魯生のパクパク

占いという もう一つの眼

宝刀切口

2024年05月26日 | 日記・エッセイ・コラム

NHKは何かとLGBT問題を取り上げ、ドラマ化にも熱心だが、これまでどれも「異議あり!」と言いたくなるような勘違いが含まれていた。それは、当事者を含め世間一般のLGBT、ジェンダー認識の浅さ同様に表面的な事柄に終始しているからだ。
究極の「人権」や「人格」が、どこかに忘れられてきた。
ところが、今回の『VRおじさんの初恋』は、ほぼ完璧だった。

原作を無視したドラマや映画が問題になり、原作者が自殺する事件まで起きた。
しかし、原作の思いというものは、リメイク作品に必ず残ると信じている。
フィクションが嫌いで、大人になってからは、ほとんど読まない。小説など、他人の世界を強制的に聞かされる気がするからだ。
飛ばし読みや拾い読みでは、ストーリーは解っても、作者の思いは解らないから、活字のストーリーは一言一句、作者の気持ちを推量しながら読むので、疑義があってもその世界から抜けられない。だから結局、読まない。

ところが、よく知っている小説が映像になると、原作のイメージとは異なる世界なのに、テーマだけはちゃんと存在している。なぜか、どんな表現方法でも原作の思いは伝わってくる。映画やドラマとしては粗雑なものであっても、制作者が理解していれば、あるいは、その作者や作品に惚れ込んでいれば、原作がそこにある。
だから、イメージが壊れるから映像は見ないという人は、作者とどんな会話をしているのか不思議に思う。

他のジャンルのリメイクに作者の思いが残るのは、おそらく、原作者が切り取ったモチーフこそが、作品の存在理由そのものだからなのだろう。
『VRおじさんの初恋』は、原作者ともしっかりコンタクトをとりながら、かなり丁寧に作られたそうで、原作にはなかった話まで加えられたようだ。NHKらしい余計な配慮だと思うが、シュガーを入れなければコーヒーを飲めない人もいるから、これはこれで良かったと思う。

仮想現実によってジェンダーを剥ぎ取り、「人格と人格」が直接ふれ合うということがどういうことか、これほど解りやすく見せてくれた作品はこれまで無かったのではなかろうか。原作のマンガを見ていないので、何とも言えないが、原作では読みたい人しか読まなかったかもしれない。
朝ドラ同様、NHKお得意の世間話化で、誰でもが視聴し続け、あからさまなジェンダーを掲げることなく、おおいに世の認識を新たにしたのではないか。

この作品は、関係者の気合いもさることながら、やはり、原作者の切り取った断面が鋭かったのだろう。原作者がどう目論んでいたのかは解らないが、八岐大蛇から出てきた剣のように、意図せずしてとんでもない宝を切り出したような気がする。


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