大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2015年03月10日 | 写詩・写歌・写俳

<1282> 春 の 雪

      春の雪 雪雪雪雪 花に降る

 予報通り厳しい寒の戻りになって、今日十日の奈良大和は雪模様の一日となった。この寒さの日中、奈良市内を歩いた。ときおり雪雲が空を被い、激しく降った。梅や馬酔木が花の時期で、花と降る雪の組み合わせがそこここに見られた。梅の花に降る雪と言えば、天平二年正月十三日に太宰の帥大伴旅人が自邸に客人を招いて宴を開き、三十二人が一首ずつ梅花の歌を詠み合ったことが『万葉集』巻五に見えるが、その中の一首に主人旅人が披露した「わが園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも」という(822)の歌が思い浮んで来る。

                

 太宰府の梅と言えば、後の菅原道真も有名で、当時は左遷という気分が強くあったと見られ、都から遠く離れた地にあったという点において言えば、旅人にしても道真にしても同じような心境にあったのではないかと想像される。道真には道真を祀る京都北野の天満宮の梅が思われる。「東風(こち)吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな」と詠んだと言われる逸話によって、道真と梅の花、梅の花と天満宮は切っても切れない間柄になった。私は嘗て、北野天満宮で薄紅梅に雪の積もる風景を撮ったことがあるが、ちょうど入試の時期で、学問の神さまである道真に願をかけるため、天満宮にはこの時期になると合格祈願の絵馬が沢山寄せられる。という意味合いもあって、次のような歌を作ったのであった。

     雪を積む 薄紅梅のその花の 薄紅なるを 春と呼ぶべし

     絵馬に春 願ひつつある傍らに 白梅が咲く 紅梅が咲く

 そして、次ぎのような短文を付した。「太宰府天満宮の拝殿前には、道真を慕って都から飛んで来たという飛梅なる一木がある。もちろん、話はフィクションであるが、道真ファンの心情が飛梅なる一木を企図させたのに違いない。飛梅の花はいまだ拝見したことがなく、白梅か紅梅か定かでないが、私は白梅だと思っている。道真の時代にはまだ紅梅の登場はなく、九十年ほど後の清少納言の『枕草子』を待たなければならない。ということで、飛梅は紅梅では拙いということになる。それに紅梅だと恋歌のイメージになって、道真の心情にふさわしくないように思える。で、私は白梅だと思っているのであるが、飛梅というのは何か切ないような気持ちにさせる一木ではある」と。 では、今一句。 葱買うて 帰る背に降る 春の雪  写真は薄紅梅に降る春の雪二題 (奈良市内で)。