ここで「A+B」とは、「A&B」を意味し、「A or B」を意味するものではない。
[出願当初]
[特許請求の範囲]
 請求項1:A+B
 請求項2:A+B+C
[発明の詳細な説明の記載]
 構成Aは好ましくはA'、より好ましくはA"である。
 構成Bは好ましくはB'、より好ましくはB"である。
 構成Cは好ましくはC'、より好ましくはC"である。

 審査の結果、請求項1に係る発明は特別な技術的特徴を有しないと判断された。
 請求項2に係る発明は請求項1に係る発明に構成Cを付加した発明であって、請求項1に記載された発明の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの発明であり、かつ構成Cの付加は技術的な関連性の高い技術的特徴を付加したものであり、具体的な関連性も高いものである。従って請求項2は審査対象となる(単一性基準4.2)。
 請求項2に係る発明は、進歩性がないとして拒絶理由の対象となった。この場合、請求項2に係る発明が特別な技術的特徴を有していると判断されても、有していないと判断されても、どちらでも良い。

 補正を行うに際し、請求項1に係る発明が特別な技術的特徴を有していなかったので、シフト補正基準4.3に従って補正要件を検討する。
 請求項2に係る発明に特別な技術的特徴が認められた場合はシフト補正基準4.3.1、認められなかった場合は同4.3.2に従うが、いずれであっても、補正後の請求項①の発明が、「補正前の請求項2に係る発明の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの請求項」に該当すれば、補正後の請求項①が審査対象となる。

 従って、補正後の請求項①に係る発明が例えば
 請求項1:A+B+C'
であれば、この請求項は審査の対象となる(シフト補正基準4.3)。

 しかし、補正後の請求項①が
 請求項1:A+B"
であった場合、補正後の請求項①が補正前の請求項2の発明特定事項をすべて含むものではないので、審査対象とならない(シフト補正基準4.3)。

 設問のような事例の場合、元の請求項1の下位概念を最初からクレームアップしようとすると、A'+B、A+B'、A'+B'、A"+B、A"+B'、A+B"、A'+B"、A"+B"と果てしない組み合わせが存在する。このような場合、出願当初の特許請求の範囲では請求項1:A+B のみとしておき、審査の結果公知文献が明らかになったところで最適な減縮を図る補正を考えるものである。
 一方、A+BにCを外的付加した発明A+B+Cも重要であるなら、これを請求項2とするであろう。

 新審査基準によると、当初の請求項1に特別な技術的特徴が認められなかった場合には、請求項1を減縮する補正が認められないこととなる。もし元の請求項1を減縮した発明を特許化する可能性があるのなら、最初から可能性のあるすべての減縮発明をクレームアップしておくか、あるいは拒絶理由通知を受けたときに最初から分割出願を覚悟するか、のいずれかが要求されることとなる。これでは出願人に過度に負荷をかけることになるのではないだろうか。

 せめて、「請求項1に特別な技術的特徴が認められない場合」であっても、元の請求項1を減縮する発明(限定的減縮のみに限っても良い)に補正することは認めるべきであると考える。
 その場合、「請求項2についても、補正後の請求項①と直列的関係を有するように補正しないと審査対象から外す」という扱いであっても構わない。

2.発明の特別な技術的特徴の有無の表示
 審査した請求項のうち、どの請求項に係る発明が発明の特別な技術的特徴を有していたのか、という事項は、補正の範囲を定める重要な事項である。上記1.の事例でいえば、元の請求項1に発明の特別な技術的特徴が認められるのであれば、A+B"とする補正が認められる。
 拒絶理由通知において、審査官が判断した請求項毎の発明の特別な技術的特徴の有無はどのように表示されるのであろうか。その点が新審査基準では明確でないように思われる。
 新審査基準において、拒絶理由通知の中で請求項毎の発明の特別な技術的特徴の有無を明示するよう、定めて欲しい。

3.発明の特別な技術的特徴の有無の判断
 単一性基準の第3ページ第3行(注3)では、
「「発明の先行技術に対する貢献をもたらすものでないことが明らかとなった場合」とは、「特別な技術的特徴」とされたものが先行技術の中に発見された場合のほか、一の先行技術に対する周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合や、単なる設計変更であった場合が含まれる。」
とされている。
 これによると、
(1) 新規性を否定する公知文献が発見された場合には特別な技術的特徴を有しない
(2) 進歩性が否定される場合、一の先行技術に対する周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合や、単なる設計変更であった場合には、特別な技術特徴を有しない
(3) 進歩性が否定される場合であって上記(2) 以外の場合には、特別な技術的特徴を有する
と区分されるように推察される。このように理解してよろしいであろうか。
 もしこの通りであるのなら、審査基準の中でこの点をわかりやすく明示して欲しい。違うのであれば正しい基準をやはり審査基準の中でわかりやすく明示して欲しい。

4.発明の特別な技術的特徴の有無の判断に対する反論
 拒絶理由通知における審査官の判断に対して、出願人が反論したい場合がある。例えば、
「請求項1に係る発明は新規性を有する」「請求項1に係る発明は進歩性を有する」「請求項1に係る発明が進歩性を有しない点については承服するが、特別な技術的特徴は有する」のように。
 このような反論をどのように展開することが適切であり、審査官はその反論に対してアクションの中でどのように対応するのか、という点について、新審査基準のの中に明記して欲しい。
----以上-----
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